7ー5 行き違い
空鳥族の族長コアの案内で、アルク達は大きい酒場の中にいた。昼間だがその日は休日と言うこともあり、多くの空鳥族は酒を飲んでいた。
獣人は酒好きな者が多く、アニニマでは有名な酒が数多く存在する。
アルクは冒険者と言うこともあり、外の世界をあまり知らない獣人達がアルクと話していた。
反対にイレナは大勢との会話に慣れていない為、コアと話していた。だが、時折アルクに助けを求める視線を移し、アルクは念話でイレナにアドバイスを出していた。
すると、アルクの方では僅かながら貴重な情報を聞き出すことが出来た。だが、イレナは相手が空鳥族の族長である事もあり貴重な情報を聞き出すことが出来なかった。
「それにしても外の者と話すのは悪くない!普通は外から来た者は中心地である陽獅族領に行くのだが何故ここに?」
「そ、それはそこにいる仲間が気に入っていた宿に泊まる為に来たんだ」
「なるほど……まずい!そろそろ集まりの時間だ!私はこの辺で失礼しよう!」
コアは用事があったのか急いで酒代を台に置き、翼を広げて何処かへ飛んで行った。
アルクはコアが居なくなった事を確認すると、獣人達と会話を抜けてイレナの隣に座る。
「良さげな情報はあったか?」
「何も無かった……やっぱり族長と言う事もあって口が硬かった」
「仕方ない。別に急いでないからゆっくりやれば良いんだ」
「うん……それでどうするんだ?私は宿に戻るつもりだけど」
「俺はもう少しここで飲みながら聴き込むよ。後リラと白蜘蛛用に夕飯を買っててくれ」
アルクは酒場を出ようとするイレナに夕飯を買っていく様に頼み、アルクは酒場で情報の聞き込みを再開する。
太陽が完全に沈み、休日だった酒場は更に客で溢れかえって来た。アルクは情報を簡単に吐いてくれそうな獣人を探す為に、酒場を軽く見渡す。
すると、酒場の端で何やら盛り上がっている獣人達が居た。アルクは集まっている獣人達が気になり、近くまで寄ると何故盛り上がっているのかが分かった。
獣人達はゴイと言う賭けをしていた。ゴイとは四つのサイコロを使う賭博であり、サイコロが出た目の大きさによって勝敗が決まる。
ゴイをしていた事を知るとアルクはチャンスだと感じた。何故ならアルクは数ある賭博でゴイだけは得意だったからだ。それに加えて、ゴイをしていた獣人達は揚げ物を掴んで食べていたせいか、手が滑りサイコロを上手く操れていなかった。
ゴイはサイコロをどれだけ上手く操るかで勝敗が決まる。
アルクは空いている賭博の席を探し、そこに座る。するとすぐにアルクの前に獣人が座り、掛け金をテーブルの上に置く。
それに合わせてアルクも掛け金をテーブルに置き、サイコロを振り始めた。
ゴイを始めてからアルクは大勢の獣人に勝ってきた。その際か観客側でもどちらが勝つかの賭けが始まっていた。
アルクは自身も大勢の獣人を相手にしているせいか、いつもより情報が集まる上に金も集まって来た。
帰る前に小腹が空いたアルクはアニニマの料理であるマッサルと言うひき肉と卵を練って油で揚げた物を頼んだ。
実際に運ばれたマッサルはアルクの想像よりも大きい上、量が多く得した気分になった。
運ばれたマッサルを口に運び飲み込むが、舌に苦い味が残った。だが、アルクは古い油が使われているなと思い込み、気にせずに次々と口に運んだ。
アルクは飲んだ酒と食べた料理の代金を支払ったが、ゴイで金を集めたお陰で手持ちの金が減るどころが増えていた。
アルクが酒場を出た時間達は深夜と言う事もあり、人通りが少なかったが賑やかだった。
だが、アルクは気付いていた。微かに数人の足音がアルクの後を追っている事に。アルクは本当に尾行されているのか確認する為に、敢えて少し暗い横道に入る。
