表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
188/271

7-14 身勝手な計画

 猫火族族長の屋敷へ向かっている途中、リラと白蜘蛛は大勢の猫火族の獣人とすれ違ったが誰もリラに気付いていなかった。そして、至る所で賭け事や娯楽などで笑い声が至る所で聞こえていた。


「リラ。ココスゴイタノシソウ」


「うん。猫火族の皆は昔から楽しい事が好きだからね。私も昔に何度も来て楽しかったよ」


「フーン……ダレか来る」


 白蜘蛛はリラに近づく獣人の気配がする事をリラに教える。


「ちょっと君!見た所子供っぽいけど何してるの?」


 衛兵はリラに何をしているのかを聞く。リラの背丈は外から見れば幼い子供に見えるほど小さい。それに加えてアニニマでは夜中に子供が一人で出歩くことは禁止されている。


「取り敢えず親御さんの所に連絡したいから家の場所を教えてくれないかい?」


 リラはこの衛兵をどうするか迷っていた。今ここで落とすかある程度一緒に行動するかだ。ここは夜狼族と仲が良かった猫火族領だったが、今のリラにとって背に腹は代えられなかった。


 衛兵を落とそうとリラは拳を握り締めた。だが、小さい白蜘蛛の声が聞こえる。


「コイツ……イイ奴」


 白蜘蛛は目の前の衛兵を警戒していなかった。白蜘蛛は相手の心を読み取る事が軽くだが出来る。


 リラは白蜘蛛の言葉を信じて、衛兵を人目のつかない路地へ誘導する為に走り出す。衛兵も急いで走り出したリラの後を追い、誘導に成功する。


「待ってくれ!頼むから話だけで……も……」


 完全に路地に入った衛兵は信じられない者を見るような目でリラを見つめる。


 月明かりに照らされる綺麗な藍色の髪の毛。全てを吸い込むような黒い目。


 衛兵の目の前には根絶した筈の夜狼族が確かにいる。


「動かない方が良いよ。ちょっとでも動いたら首と胴体がバラバラになるから」


 衛兵は自身の体に目をやる。月明かりに照らされ、僅かながら体の至る所から糸が光を反射していた。


「単刀直入に言う。私は猫火族族長の屋敷に案内して欲しいの。確か……メインクだったかな?」


「今の族長はメインク様ではない。その孫であるメーイン様だ」


「そう……メインクはまだ生きてる」


「今は老後を楽しんでいる。体を動かす遊びをしている程元気だ」


「それなら問題無い。私をメインクの所に案内して欲しい」


 リラの頼みに衛兵は少し考える。


 相手は絶滅したはずの夜狼族。そして、見た目的にまだ物心が付く前に奴隷にされたと考える。


 普通なら簡単に前族長の所には案内しない。だが、夜狼族の場合は話が変わる。


「良いだろう。だが余り目立つ行動はするなよ」


 衛兵の言葉を聞いたリラは、衛兵を縛っている糸を解く。そして、脱いだフードを被ると、衛兵は歩き始めた。


 しばらく歩いていると賑やかだった通りから離れ、静かな街へ出る。


 すると、他の建物よりも大きく、衛兵が何人もいる屋敷に辿り着く。


「ここがメインク様の住んでいる所だ。面会出来るかどうか確認するから待っててくれ」


 リラを案内した衛兵は門番に何か説明する。すると許可が出たのか、衛兵は振り返り手招きをする。


「この子が迷子のか?」


「そうなんだよ。そんでよくよく話を聞くと家族が幼い頃に死んでてな」


「大変だったな……それじゃあ入って良いぞ。メインク様のいる部屋は分かるか?」


「分かるよ。それじゃあ行こう」


 衛兵はリラを連れて屋敷の中に入る。屋敷の周りには庭があり、庭にも衛兵が見回りをしている。そして、大きい扉を開けると、質素だが上品さを感じる廊下に入る。


 すると、一人の猫火族の執事がリラ達の元に寄る。


「メインク様の部屋はこの人が案内してくれるから。それじゃあ後は頼みます」


「はい。あなたも気を付けてお帰り下さい」


 衛兵は執事にリラの案内を頼み、来た道を戻って行く。


「それではこちらへ」


 執事はリラをメインクの居る部屋へと案内してくれる。廊下は蝋燭の光のみで照らされており、夜中と言う事で少し薄暗い。


 リラのバックに隠れている白蜘蛛は頭だけを出して、普段見ないような光景に目移りしている。


 二階へ上がった頃、執事は大きい扉の前で立ち止まり、ノックをする。


「メインク様。こんな夜中に申し訳ありませんが客人でございます」


「そうかい。通してくれ」


 どうやら扉の向こうにいるのは猫火族前族長のメインクのようだ。


「どうぞ」


 執事に促されリラはメインクの部屋に入る。メインクの部屋は薄暗かった廊下とは違い全体的に明るく、昼と大差なかった。内装は廊下と同じで質素ながらも上品さがあった。そして、奥の机で書類を読んでいる老婆が猫火族前族長のメインクであった。


