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7-10 情報屋

 ハリスを誘拐したアルクは逃げてる途中で廃墟を見つけ、そこへ逃げ込む。そして、追手を振ったアルクは周囲から視認されなくする為に廃墟の更に奥へ進む。


 しばらく経つとハリスが目を覚ましが、口を塞がれている為、呻き声しか出せない。ハリスが目を覚ましたのを確認したアルクは、ハリスに被せていた布を外し、口を覆っていた布を外す。


「てめぇ!誰だ!」


 ハリスはアルクの顔を確認するより先に叫ぶ。


「俺だよ。アルクだよ。忘れたのか?」


 アルクはハリスの口を押えて、静かな声で答える。


「アルク!?なんでお前がここに!?」


「馬鹿野郎!声が大きい!静かにしてくれ!」


 ハリスはアルクの必死の説得に首を縦に振る。そして、ある程度ハリスが落ち着いたのを確認したアルクは、ようやく地面に腰を下ろした。


「それにしてもなんでお前がアニニマに居るんだよ?お前は確か闇の使徒として付けられてる筈だろ?」


「まぁ色々と縁があってな。今はとある人からの依頼で色々とやってるんだが……アニニマに知り合いが居なくてな」


「つまり俺に協力してくれと?」


「簡単に言えばそうだな。協力してくれるか?」


「おう!いいぞ!」


「え?」


 アルクはてっきりこの頼みは断られると考えていた。何故ならアルクは世界の敵として認定されている闇の使徒。もしそれに協力すれば自身に闇を持っていなくとも浄化の対象となってしまう。


 その事はアルクより長生きしているハリスが一番知っている筈だ。


「お前に協力すれば俺もやばいのは知ってる。だけど一番はお前を信じたいんだ。それに本当にお前が敵ならば魔物大侵攻の時に一緒に襲ってる筈だろ?」


「そうか……ありがとな」


「大丈夫だ。そんで?俺は何をやればいい?」


 ハリスは何をすれば良いのかアルクに尋ねる。


「その事なんだがまずは状況の説明をしないとな」


 アルクは今現在、自分が置かれている状況をハリスに説明する。アルクのはぐれた仲間の事や何故アニニマに来たのかを説明する。


「それで一番重要なのは闇を無制限に放出する黒暗結晶の浄化だ」


「黒暗結晶……聞いた事が無いな……」


「当たり前だ。黒暗結晶は基本的に世間に知らされる前にミリス教の奴らが全勢力を上げて浄化する」


「そうなのか……見た目は文字通り黒いのか?」


「そうだ。俺が今まで見た二つの黒暗結晶はどれも例外なく真っ黒だった」


「だいたいは分かった。それで俺のやることは?」


「お前は基本的に普通の冒険者として情報を集めててくれ。俺は俺で色々と情報を集める。あ、後」


「おん?どうした?」


「少し痛いと思うが我慢してくれ」


 アルクはそう言うと、ハリスの右頬を殴る。殴られたハリスは突然の事に右頬を抑えながら呆然としていた。


「怪我の一つもない状態で戻ったら怪しまれるだろ?だからある程度抵抗して逃げられたみたいにすれば怪しまれない」


「それなら先に言ってくれ……」


 ハリスはそう言うと、アルクの作戦通りにハリスは表で情報収集をする為に戻って行った。


(さて……俺も動きたい所だが……やっぱり情報と言ったらアイツらだな!)


 アルクは手っ取り早く情報を集める為にとある所へ向かう。そこは太陽が照り続ける地上ではなく地下だった。


 アルクは他の獣人に気付かれないように地下へ続く道を探す。


 すると、道の横にあった用水路の一つが地下へ続いている事に気付く。


 アルクは用水路から地下に入る。しばらくは一本の細い道だったが、進み続けると広い用水路へ出る。


「確か……三歩進んで五回壁を叩く」


 すると、アルクが叩いた壁に穴が開き、そこから誰かが覗く。


「要件は?」


「ネズミがネコに挨拶に来た」


 アルクはそう言うと壁が扉の様に開き、アルクを中へ招き入れた。


「武器は持っていないな……フードを被っているのはいい判断だが仮面も付けた方がいい」


 画面を付けた獣人がそう言うと猫の仮面をアルクに渡す。アルクは獣人の言葉に素直に従い、仮面を被り奥へ進む。


 入り口付近は広い一本道だったが次第に狭くなり、人一人が通れる程に狭くなっていた。


 そして、進み続けた先には鉄で出来た頑丈そうな扉があった。


「ボス。客人です」


「入れて良いぞ」


 扉の奥から声が聞こえ、アルクを案内していた獣人が重そうに扉を開ける。暗い通路から部屋に足を踏み入れると、何もない通路とは違い、豪華に飾られた大きな部屋があった。そして、部屋の隅に四人の用心棒が立っていた。