すると、四人の獣人がアルクの入った横道の入り口の両端に寄る。
そして、リーダーと思わしき獣人の合図で横道に突入する。
だが、アルクはそこにはいなかった。そして、次の瞬間、後ろから短い悲鳴が聞こえ、先頭にいた獣人が振り返る。
そこには三人の獣人が逆さまで宙に浮いていた。先頭の獣人は目を凝らしながら周りを見ると、細い糸が辺りに張り巡らさていた。
「金目的か知らんが、何故付いてきた?」
アルクは顔を見せない為に、月明かりで影が出来ている所に立ち、更にフードを深く被っている。
「言うわけが無いだろ、人間!」
リーダーの獣人はそう叫ぶ。アルクは溜息を吐き、近くにある細い糸を引っ張る。
すると、何か切れる音と共に誰かが叫ぶ。リーダーの獣人は後ろを振り返ると、空中で縛られている獣人の一人の腕が切断されていた。
「さっさと吐かないと仲間の四肢が無くなるぞ」
アルクは淡々と話すが、内心は焦っていた。何故なら黒暗結晶の発見も神獣の解放も獣人の助けが不可欠だ。
もし獣人を殺し、死体が見つかってしまったら真っ先に疑われるのは外から来た異種族達だ。
だが、リーダーの獣人は情報を言う気配が無い。アルクは溜息を吐くと、腕を切断した獣人を止血し、気絶させる。
そしてそのままリーダーである獣人を気絶させて、アルクは素早くその場を離れ、眠りの宿屋へ急いで戻る。
アルクが襲われたので有れば、一緒にいたイレナとリラ、白蜘蛛にも同じようになっている可能性が高い。
眠りの宿屋の前に着くと気配を消しながらイレナとリラが止まっている宿の部屋に入る。だが、そこにイレナとリラがいなかった。
おそらく逃げたか捕まったかのどちらかだろう。だが、耳と鼻が良く聞くリラと感覚が鋭いイレナが捕まることはあり得ない。
アルクは二人が逃げた方に賭け、アルクも部屋に隠していた荷物を回収して、宿の代金を机に置き、宿から飛び降りる。
そして、アルクは人目に付かなそうな細く暗い横道へ入り、身を隠した。
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アルクの提案でリラと白蜘蛛の為に露店の屋台で夕飯を買ったイレナは軽い足取りで宿へ帰ろうとしていた。
明るかった空はすっかり暗くなり、夜食時なのか昼頃よりは獣人の数が多かった。
だが、しばらく歩いていると同じ獣人がイレナの後をずっと付いて来ていた。
さすが龍種と言うべきかイレナは直ぐに獣人の追手に気付く。イレナは追手を撒くよりその場で倒す方が早いと判断し、人目が付きにくい横道へ入る。
そして、追手はイレナに追いつこうと横道に入る。イレナはタイミングよく物陰から飛び出し、鳩尾に重い一撃を与える。
龍の一撃にはさすがの獣人でも耐えることが出来ずに気絶する。
(こいつ……酒場に入った時からいた奴だな)
イレナは空鳥族族長のコアの案内で酒場に入った時の記憶を思い出す。酒場に入った時には既に席に付いていた。
(敵だとバレたのか?だとしたらリラと白蜘蛛が危ない!アルクは……大丈夫だろう)
イレナはリラと白蜘蛛を心配し、急いで宿に戻る。だが、既にリラと白蜘蛛は居なくなっていた。そして、部屋には大量の足跡があった。
宿の部屋を見たイレナは頭に真っ先にとある事が思い浮かんだ。
それはリラは夜狼族である事が認知されてどこかへ連れ去られたかだ。
差別身分であった夜狼族が捕まりどこかへ連れ去られる。そして、利用者が多い宿の筈なのに誰も騒いでいない。それが大々的に出来るのは兵士だけだろう。
イレナは捕まったであろうリラを助ける為に、兵士達が多く駐屯している兵舎へ向かう事にした。




