7ー7 罠
空鳥族領内では夜狼族の生き残りが居たと話題になっていた。そんな中、空鳥族領内でフードを深く被り、移動している少女が居た。
彼女こそが夜狼族の生き残りの一人であるリラであった。眠りの宿屋の件から一夜明け、リラは他の獣人や衛兵に見つからないように通路の端に居た。
「おい!夜狼族は見つけたか?」
「いえ!まだ見つかってはおりません!ですか夜狼族を連れていた不審人物が族領ゲートで暴れたとの報告がありました!」
衛兵は族領ゲートで不審人物が暴れたと仲間に報告した。それを聞いたリラは暴れた不審人物の正体はイレナかアルクだと考えた。
ならば、今リラがやることは一つ。それは空鳥族領から他の族領に移動してイレナかアルクを探すことだ。
幸いな事にアルクとイレナの匂いはもう覚えている。後は近づいて匂いを嗅げば一瞬で分かる。
リラは先に空鳥族領から脱出する事を目標にする。リラは族領ゲートに向かおうとするが、角を曲がろうとすると通行人にぶつかり尻もちを付いてしまう。
リラはやらかしてしまったと一瞬で気付く。何故ならリラが尻もちを付いた時にフードが外れてしまい、夜狼族特有の藍色の髪色が見られてしまった。
「よ、夜狼族だ!捕まえろ!」
通行人のその一言で他の通行人だけでなく衛兵までもがリラを捕まえようと一斉に襲い掛かる。
だが、リラは一人では無い。
「白蜘蛛!お願い!」
リラの声と同時に、白蜘蛛はリラの背負っていたバックから飛び出し、リラを建物の屋根へと糸を使って移動させる。
だが、リラ達が居るのは空鳥族領。空鳥族には少ないが実際に飛べる者もいる。つまり屋根に逃げても飛べる者は関係無く追いかけてくる。
実際に翼を持つ衛兵だけで無く通行人も空を飛び、リラを捕まえようとして来た。
「逃げよう!」
リラはそう言うが、白蜘蛛は糸を出して何かしようとしていた。何かしようとしている白蜘蛛をリラは抱えて、体力が続く限り走り続ける。
すると、追いかけてくる獣人は少なくなり、背後の方では何か騒いでいる。
リラは後ろを見ると、追いかけて来た獣人の殆どが糸に絡まれている。白蜘蛛を見ると糸を編んでいた。
「ニゲナイノ?」
白蜘蛛は足を止めたリラに声を掛ける。
「う、うん!とにかく走ろう!」
リラは白蜘蛛を背中に登るように伝え、白蜘蛛が背中に登ったのを確認すると空鳥族領から脱出する為に走り始める。
(そうだな……空鳥族領の隣の猫火族領へ行こう)
リラは空鳥族領の隣にある猫火族領へ目指そうとしていた。リラの記憶の中では空鳥族と猫火族は仲が悪かった。それに加えて、猫火族は差別が始まる前までは夜狼族と交流をしており、仲が良かった。
実際に差別が始まってからは猫火族は周りの獣人と比べ、差別している所を見た事があまり無かった。
リラは消えかけている記憶を思い出しながら、空鳥族の追跡を躱しながら猫火族領へ向かって行った。
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空鳥族領では衛兵達が駐屯している建物がある。そこでは他の族領から応援に来た衛兵だけでなく何かしらの理由で捕まった獣人も居る。
イレナは捕まったであろうリラと白蜘蛛を救出するために駐屯地に侵入を試みようとしていた。
だが、リラと白蜘蛛は捕まっておらず、逃げている事実をイレナは知らない。何故ならイレナの周辺の獣人達に出回っている噂では、既に夜狼族は捕まっていると広まっているからだ。
(来たのは良いが……どうしよう)
イレナはどんな方法で駐屯地に侵入しようか考えていた。だが、イレナは考えを放棄し、侵入の仕方を一つだけに絞った。その方法とは正面突破だ。
イレナは龍であり獣人の遥か上に存在する生き物だ。獣人の衛兵如きにやり方を考えていては龍の名に泥を塗ってしまう。
「そんじゃあ……行くか!」
イレナは全身に魔力を纏わせると、駐屯地の壁に穴を開ける。突然の襲撃に衛兵達は何が起こったのか驚き、半数が動けないでいた。
駐屯地の壁に穴を開けたイレナは駐屯地の中に入り、リラが捕まっているであろう牢屋を目指して走り始めた。
しばらく駐屯地の中を進んでいたイレナだが、おかしな点に気付く。それは衛兵は外に居るが駐屯地の中、つまり建物の中には衛兵が誰一人としていないのだ。
だが、イレナは好機だと思い、更に駐屯地の奥へ進み始める。すると、遂に牢屋がある区画まで辿り着いた。だが、ここでも衛兵だけでなく捕まっている筈の獣人が誰一人いない。
イレナは周囲を見渡すと、足元で何か踏む音が聞こえた。その瞬間、地面から檻が飛び出し、イレナを囲む。そして、檻が作動したのを見計らったのかように、隠れていた衛兵達が一斉にイレナの檻を囲み始めた。
「いや~。まさかこんな簡単に騙されてくれるなんて。助かったよ」
一人の獣人が衛兵を連れてイレナを囲んでいる檻に近づく。その獣人は空鳥族で見た目は梟だった。
そこでアルクが言っていた事を思い出した。それは、アニニマでは梟の獣人がおり、未来予知の能力を持っている。獣人の王は梟の獣人を側近にすることでアニニマの衰退を幾度となく防いでいると言う。
「初めまして、新たな龍よ。私は空鳥族のオウルと申します。突然で申し訳ありませんが貴方を拘束させて頂きます」
空鳥族の獣人オウルはそう言うが、イレナはオウルを嘲笑うかのように笑う。
「私を拘束する?この程度の檻で私を閉じ込めたと思うなよ!」
イレナは力任せに目の前に敷かれている檻を壊そうとする。通常の檻ならば簡単に壊せる事が出来るが、何故かこの檻は壊れない。
むしろイレナから力が抜けていく。これは竜人王国ドラニグルで戦ったウルカハと同じ感覚だった。
「新たな龍よ。この檻をただの鉄で作られているとは思わない方がいい。詳しくは言えないが特殊な素材で作られているから、やるだけ無駄だ。お前達!この龍に例の足枷と手錠を付けろ!」
オウルの指示で、オウルの隣に居た衛兵はイレナは足枷と手錠を付けようとする。イレナは大人しくしている筈もなく、勿論抵抗する。力が抜けているとは言え龍という事もあり、残っている力は多かった。
だが、一人の衛兵がイレナの隙を突き、手錠を片方だけ付ける。すると、イレナの抵抗は次第に弱くなり、最終的に動けなくなった。
イレナの様子を見た衛兵は抵抗しなくなったイレナに手錠と足枷を付け、動きを完全に封じた。
「こいつを陽獅族領の駐屯地に連れて行け!残りの連中も私に任せると良い」
オウルはそう言うと衛兵を連れて、どこかへ消えて行った。
「侵入者よ。大人しく来てもらおうか」
衛兵は抵抗出来ないイレナを外で待機していた獣車に乗せて、アニニマの中心地である陽獅族領へ向かって行った。