 メインクは眼鏡をかけており、歳のせいか白髪としわが目立つがどこか歳を取っているような感覚がしなかった。


「初めましてかな?私はーー」


「貴方の事は子供のころから知ってます。それに会うのはこれで五回目です」


 リラはメインクの言葉を遮り、被っていたフードを取る。フードを取ったリラを見たメインクは驚いていた。そして目には涙が溜まっていた。


「もしかして……リラちゃん?」


「はい。お久しぶりです。しばらく見ないうちにお互いに歳を取りましたね」


 リラの言葉を聞いたメインクは手元にあった書類を放り捨て、リラに抱き着く。


「生きててくれた……ごめん……ごめんなさい……」


「気にしないで下さい。それに猫火族の皆は最後まで夜狼族に良くしてくれたんです。お願いですから謝るのはやめてください」


「そうね……泣いてばかりじゃダメよね。取り敢えずお話ししましょう」


 メインクは近くの椅子に座らせ、メインクはお茶を入れていた。


「それにしても代替わりしてたなんて驚きましたよ」


「そうね。最後に会ったのが六歳の頃だからもう八年経つからね。それに歳のせいで判断力も体力も落ちてから限界を感じたのよ」


「そうなんですね……もし衛兵に声を掛けていなかったら今の族長の所に行ってましたよ」


「衛兵に話しかけたのは正解ね。何せ私の孫は夜狼族の事を淘汰されて当然という考えだもの。もし孫の所に行ってたら衛兵達に突き出されていたわよ」


「本当に運が良かったです」


「リラちゃんもしばらく見ないうちに立派になったわね。どうしてたの?」


「七歳の頃に奴隷商人に捕まって色んな主人に使われてました。幸い奴隷商人はとてもいい人で乱暴な扱いをした場合は主人を厳しく罰していました。それで半年前に今の主人のアルク様に買われました」


「そうなの……アルク?」


「はい。今指名手配されている闇の使徒アルクです」


「そんな!何か乱暴な扱いはされてない?大丈夫なの?」


「大丈夫です。むしろ私を鍛えてくれたり文字などを教えてくれます。それに私の復讐にも手伝ってくれてるんです」


「そうなの?それなら良いんだけど……やっぱり復讐は忘れられないのね」


「当たり前ですよ。私達を何の理由もなしに迫害するなんて」


 メインクはリラの手を見て、八年前の事を思い出す。八年前のリラは迫害をされたせいでご飯などまともに食えずやせ細っていた。だが、今のリラはそこら辺の獣人と同様に筋肉が付いている。


「それで今日は迫害の事に付いて聞きに来たんです」


「そう……やっぱりそうなのね」


「はい。難しいと思いますがどうか教えてください。どうかお願いします!」


 リラはメインクにそう言い、頭を下げる。


「頭を下げないで。それに私もリラちゃんの気持ちは分かるわ。何の理由もなしにいきなり迫害されるなんて理不尽よね……良いわ。貴方に迫害についての真実を教えるわ」


「ッ!ありがとうございます!」


「良いのよ。でもあなたにとっては気持ちの良いものでは無いわ」


 メインクはそう言うと開けていた窓をすべて閉じカーテンを閉める。そして厳重に鍵を掛けられている金庫から分厚い書類を出す。


「これにリラちゃんの知りたいすべてが載ってるけど……内容がとても多いから私が最初に説明するわ」


 メインクはそう言うと椅子に座り、茶を飲む。


「最初になんで夜狼族が迫害されたのかを説明するわ。リラちゃんは知ってるわよね?10年前に闇が出現したことを」


 メインクの問いにリラは首を縦に振る。


「その後に梟の獣人が予知能力が発動したの。それが夜狼族が本来の力を略奪者達から奪還して王位を揺るがすって」


「本来の力?それに奪還ってどういう事なんですか?」


「まずはそこから説明しないといけないわね。獣人族には12氏族が居た。それで最後に神獣様に作られたのが夜狼族って事になってるけど本当は違う」


「え?」


「そもそも夜狼族自体が偽の部族名なの。夜狼族の本当の部族名は太陽を喰らう狼。喰狼族と呼ばれていた。見た目は夜狼族と真反対だったと言われたるわ」


 メインクは少しの休憩としてまた茶を飲む。


「喰狼族は神獣によって一番最初に作られた獣人であり強大な力を持っていた。それこそ各部族の族長全員を相手にしても無傷になるくらいね。喰狼族の力を陽獅族は羨ましがった。そして遂に全部族の力を持って喰狼族の族長とその何人かを罠に嵌めることが出来た。その後は捕まえた喰狼族から力を奪い取り各部族の族長で再分配した」


