7ー8 姫と勇者と王
「ラクジャ王よ!オウル、ただいま戻りました!」
空鳥族の獣人、オウルはそう言うと膝を地面に着く。オウルは獣人の王であるラクジャ王にイレナを捉えた事を伝えようとする。
「侵入者を一人捕まえたのはもう知っている。だがそれよりも厄介なのが来たんだ」
「厄介な?それは何でしょう?」
「ミリス教の奴らだ。何故奴らがアニニマに来たのかは知らないがいきなり来たんだ。オウルは予知出来なかったのか?」
「恥ずかしながらそこは予知出来ませんでした。申し訳ありません」
オウルは自身の予知能力でも見れなかったミリス教の来訪に驚きながらも、予知出来なかった事をラクジャ王に謝る。
「気に病むな。お前の予知能力は気まぐれである事を俺は知っている。まぁミリス教の奴らは俺が相手をするとして……残りの奴らはどこに行ったのかが知らないか?」
「はい。まずラクジャ王も知っている通り、龍の侵入者は捕らえました。夜狼族の生き残りは同胞が見つけましたが見失いました。もう一人の侵入者は族領ゲートで確認してからは報告が途絶えています」
「そうか……族領ゲートから逃げた奴は手練れのようだ。気をつけた方が良い」
「承知いたしました」
「もう下がって良いぞ。俺はミリス教の奴らの対応について外務大臣と話してくる」
ラクジャ王の命令でオウルは王の間から退出する。王の間の玉座に座っていたラクジャ王はミリス教徒の対応について、外で待機していた外務大臣を中へ招き、話し合いを始めた。
王の間から退出したオウルは捕らえたイレナがもうすぐで衛兵団本部に着く頃だと思い、衛兵団本部へ向かう。
すると、そこへ一人の衛兵をすれ違う。
「待て」
オウルの一言ですれ違った衛兵は足を止めて、振り返り敬礼をした。
「どうかしましたか?」
「ちょっと気になった事があってな……その胸にある紋章は……空鳥族の者で間違いないな?」
「はい!」
「それならば空鳥族領の族領ゲートで騒ぎがあった事は知っているか?」
「もちろんです!伝えられた情報だとフードを被った不審人物が検問を無視して立ち去ったと聞いております!」
「そうか……所で見ない顔だな?空鳥族の者か?」
「いいえ!私は鬼猿族の者です!証拠にこれを見て下さい!」
衛兵はそう言うと、被っていた帽子を外す。すると、その衛兵の額には一本の角があった。
鬼猿族は猿の様な外見だが、額には一本以上の角があり、全体的に身体能力が高い。
「確かに角があるな……勘違いだった様だ。呼び止めて悪かったな」
「大丈夫です!それでは」
衛兵がそう言い、立ち去ろうとする。だが、オウルは不意に隠していた短剣を衛兵に向けて投げる。
衛兵は後ろを見ていたのにも関わらず、オウルの投げた短剣を避け、オウルとの距離を取る。
「やはり報告にあった不審人物か。未来予知が見れて良かった」
オウルはそう言いながら、杖に仕込んでいた剣を取り出す。
「いつから知ってたんだ?」
「お前が立ち去ろうとしたその瞬間にだよ」
「やっぱり梟の空鳥族には一番警戒しておくべき存在だったな」
「む……そうか。お前が闇の使徒アルクだな?」
オウルは再び未来予知を見る。それは目の前の衛兵らしき男の魔法が全て解け、指名手配されていたアルクとなっていた。
「そこまでバレてるのか。じゃあいいや」
衛兵は観念したのか、自身に掛けていた魔法を全て解く。すると、茶色の髪の毛はどんどん薄くなり、白い髪の毛となった。
「さて……どうする?見た所お前は戦闘したそうには見えないが」
「それはこちらのセリフだ、アルク。私がここで戦えば周りにいる衛兵達が一瞬で集まる。それにここは城の中だ。精鋭達もいる」
オウルの言葉にアルクは周囲を見渡す。すると、この短時間で既に何人かの衛兵が集まっていた。
