7-11 大量の予想外
アルクがトルソの情報屋を出た時、トルソはアルクが読んだ書類に軽く目を通す。アルクが見ていた書類はアニニマの衛兵の規模と夜狼族の報告書だ。
トルソがこの情報を手に入れ、確認の為に自身も目を通したが余りの内容に、トルソ自身も気分が悪くなっていた。
だが、トルソは改めて書類に目を通す。
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ここからは夜狼族に関しての情報を記す。
最初に夜狼族とは何かを簡単に説明していく。夜狼族は神獣により12番目に作られた獣人であり、限定的ではあるが夜の間では無敗を誇る。見た目は髪や目の色共に藍色が特徴だ。
活動報告1
夜狼族の迫害に関しての報告。夜狼族迫害に関して協力者は未だに見つからない。だが、候補はいくつかあり、最も有力なのが盗賊団。次にニハル帝国の奴隷商達。まずは夜狼族の居住区をアニニマの国境付近まで追いやる為にいくつかの工作を開始する。
活動報告5
殆どの部族が夜狼族迫害に協力を約束してくれた。だが、まだ一つの部族が迫害に反対している。それは夜狼族と仲が良かった猫火族だ。こちら側としては全部族が協力して欲しい為、粘り強く猫火族との交渉を続けたいと思う。
活動報告6
遂に迫害に嫌気をさした夜狼族は住む場所を変える用意をし始めた。大規模な移動の為に様々な部族から武器や食料を買おうとしているが、我々の協力者になっている為もちろん売ってくれない。だが、猫火族は我々の目を盗んで夜狼族に支援をしている様だ。
活動報告11
ようやく猫火族が我々に協力してくれる様になった。その上、外部からの支援者もようやく見つかった。なんと協力してくれるのはニハル帝国一の奴隷商だ。これで夜狼族根絶の目的も達成できそうだ。
活動報告13
遂に奴隷商達が夜狼族を襲撃した。この襲撃で夜狼族の半分を捕らえる事に成功したようだ。その証拠に奴隷商達は我々に奴隷調達のお礼として金貨を何枚か貰えた。それに奴隷商の話では捕らえた女の夜狼族は帝国の貴族に人気らしく、女、子供関係なく高値で売れた。男の夜狼族は剣闘奴隷として働かせられるらしい。
活動報告17
アニニマ国内に残っている夜狼族は遂に見つからなくなった。索敵範囲が広い空鳥族と地中に潜り音で探している宝土竜族が探そうとしても一人も見つからなくなった。この事を王に報告すると喜びアニニマに夜狼族根絶を宣言した。
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「まったく……こうしてみると胸糞悪いな」
トルソはそう言いながら書類を燃やすかどうかを考えた。情報屋を訪れる者は殆どが獣人で、良く買われている情報は魔物に関してだ。
特にこの書類はアニニマの機密情報で知るだけでも捕まってしまう。
「良し!燃やそう!」
トルソはこの危険な書類は燃やした方が身の為だと判断し、近くの蝋燭を手に取り書類を全て燃やした。
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一人街を歩いているアルクはトルソから買った情報を整理していた。
(あの書類に書いてあった『我々』って何を指している?『王に報告』と書いてあったから何かの組織の筈だが……)
アルクが考えていると、何者かに肩を掴まれる。アルクはフードをしている上に特徴的な髪と目の色の変えている。それでも気付かれる可能性がある事はアルク自身も知っていた。
アルクは肩に置かれた手を振り解こうとする。
「待て、俺だ!ハリスだよ」
アルクの肩に手を置いた奴がハリスだと分かると安堵した。
「いきなり掴むなよ……バレたかと思ってビビったぞ」
「悪い悪い。取り敢えず俺の取っている宿で飯を食おう。その後に色々と情報交換だ」
「おう」
アルクはハリスの案内の下、ハリスの取っている宿に入り、夕食を取った。ハリスはかなりの大食いらしく、大量の料理がアルクとハリスの前に出される。
「いくらなんでも頼み過ぎじゃないのか?」
「これも少ない方だぞ?お前に合わせたつもりだったが多かったか?」
「まぁ大丈夫だろ」
アルクはそう言うと出された料理を次々と口に運ぶ。アルクも頑張って口に料理を運んだが満腹になる。だが、アルクと同じ量を食べているハリスだが手を止める気配は全くない。
そして、本当に目の前の男は出された料理を全て食べ切った。
「大丈夫って言ったろ?それじゃあ俺の部屋で情報交換と行こうぜ」
