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7-15 金色の毛並み

 獣人王朝アニニマ国内には太古の遺跡群がある。これは白黒時代から存在する建物であり、歴史的価値がとても高かった。その中でも一つだけ巨大な遺跡がある。


 巨大な遺跡は研究により大昔の神獣崇拝の教会であると判明した。その証拠に神獣を崇拝する祝詞や貢物がいくつも発掘された。


 そこへ獣人王であるラクジャが訪れていた。ラクジャは周りを見渡し誰も居ない事を確認すると遺跡の奥へと進んでいく。長らく誰も訪れていなかったのか通路や飾り物に埃が溜まっていた。


 すると神獣崇拝の中心なのか祭壇が見え始めた。だが、その祭壇の真ん中に穴が開いていた。ラクジャは祭壇の穴に不思議な紋様が書かれている棒を入れる。その瞬間、祭壇は音を立てながら移動し、地下へ続く階段が現れた。


 ラクジャは階段を降りる。階段を降り、地下に着くとそこには金色の光を発している一匹の狼が居た。


 その狼は地面に丸まっていたが足と首に鎖が繋がれ、自由な身動きが取れない状況になっていた。


 金色の狼はラクジャが来たことに気付くと頭を上げ、ラクジャを睨んだ。


「ふん。愚か者の末裔が何の様だ?」


「愚か者は貴様の方だろう?今日は聞きたいことがあってここに来た」


「聞きたいこと?この俺が素直に教えると思っているのか?」


「思っていないさ。だかやり方ならいくらでも思い付く。教えてくれるなら今の内だぞ?」


「やってみろよ、下等種!」


 金色の狼はそう叫ぶと立ち上がり、咆哮する。ラクジャの体は金色の狼の咆哮だけで後ろにある壁まで吹き飛ばされる。


「この程度で俺に命令するなど!身の程を弁えろ!」


 ラクジャは金色の狼の咆哮に苦しみながらも立ち上がる。


「最高純度の魔吸石とオリハルコンで作られた鎖で縛ったとしてもこの力とは……しかも昔に貴様から力を奪ったというのに……流石は神獣と呼ばれた獣だな」


「この程度で俺を測れるとは気楽な脳みそで羨ましい」


「勘違いしてるがこの程度何も痛くない。気楽な脳みその持ち主はお前の方だ!」


 ラクジャは紋様が書かれている棒を地面に突き刺す。すると、今まで付いていなかった篝火全てに火が付き、暗かった地下を明るく照らす。


 ラクジャの持っている紋様の書かれた棒に神獣と呼ばれた狼は見覚えがあった。


「天の釘……見つけていたのか」


「時間は掛ったがな。だがこれで貴様を思い通りに動かせる」


「バカか?それは高潔な思いを持つ者のみが真価を発揮する。貴様がそれを使いこなせると思っているのか?」


「知っている。だから言ったろ?御せるのは俺だけだと!」


 ラクジャは再び天の釘と呼ばれた棒を地面に突き刺す。その瞬間金色の狼を縛っていた鎖に電流が流れ、金色の狼に直撃する。


「俺に力を奪われる前のお前なら痛くもなんともない。だが今のお前にとっては十分な痛みだろう?」


 ラクジャの言う通り金色の狼は痛いのか全身を震わせていた。


「取り敢えず聞きたい事を言う。お前の末裔である喰狼族は帰って来るのか?」


「カカカ!こんなくだらない事の為に天の釘を使ったのか?とことん愚かだな!良いだろう!教えてやるよ。俺の直系の親族である喰狼族は必ず帰り貴様の喉笛を食いちぎるさ!」


「そうか……もう十分だ。じゃあな」


 ラクジャは地面から突き刺した天の釘を引き抜き地上へ帰って行った。


「偉ぶるのも今の内だ……喰狼族が蘇るのは絶対だからな」


 金色の狼はそう言いながら再び眠りに入る。だが、金色の狼は気付いていなかった。自身から黒い煙が溢れていることに。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 深い眠りから目が覚めたリラは周りの状況を確認する。最後の記憶では穴だらけの廃墟に逃げ込んだ筈だが、現在は糸で隙間や窓が覆われ風を通さない快適な廃墟になっていた。


 一夜にしてこの廃墟の変わり具合に廃墟の近くに住んでいた獣人は驚き、物珍しさに身に来ていた。


(絶対白蜘蛛の仕業だ……でもこれのお陰で寒くなかったけど)


 リラは外から廃墟の中が見れないのを利用し、メインクから渡された書類を読み漁る。アルクに買われる前のリラは文字を読むことが出来なかった。だが、アルクに買われたお陰で文字の読み書きが出来るようになった。


 書類を読むことで昨日メインクから教えて貰っていない事実がいくつも見つかる。その内容としては帝国に関してだった。


(捕まえた夜狼族の殆どは研究所に引き渡され残った分は奴隷として売られる)


 研究所。この単語を聞くだけでリラは心の底から嫌な予感がした。研究所とはニハル帝国が所有する建物であるとアルクから教わっている。


『良いか?帝国には研究所と言われる物がある。そこは魔物などを使って残虐な事をしているから絶対に気を付けろ』


 リラはもう少し書類を読もうとしたが外の話声が増えていることに気付き、長く居続けるのは危険だと考える。


(ていうか今はなんだ?朝か?昼か?)


