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7ー6 獅子の受難

 リラと白蜘蛛、イレナが行方不明になってから既に夜が明け、昼時となっている。

 

 アルク達が宿を取った空鳥族領内では夜狼族の生き残りが見つかったと言う噂で持ちきりだった。


 アルクは念の為に髪の毛の色を茶色から藍色に変え、偽装用に眼鏡を掛けている。


 アルクにとって今の目的は行方不明となった仲間達の捜索だが手掛かりが一切無い。


 勘が鋭いイレナと耳と鼻がよく聞くリラの事だ。きっと捕まらずに何処かへ逃げていると思いたい。


 もう少し空鳥族領で仲間達の捜索をしたかったアルクだが、これ以上この族領に留まるのは危険だと判断する。何故なら夜中にアルクを襲った獣人は偶々ではなく完全に何者かからの命令で狙っていた。


 もし命令をしていた奴がかなりの権力者なら人員など幾らでも導入出来る。現に昨日までは少なかった衛兵が明らかに多く巡回している。このままではアルクの正体がバレるのは時間の問題だろう。


 それに加えてアニニマに入国してから一日も経たずに追われてしまっている。命令をしているのは手練れに間違いない。


 アルクはそんな事を考えながら空鳥族領を出る為に、族領ゲートまで辿り着く。だが、族領ゲートでは昨日まではやってなかった検問をやっていた。


 もしこのまま検問に引っ掛かってしまえば大量よ衛兵に追われる未来が見える。


 だが、周りを見ても衛兵達が大量に配置されており抜ける事は無理そうだ。アルクは一か八かの賭けで強行突破しようと試みる。


 自身に身体強化魔法を施し、目くらましの道具として煙球を両手に持つ。そして、少しでも衛兵の監視の目を少なくする為に、適当な通行人に目を付け、魔法で石を飛ばす。


 アルクの投げた石は見事に獣人の頭に命中し、気絶する。獣人が突然気絶し、倒れた事に周囲の獣人や衛兵は騒ぎ始める。


 そして、次の段階として準備していた煙球を地面に叩きつけ、煙を大量に発生させる。突然気絶した獣人に加えて、煙の大量発生で現場は更なる混乱を招く。


 そして、手薄となった族領ゲートに勢いよく走る。手薄となった族領ゲートだが流石にある程度の衛兵が待機しており、勢いよく走るアルクに気付く。


「止まれ!」


 衛兵はアルクにそう叫ぶ。だが、アルクには止まる気は始めから無い。


「お前達、何してやがる!早く集まれよ!」


 衛兵は中々集まらない仲間にイラつき始め叫ぶ。だが、衛兵は一向に集まる気配が無い。アルクは族領ゲートに残っていた衛兵を勢いよく殴り気絶させる。


 そして、周囲に広がっていた煙が晴れると衛兵達は族領ゲートに目を向ける。気絶した衛兵を見た残りの衛兵達は一瞬で何が起こったのか瞬時に理解した。


「お前達!急いでこの場の混乱を沈めろ!誰か!ここを通った怪しい奴を見た者はいないか?」


 衛兵は周りにいた獣人に声を掛けるが、煙玉のせいで周囲が見えない上に、混乱の中アルクを視認出来る者は中々いない。


「誰もいないか……仕方ない。そこのお前!他の族領の衛兵に要注意人物が彷徨いているから目を光らせておけと伝えておけ!」


「分かりました!」


 衛兵はそう言うと他の族領に向かう為に族領ゲートを出て行った。


 だが、アルクはまだ族領ゲートから遠くへ行っていなかった。何故ならアルクはこの時を狙っていたからだ。


 族領ゲートの近くでこれ程の問題を起こせば誰でも他の族領へ逃げたと思う筈だ。実際に何人かの衛兵達は他の族領に伝える為に空鳥族領から出ている。


 そして、アルクが狙っている衛兵は一人。それは陽獅族領へ向かっている衛兵だ。


 陽獅族領はアニニマの中心地。つまりありとあらゆる情報、物資が陽獅族領に集まっている。アルクはその中で陽獅族領に向かっていた衛兵に気付かれぬように近付く。


 そして衛兵の意識を一瞬で狩り取り、人目が付かないように一瞬で横道に連れ去る。アルクは気絶している衛兵の服を脱がし着替える。その他にも、この衛兵の持ち物を全て没収し、意識が戻っても動けないように手足を縛り口を塞ぐ。