 部屋の中央には黒い机があり、その机の向こうには小さな獣人が座っていた。


「獣人以外の客とは珍しいな?お前はどんな情報が欲しいんだ?この宝土竜族のトルソ様が情報を売ってやるよ」


 アルクは情報を買い取る為に一歩前へ進もうとすると、アルクの近くに居た用心棒の一人が槍をアルクの前に置く。


「近づくんじゃねぇ。お前はここでなんの情報を買い取るか言うんだ」


「そうか?それは悪かったな。それじゃあ最近この国で黒い禍々しい鉱石を見たという報告はあるか?それは冒険者でも衛兵でもどちらでもいい」


「黒い禍々しい鉱石……なるほど。その黒い鉱石とはドラニグルとミル商業都市で出たという奴かい?」


 トルソの言葉にアルクは心臓が飛び出るほど驚いた。だが、それぐらい知っていなければ情報屋が務まる訳がない。


「お前さんの言ってる黒い鉱石は今の所アニニマには出てないな。なぁ、や……いや、やめておこう。ここではお互いを詮索するのは禁止だからな」


「それは助かる。それじゃあもう一つ。夜狼族の迫害はアニニマの王とニハル帝国が関係しているか?」


 アルクの言葉にトルソだけでなく部屋の隅に居た四人の用心棒の目の色が変わった。


「お前さん……その情報を聞いて何する気だい?代金次第じゃ生きて返す訳には行かなぇぞ」


「安心しろ。ちゃんとそれ相応の代金ならある。信じられないなら先に出してやろうか?」


「出してみろ」


 トルソの言葉通りにアルクは収納魔法から純白に輝く鱗を何枚か取り出す。それを見た用心棒はアルクの隣まで寄り、アルクから鱗を受け取りトルソに渡す。


「なんだ?ワイバーンの鱗の様に見えるが……こんな真っ白な鱗見た事無いな」


「当たり前だ。なんせそれは神龍の鱗だからな」


 アルクの言葉を聞いたトルソは手に持っていた鱗をうっかり机に落とす。神龍の鱗、つまり始祖神龍の鱗は市場に流通するのが絶対にないと言われている代物である。だが、稀に始祖神龍が居た所に鱗が落ちていることがある。


 最後に確認された神龍の鱗は50年前であり、当時のオークションでは金貨より価値の高い白金貨千枚で買われた。白金貨とは一枚で金貨一万枚の価値がある。

 

 そして白金貨千枚とは一国の全財産に当たる程だ。だが、どこからか聞きつけた多数の犯罪者集団がオークション会場を襲い、神龍の鱗を盗んでどこかへ消えたと言われている。


 呆然としていたトルソは意識が戻り、良く考え込んだ。


「確かに本物ならば王族共とニハル帝国の情報を売っても良いが……偽物かも知れない。いや、これが偽物は大いにある」


 トルソの言っていることは至極当然だ。中々見る事のない始祖神龍の鱗を得体のしれない人間。いや、情報屋のトルソにとって目の前にいる人間の正体はもう知っている筈だ。


「別に偽物ならばそう思って構わない。代わりに別の物を用意するから返してくれ」


 トルソはアルクに神龍の鱗らしき物を返そうとするが迷ってしまう。


 もしこれが本物ならば部下含め一生遊んで暮らせるほどの金を手に入れる事が出来る。だが、偽物なら国の機密情報をタダで売ってしまう事になる。


 今までのトルソならこの話は断っていた。だが、今回のトルソは違う。何故なら客としてきたのは闇の使徒であるアルク本人だ。そして、トルソの知っている情報では闇の使徒であるアルクは始祖神龍と知り合いである事。


 それだけで十分賭ける可能性があった。


「わ、分かった。お前に情報を売ってやろう……お前ら!防音室へ案内しろ!」


 トルソの言葉を聞いた用心棒達はアルクとトルソを防音室へ連れて行った。ここではありとあらゆる音を遮断する特殊な鉱石で出来た部屋だ。


「お前はここに座れ。今アニニマの王族の情報とニハル帝国の情報を用意してやる」


 トルソはアルクを椅子に座らせるとどこからか大量の書類を持ってくる。


「これらを好きに読むと言い。読むのが面倒なら俺が教えてやろうか?」


「いや、最初は読んでみるさ」


 アルクはそう言うと大量の書類に目を通す。書類にある程度、目を通したアルクは余りにも重要な書類に驚いた。


 書類に書かれている内容としてはアニニマに存在する軍の機密情報からこれからの計画など、一般人は知ることが無いような物だった。


 そして、ついにアルクは見つけた。アニニマの王族達が計画していた夜狼族の迫害問題だ。


 その問題にある程度目を通したアルクは次第に気分が悪くなっていくのを感じた。


「この問題に関してニハル帝国の情報も知りたい」


 アルクはトルソに夜狼族迫害問題に関して、関係する物の情報を出すように提案する。だが、トルソが持って来た書類は数が少なかった。


 だが、今のアルクにとっては十分すぎる程であった。


 ある程度、読み終わったアルクはため息を吐きながら椅子にもたれ掛かる。


「どうだ?クソみたいな内容だったろ?」


「そうだな……こんな身勝手な理由で迫害するとはな」


「仕方ないさ。この国を良い国にする為に王様達も必死なのさ。だけどもう少し考えれば良い方法が出たって言うのに……」


「そうだな。世話になったな。そろそろ出る」


「分かった。帰り道には気を付けろよ」


 トルソと用心棒の案内の下、アルクは地下から出た。地下に入る前は昼時だったが、既に太陽が沈んで夜となっていた。

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