7ー3 首都ビ・カル
獣人王朝アニニマ。それは12氏族により建国された、大陸で最も古い歴史を持つ国。だが現在は12氏族の一つである夜狼族は数が少なく、数年前に夜狼族は散り散りになってしまい事実上滅んだ。
その中でも代々獣人王朝の王に選ばれている陽獅族がいる。
獣人達は桁外れの身体能力を持っており、戦いに置いては竜人と並ぶ力を持つ。
その中でも陽獅族は別格だ。その中でも有名な話では神に何度も戦いを挑み、一度だけ神に勝った伝説がある程だ。
そして、勝った恩恵として神の力の破片を貰い受けたと言われている。
そして、その獣人王朝アニニマの首都にある街の一室で三人の獣人が集まっていた。
一人は獅子の様な見た目の獣人。そして残りの二人は鳥のような獣人だった。
「ふむ……やはりお前の予想通り砂漠に誰かが現れたようだ」
と、獅子の獣人。
「そうか。ではガルーダ。奴らが首都に入ったらさり気なく声をかけろ」
と、鳥の獣人。だが、見た目は梟に近かった。
「了解致しました。そして手筈通りに貴方様の前まで誘導致します」
と、鳥の獣人。だが、見た目は鳩に近い。
三人の獣人はそう言うと、二人は転移魔法で何処かへ消え、残りの一人の部屋に留まった。
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「とまぁ、獣人達とアニニマは軽くですがこんな感じです」
リラはアルクに抱えながら獣人王朝アニニマに着いて話していた。
「ですが多分今は11氏族だけになってると思います」
「夜狼族はほとんど居ないからか」
「そうですね……でも私が生きている限り夜狼族は滅んでいませんから!」
「それもそうだな!待て……遠くにあるのは……」
アルクは飛行中に遠くで何かを見つける。
眼下では砂漠が広がっており、時折サンドワームに襲われている魔物を見るぐらいだった。
だが、遠くでは緑色の景色が広がっている。
「樹海ですね。その中は比較的安全なのでそこからは歩いても大丈夫です」
「そうか、ありがとう。イレナ!ここからは下に降りて歩くぞ!」
「分かった!」
そして、アルク達は樹海に入る一歩手前に降りる。
「それで、リラ。ここから歩けば首都のビ・カルに着くのか?」
「その筈です。でも二日ぐらいは歩く必要がありますからそんなに慌てなくて良いですよ」
「分かった。じゃあイレナ。そういう事だからとにかく歩こう」
アルクはそう言うと樹海の中に入り、アニニマの首都であるビ・カルまで向かう事にした。
樹海は砂漠と違い比較的涼しく、沢山の鳥の鳴き声で賑わっていた。そして、空高くまで生えている巨大な木で日光が遮られている。
砂漠は数少ない食料と水を求めて様々な生き物が競争を繰り広げていたが、樹海に入ってからは競争どころか魔物同士が殺し合っている光景が無い。
「わぁ……この虫綺麗だな」
イレナは手を伸ばせば届く距離で飛んでいる青い蝶を掴もうとする。だが、それをリラは止めさせる。
「イレナさん!それは毒があるので触らないで下さい!」
イレナが掴もうとした青い蝶。それは強力な毒があると有名なドクガチョウだった。
「イレナさん?樹海では天敵から身を守る為に毒を持ついろんな生き物が居るので注意してください!」
「わ、分かった。気を付ける」
リラの言う通り、アニニマの樹海では天敵から自身の身を守る為に強力な毒を内包している生き物が大量に居る。そして、樹海で毒を持つ生き物は警告として派手な色をしている。
そして、しばらく歩いていると日が沈みかけていた。
アルクは野宿の準備をしようと寝袋やテントを出そうとするが、念のため宙に浮くようにテントを木に繋げる。
そして、完全に日が落ち夜空には満点の星空が現れた。
アルク達は木と木の間に布を引き、そこで座るようにしてアルクの作った料理を食べていた。
「イレナも見回りの時は下に降りない方が良い」
「何でだ?」
「得体のしれない虫とかいるかもしれないぞ」
「大丈夫だ。それに私は龍だ!それぐらいでビビってたら龍の名が廃れてしまう!」
イレナはそう言うと、アルクの制止を振り切り地面に足を下す。
すると、『グチャ』と何かを踏み潰す音が聞こえた。
「あー……大丈夫か?」
アルクは何かを踏み潰した後、しばらく動けないでいたイレナに声を掛ける。
「すまん、アルク。見張りをしばらく任せても良いか?」
イレナは明らかに気分が沈んだ様子にアルクに見張りを変わるように頼む。
「良いぞ。リラ、しばらくイレナを慰めてくれ」
「わ、分かりました……イレナさん?大丈夫ですか?」