アルクはハリスの部屋に入り、ハリスが手に入れた情報とアルクが手に入れた情報を交換し始めた。
「俺が掴んだ情報は出現する魔物ぐらいだった」
「それでもいい」
「分かった。掴んだ情報ってのは最近魔物が大きいらしいんだ」
「大きい?」
「言い間違えた。異常成長してるんだ。例として通常のゴブリンの大きさが一回り大きい。ウェアウルフの場合は爪と牙が異様にデカい事だ」
「異常成長……生物界において異常成長はおかしくない。それにそれは進化とも言える」
「それもそうだが5年前にはそんな報告が無かったんだ。だけど一年前に報告されたんだ。可笑しいだろ?いきなりこんな報告が来たんだ」
「確かに……突然異常成長するのは変だな。けどもう少し調査する必要がありそうだな。それに俺の仲間もどっか行っちまったしな」
「分かった。それじゃあ次はお前の番だ。お前はどんな情報を手に入れたんだ?」
「そうだったな。俺は情報屋に行ってきたんだが余り良い情報が無かった。でも仲間に関わる情報を手に入れる事が出来た」
「仲間に関わる情報?」
「そうだ。だって俺の仲間は夜狼族だしな」
アルクはそう言うとハリスは驚く。ハリスにとって夜狼族は既に絶滅している物だと思い込んでいた。
「そうなのか……それで夜狼族に関しての情報ってなんだ?」
「とぼけるなよ、ハリス。お前も知っているだろ?お前達11氏族が夜狼族を迫害していたことを」
アルクは睨みながらハリスに向けて言う。
「た、確かに知っているがそん時は別の国で働いてたから詳しくは知らないんだよ……本当の事だからその殺気を沈めてくれ」
「漏れてたか?済まなかったな。それで手に入れた夜狼族の情報だがお前としても気が悪くなる話だぞ」
アルクは最初に忠告し、ハリスに夜狼族に関しての情報を話していく。アルクの話を聞いていたハリスは次第に表情が曇って行く。
「俺が居ない間にそんな事が……生き残りはお前の仲間だけになったのか?」
「分からない。情報だと奴隷として売られまくったみたいだが……実際に俺の仲間になった夜狼族も奴隷だったんだからな」
「そうか……今日はここまでにしようぜ。もう夜も遅くなってきた」
「そうだな。取り敢えず今の目的は情報収集と仲間の捜索だ。一応お前にも仲間の見た目を共有しておく」
「分かった。俺も見つけたら仲間に頼んで連絡してもらう」
「助かる」
「それと、アルク。今日はどこに泊まるつもりなんだ?確かお前は色々あってやばい状況なんだろ?」
「泊る所……適当に裏路地でも寝るつもりだったよ」
「やめておけ。ここの奴らは外の国のように浮浪者には優しくないんだ。浮浪者でも安い宿を取る程だからな」
「え?でも俺はーー」
「分かってる。だから今日の所は俺の部屋で寝ると良い。宿は別の日に取れば良いしな」
「助かる」
ハリスの気遣いでアルクは裏路地で寝ずに済んだ。
翌日、アルクとハリスは外の騒がしさで目を覚ます。アルクは久しぶりに床で寝たせいか体の節々に痛みを感じている。
「なんだ……今日はいつもよりうるさいな」
ハリスはベットから体を起こし、窓から顔を出す。外では何人かの獣人が紙を通行人に渡していた。
「何を渡してるんだ?」
ハリスは紙を渡している獣人に声を掛ける。
「緊急紙だ!お前さんもいるかい?」
「一枚くれ!」
「あいよ!投げて良いか?」
「良いぞ!」
獣人が投げた紙を受け取ったハリスは室内に戻り、緊急紙と呼ばれる紙を読み始める。
「おいおい……色々とお前にとっちゃ良くない事が書かれてるぞ」
「良くない?どんな事が書かれてるんだ?」
「読んでみろ」
ハリスから緊急紙を渡され、アルクもそれに目を通す。
『闇の使徒であるアルクが国内に侵入中。見かけた者は至急衛兵に報告するように。それに加えて闇の使徒の仲間と思われる者達もいる。一人は夜狼族の生き残りの獣人と既に捕らえた竜人だ。闇の使徒アルクと夜狼族を見かけた者は即刻報告するように』
緊急紙を読み終えたアルクは驚きのあまり緊急紙を破ってしまった。
「竜人を捕まえた!?龍のあいつが?」
アルクは自身の事や仲間が知れ渡ってしまった事より、アルクの仲間であるイレナが捕まった事に驚いていた。
「なんか色々と大変そうだな。どうする?今日も情報を集めるか?」
「いや、計画変更だ。緊急紙に書かれていた竜人を救出する。この国の最大規模の監獄はどこにある?」
「陽獅族にあるが一人で行くつもりか?」
「仲間を助けるぐらいは一人でも大丈夫だ。お前もあまり目立ちすぎるなよ」
「分かってる」
アルクはそう言うと宿から出て、再び陽獅族領へ向かった。