「それって本当の話なんですか?」


「分からない。何せこの話は族長しか知らない。でも族長しか知らないって事は事実の可能性が高い」


 リラはここでクラシスに言われた言葉が少し分かった気がする。


(面白い子を連れて来たわね)


 リラはずっとクラシスに言われた言葉について考えていた。だが、メインクの話を聞いてからは妙に納得した。


「続けるわね。喰狼族族長から力を奪った部族は陽獅族を中心に空鳥族、鬼猿族だった。この三つの部族は今でも高い身体能力と戦闘力を持っている。話を元に戻すわ。族長の力を奪われた喰狼族は次第に勢力が縮んでいった。その結果綺麗だった太陽色の髪の毛は黒く染まり、夜時にしか本領を発揮しなくなった全く別の部族が生まれた」


「それが私達夜狼族なんですね」


「そうよ。そして9年前に予言が下された。それがさっき言ってた内容よ」


「それじゃあいつか夜狼族が喰狼族に戻れるって事ですか?」


「そうだと解釈してるわ。でもリラちゃんを見る限り何も変わってないわね」


「はい。でもご主人……アルクさんのおかげで強くなったんです」


「それは良かったわね。話が少し脱線したわね。それで今の獣人王が倫理観に反する計画を出した。それが夜狼族抹殺計画。この計画には11氏族と帝国も絡んでるわ。後はどうなってるかはリラちゃんも分かってる筈よ」


 メインクの話を聴き終えたリラは次第に怒りが湧き出るのを感じた。


「つまりアニニマと陽獅族の今の立場を守る為だけは夜狼族は追いやられた……ふざけてる」


「そう。ふざけた計画よ。だから中にはこの計画に反発する部族もいた。だけど兵力と物資を使って脅した。猫火族はこの影響をモロに受けてしまった」


「なんで……一言だけでも言えば私達はアニニマを出るつもりだったのに……」


「不安要素はどんな手段でも取り除きかったらしいわね。そうそう。聞いた話によると大部分の夜狼族は帝国に奴隷として連れて行かれたから生きてる者は多い筈よ」


 リラは拳を強く握りしめているのか、拳から血が流れていた。


 だが、仲間が生きている可能性がある事にリラは希望を抱いた。


 すると、バックに入っていた白蜘蛛は何かを感じたのか、バックから飛び出し、窓に向けて唸った。


「どうしたの?」


「キケン!タクサンノサツイ!」


「もしかして……メインクさん。私がここに来た事は誰が知ってますか?」


「私と外にいる衛兵……もしかして!」


 メインクが立ち上がった瞬間部屋の扉が勢いよく開けられ、一人の猫火族の獣人と衛兵が入って来た。


 リラは部屋に入って来た衛兵の顔に見覚えがあった。


「門番……」


 どうやら外部に情報を流したのはメインクの屋敷の門番だだたようだ。


「マルク。どう言うつもりなの?」


「それはこちらのセリフですよ、お婆様。何故あなたが夜狼族とお話をしていたのかは後で聞きます。お前達!この夜狼族を捕まえろ!」


 マルクと呼ばれた猫火族の命令で衛兵達はリラに襲いかかる。だが、リラは華麗な動きで衛兵達を迎え撃った。


「メインクさん。ありがとうございました!」


「待って!これを持っていきなさい!」


 メインクは窓から飛び降りようとするリラは書類を渡す。


「ここに色んな情報が載ってる!きっと役に立つわ!」


「はい!」


 リラは受け取った書類を白蜘蛛に頼み厳重に縛ると、窓を飛び出した。


 屋敷の外にも大量の衛兵が待ち構えており、弓を構えていた。だが、白蜘蛛の機転で別の建物の屋根に飛び移り、衛兵の放った矢を全て回避した。


「ドウスル?」


「しばらくここで隠れよう。ご主人が教えてくれた。灯台下暗しってね」


 リラは衛兵の追跡を払う為にアルクから渡された魔道具を使う。すると、もう一人のリラが現れた。


 リラが使った魔道具は身代わり鏡と言い、自分と瓜二つの虚像を作り出す。そして、使った本人は光の干渉により自身の姿を透明にする。ちなみにこれもクラシスから盗んだ。


「よさげな廃墟で夜を過ごそう。流石にたくさんの事が起こって疲れた」 


「ワカッタ」


 リラは逃げてる途中で人通りが少なく通りに一つの廃墟を見つけた。廃墟へ逃げ込んだリラは荷物を地面に置き倒れ込む。


 白蜘蛛は雨風を凌げるように隙間や窓を糸で埋める。


「取り敢えず明日はご主人と合流したいけどどうしよう……明日……明日考えよう」


 遂にリラに限界が訪れ、気絶するように眠りに落ちた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