 リラは今がどの刻なのか分からなかった。リラは今が朝なのか昼なのかを調べるために糸に穴を開けて外の様子を見る。


 その瞬間


「リラぁぁ!どこに居るぅ!」


 と、叫び声が猫火族領内に響き渡った。


(この声……ご主人!?)


 リラは白蜘蛛を連れて急いで外を出た。突然の事で身支度をしなかったのかフードを被らずに外に出てしまった。リラは急いでフードを被るが不思議な事が起こった。


 それは他の族領と違い騒ぐ獣人は居なかった。反対に獣人達はリラを見てから安堵する者が多かった。


「夜狼族がまだ生きてた……」


「良かった…良かったよぉ!」


 ここでリラは初めて猫火族の気持ちが分かった。今でも猫火族にとって夜狼族は仲良くしてくれる可能性が高いことに。


 リラは猫火族に話しかけようとしたが、それを白蜘蛛を止める。


「イマハアルクトアオウ」


「う、うん!」


 リラは急いでアルクの下へ向かおうとしたがその必要はなかった。何故ならいつの間にかアルクがリラの隣に居たからだ。


「見つけるのが遅くなって済まない」


「大丈夫です。それに会いに来てくれので!」


「そうか……猫火族は大丈夫なのか?」


「はい。それに最後……今でも私に良くしてくれてますから」


「それは良かった。知りたかった事は知れたか?」


「はい。次はどこに行くんですか?」


「次は……その……」


「どうしたんですか?」


「いや……イレナが捕まったって言ったら信じるか?」


「イレナさんが捕まった?仮にも龍なんですよ?」


「だよな~。今でも信じられないが……衛兵の本部に行ったらガチで捕まってるらしい」


「じゃあ太陽城に行くんですか?」


「その予定だが……なんで太陽城って分かったんだ?」


「私も昔に捕まって太陽城の地下に閉じ込められたので」


「じゃあ話は早い。行こう!」


「はい!」


 リラとアルクはイレナが捕まっているであろう太陽城へ向かう事にした。だが、そこへ鎧で身を包んだ猫火族と大勢の衛兵が居た。


「お前が猫火族族長のマルクか?」


 昨日、メインクの屋敷を襲った人物はメインクの孫であり現猫火族族長のマルクであった。


「そうだが……貴様が闇の使徒であるアルクだな?今すぐ降伏した方が身の為だぞ?」


「すまんがもうここには用が無いんだ……リラは大丈夫か?」


「はい。あった用事は昨日の内で終わりました」


「だとよ。もう一度俺達を探す所から始めるんだな!」


 アルクはそう言うと黒い翼を生やし、リラと白蜘蛛を抱えて天高く飛翔した。


「クソ!今すぐに他の部族達に伝えろ!俺は婆様と話を付けてくる!」


 マルクは衛兵達に指示を飛ばし、マルク自身はメインクがリラに何を言ったのか聞きに行った。


ーーーーーーーーーーーーーーー


「それにしても良く私が猫火族領に居るって気付きましたね」


「親友とその優秀な仲間のお陰でな。お前こそ良く猫火族領に向かってフードを取ったな」


「子供の時に良くして貰った記憶があって……今でも私達の事を良くして貰って嬉しかったです」


 アルクはリラの嬉しそうな声を聞いて、どこか安心した。リラは心のどこかに寂しさを感じていたのをアルクは知っていた。だが、リラを励ますような言葉をアルクは思いつかなかった。


 リラはアニニマへ連れてきたのもずっと心に不安を抱えていたが、猫火族とであってからその不安は不要だと分かった。


「もしかしてだとは思いますが太陽城に直接行くんですか?」


「そうだが?それに少しでも暴れたらイレナも気付くかもしれない。それにお前の力も思う存分披露出来るせっかくの機会だ」


「はぁ……分かり……ッ!!」


 リラは突然頭に激しい痛みが走り、脳裏に一匹の狼が浮かび上がった。その狼は金色の体毛をしている上にとこか神々しい雰囲気を身に纏っていた。


「リラ!?大丈夫か?もしかして酔ったか?」


「ごめんなさい……少し下に降ろして下さい」


 アルクの問いにリラは苦しそうな声で答える。


 地面に降ろされたリラは頭に響く痛みが更に増すのを感じる。そして遂には幻覚が見える様になってしまった。


「ご主人……目の前に金色の狼が見えるんですが居ますか?」


 アルクはリラの前を見るが金色の狼とやらは見えない。


「何も見えないが……少し待ってろ」


 アルクは収納魔法から丸薬を取り出す。


「これを食べてみろ。痛みが和らぐ筈だ」


 リラは渡された丸薬を食べると、少しながら頭に響いている痛みが和らぐ。そして、目の前に居る金色の狼を何か伝えようと口を動かす。


 リラは何も消えないだろうと考えていたが、その考えは直ぐに消え去った。何故なら遂に幻覚だけでなく幻聴も聞こえ始めたからだ。


『帰ってこい……我が子供達よ』


 金色の狼はそれだけ言うと消えていった。


「ご主人、もう大丈夫です」


「本当か?少し休んでも良いんだぞ?」


「大丈夫です。行きましょう!」


 リラは頭痛が無くなったのをアピールするために、リラは元気よく話す。それを見たアルクは心配ながらも再びリラと白蜘蛛を抱えて飛翔した。

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