 アルクは魔法で髪色を気絶させた衛兵と同じ色にする。


「さてと……上手く行くと良いが」


 アルクはこの作戦が上手く行ける自信が無かった。何故なら獣人族には人とは違い五感が優れている。つまり、気絶させた衛兵の知り合いならば匂いだけでバレてしまう可能性が高い。


 だが、それぐらいの危険を犯さなければ得るものは何も無いとアルクは考えていた。


 アルクは陽獅族領に入ってから初めに何をするべきかを考えながら人混みに紛れて消えていった。



―――――――――――


 太陽城。それは獣人王朝アニニマの中心地における行政施設であるのと同時に獣人の王の住まう城である。


 見た目は普通の城の様に見えるが、屋根が黄金で出来ており、太陽光を反射するその様はまさに第二の太陽であった。


 そして、そんな城の中で一人の身なりの整った獣人が走っていた。


「王よ!ラクジャ王!大変です!」


 獣人が急いで広い空間、王の間に入る。そして、王の間の奥には獣人族の王である陽獅族のラクジャ=バルガンが座っていた。


「どうしたんだ、騒々しい。少しは静かに入ってくれないか?」


「申し訳ございません。ですが急いでお伝えしたい事がありまして!」


「はい!実は先程、国交部の方へこの様な書類が届きまして……」


 獣人は一枚の紙をラクジャ王に配る。紙の内容を見たラクジャ王は驚いた顔をする。


 紙に書かれていた内容はこうだ。


『突然の訪問をお許し下さい。我々は聖ミリス皇国から派遣されました聖剣部隊であります。我々が突然訪問した理由は直接説明したい為、入国の許可を貰いたい所存でございます』


 なんと、聖ミリス皇国から派遣された部隊が獣人王朝アニニマに何の前触れもなく訪問して来たのだ。


「なんと……本当なら外の国の騎士団は入れないが……聖ミリス皇国の騎士なら入れるしか無いか」


 聖ミリス皇国は世界で最も信仰されているミリス教の総本山であり、国土は他の国と比べ小さいが光の使用者がどの国よりも多い。


 それに加えて聖ミリス皇国は他国への干渉力がとても高く、もし聖ミリス皇国の騎士団を雑に扱ってしまうと不利益を買う可能性がとても高い。


「聖剣部隊の者達が来たら即座に門を開けて歓迎しろ。そこのお前!至急宿の手配をしろ!」


 ラクジャ王はそう命令すると、二人の獣人は急いで王の間を出た。そして、王の間で一人になったラクジャ王は虚空に話しかける。


「これからミリス教の騎士達がこの国にやって来ます。お手数ですがしばらくの間ここを離れててもらいです」


 ラクジャ王は虚空に向かってそう言うと、いつの間にか玉座の後ろに少年が寄り掛かっていた。


「ミリス教の騎士団ね。確かに僕がいるのが気付かれたら大変だね、分かったよ。それじゃあしばらくの間はこの槍を預かるよ」


 少年はそう言うと、ラクジャ王が持っていた槍を持っていく。


「助かります。それではまた会いましょう」


「そうだね。それじゃあまた会おう!」


 少年は親しそうにラクジャ王にそう言うと、転移魔法陣を発動させ、王の間から居なくなった。


 先程の少年はラクジャ王自身何も知らない。唯一知っている事としては、代々獣人王は先程の少年と協力している事だけだ。


 ラクジャ王は少年が居なくなった事を確信すると、気を抜いたように玉座に深く座り直し溜め息を吐く。

 

「ふー……ミリス教の騎士だったり裏切り者だったり……本当に疲れる」


 ラクジャ王はそんな事を言いながらも聖剣部隊の訪問に向けて準備をし始めた。

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