「私としてはここで戦いたいがどうする?」
アルクはオウルの考えている事は分かっていた。何故なら代々梟の空鳥族は未来予知の力で巧妙な罠を使い、敵を捕らえてきた。
アルクはオウルの明らかな罠に乗らずに何処かへ立ち去る事を選び、周囲に魔法を放ち、オウル達の視界を一時的に奪う。
オウル達の視界が戻る頃にはそこにはアルクは居なかった。
「オウル様!ご無事ですか?」
「安心しろ。いくら老骨とはいえまだまだ戦えるぞ。それと全衛兵に伝えてくれ。闇の使徒アルクとその仲間が侵入したと」
「了解いたしまた!」
衛兵はオウルの指示に従い、アニニマ全土に散開している衛兵達に伝えに行った。すると、そこへ服が剥がされたのか裸の鬼猿族の獣人がやって来る。
「オウル様!何者かに襲撃されてーー」
「知っているよ。それについさっきお前の服を剥いだ侵入者が居た」
「本当ですか!?申し訳ありません……」
鬼猿族の獣人は服を届けてくれた獣人に付き従い、着替えるために更衣室へ向かった。
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馬車に乗りながら、翔太達は獣人王朝アニニマへ向かっていた。現在は手続きなどの影響で野宿続きだ。
どうやら既にアニニマに着いたらしいが、中心地である陽獅族領に入るのに手間取っているみたいだ。
「それにしても、翔太!獣人見えたけど……なんか厳つい見た目してるよな……」
蓮司は聖剣部隊の人と話している獣人を見るが、蓮司の想像していた獣人のイメージと実際に見た獣人の見た目がかけ離れていて落ち込んでいた。
実際にミリス教の騎士隊と話しているのは厳しい特訓を耐え抜いた、筋骨隆々の獣人の衛兵であった。
「キモイよ、蓮司。それにちょっと考えれば分かるでしょ?この世界はラノベや漫画の世界じゃないって」
「そうだけどよ、梨花……ちょっとは期待しても良いだろ?」
「まぁまぁ……梨花ちゃんと蓮司君の言いたいことは分かるよ?実際に私もちょっと楽しみにしてたし」
「梨花もそうなの!?」
「正直言っちゃうとそうだね。あ!なんか馬車が動きそうだよ!」
雪はそう言うと、入国の手続きが終わったのか陽獅族領へ入る為の門が開く。
「待たせたなお前達!ようやくアニニマの中心地である陽獅族領へ入れるぞ!」
どこから入ったのかセイラは元気な声で叫ぶ。そして、陽獅族領へ入る為に馬車が動き出す。
陽獅族領へ入った翔太達は獣人の多さ、立ち並ぶ露店。そして、目の前には黄金の屋根がある王城。アニニマへ向かう途中でこの城に付いて説明された。
その内容とは獣人王朝アニニマの中心地には太陽の様な城があり、太陽城と呼ばれている城があると。実際に王城を目にすると太陽光を反射し、本当に第二の太陽のようだった。
しばらく馬車に乗っていると、太陽城へ入って行く。外にいる間は日差しの影響で暑かったが、太陽城内はひんやりとしていた。
すると、複数人の女性の獣人が聖剣部隊の馬車へと近づいてく。
「お待たせ致しました。ここからは私達が案内いたします。セイラ様と勇者様は私に付いて来てください」
「お前達。ここからは歩いて行くぞ」
セイラは翔太達を率いて太陽城の奥へと進んでいく。すると、広い空間へと出る。広い空間とは言っても会議室の様なもので中心には十一個の椅子があり、既にそれぞれの椅子に獣人が座っている。
「お待たせ致しました!聖剣部隊からセイラ様と勇者様でございます」
女性の獣人はセイラ達を椅子に座るように促す。セイラ達が椅子に座るのを確認すると、女性の獣人は会議室から退出した。
「待たせて悪かったな。俺は獣人王朝の王であるのと同時に陽獅族族長のラクジャ=アサドだ。他の椅子に座ってる奴らはそれぞれの族長だ」