「でっかい虫みたいな物を踏んだかもしれない……」
「洗い流しますから待ってて下さいね」
リラはそう言うとアルクに収納魔法から水桶を出すように頼む。アルクは水桶をリラに渡すと水を張り、イレナに足を入れてもらう様に頼む。
見張りの交代の時間が迫ろうとした時、立ち直れたのかイレナがアルクの肩を叩く。
「本当に大丈夫か?」
「リラのお陰でな。アルクの言う通り下に降りなければ良かった……」
「お前にとって樹海は初めての場所だから仕方ないさ。後偶にだが毒蛇が来ることもあるから気を付けろよ」
そして、アルクとイレナとリラで見張りを交代しながら朝を迎える。
樹海の朝は湿気がとても高く、近くの葉には露が降りていた。だが、気温は以外にも低く少し肌寒かった。
見張りをしていたリラは耳を動かしながら樹海の遠くを見ていた。11氏族達はとある年から夜狼族を差別してきた。それはまるで夜狼族以外の氏族が口を揃えたように一斉にと言われている。
もしそれが獣人の王である陽獅族達が中心で動いていたとすれば話は変わる。
(父さんと母さんだけでなくみんなをこんな目に合わせた責任を取ってもらわないと。それが無理なら私の手で……)
リラはそんな事を考えているとアルクに肩を叩かれる。
「朝飯の用意をしたが食べるか?」
「は、はい!食べます!」
リラは黒い考えを振り切るとアルクが用意した朝飯を口に運ぶ。
「確かこのまま行けばアニニマの首都のビ・カルに着くんだろ?」
「そうですね。一応私はフードを深く被ってますね」
いくら弾圧され、数が少なくなったとは言え夜狼族の見た目はアニニマに住んでいる獣人ならだれでも知っている。
だがそれはアルクもそうだった。闇の使徒としてバルト王国を始めとした様々な国から村までアルクの顔が知れ渡っていてもおかしくはない。
それに加えてドラニグルと違い協力者が極端に少ない状態だ。唯一問題が無いのは見た目が竜人のイレナと従魔の白蜘蛛だけだ。
「俺は髪の色を変える魔法は使えるんだが、リラは使えないからしばらくはイレナ頼みだ!頑張れよ!」
アルクは他人事の様にイレナにそう言う。イレナはため息を付き、渋々首を縦に振る。
そして一日目と違い、今度はイレナが先頭となって前を歩く。
しばらくすると、石畳で舗装された道路に辿り着く。
「そのまま進めばビ・カルに着きます」
リラの言う通り、道路に沿って歩いていると城門で列を成している所に着く。
城壁と城門は樹海の木で出来ているのか、木と直接繋がっている。
城門の方では、何故アニニマに来たのか、犯罪歴はあるのかの質問をされていたが、嘘を見抜く水晶が使われていなかった。
「あれは匂いで嘘をついてるかどうかを判断してるんです」
そして、遂にアルク達の番となりイレナ代表者として質問を答えていた。
「貴方達は何の目的でアニニマに来ましたか?」
「とある人から依頼を受けてきました」
とある人、それはクラシスで依頼を受けたのは間違いない。
「そうか。お前の背中に居るのは従魔である事は分かるか後ろに居る奴らは何だ?」
獣人はイレナの後ろに居るフードを深く被っているアルクとリラは誰なのか聞く。
「俺はこの竜人の仲間だ。こいつは奴隷でな。バルト王国の外れの街で売られてたのを買ったんだ」
アルクの言葉には嘘偽りはない。バルト王国の首都から逃げる途中の街で買った事は事実だ。
「本当の様だな……それでお前達に捕まった前科はあるか?」
獣人はそう言うと、アルクは直ぐに答える。
「俺はある。確か冒険者カードを無くした状態で街に入って、それで捕まった」
アルクは何度か捕まった事は敢えて言わずに、なぜ自分が捕まったのかだけを獣人に言う。
「そうか。まぁ嘘は付いていないようだな。それではビ・カルに入るが良い。問題は起こすなよ」
獣人はアルク達にそう警告すると、獣人王朝アニニマの首都であるビ・カルに入れてくれた。
ビ・カルに入るとすぐ目の前には露店が開かれており、様々な部族の獣人が物を買い漁っていた。
獣人王朝の首都は円状に広がっており、中心には王の氏族である陽獅族が暮らしており、そこを中心として残りの10氏族が放射状に暮らしている。
「このまま真っ直ぐ行けば陽獅族の街があって、右には音蝙蝠族、左には空鳥族の街が広がってます。宿を取るなら空鳥族がおススメです。あの人達は全体的に優しくて穏やかな人が多いですから」
リラのオススメでアルク達は空鳥族の街へ足を踏み入れる。
空鳥族は華やかな獣人が多く、緑や赤の体毛を持つ者や翼、鳥の脚を者もいた。
アルク達は宿を探す為に歩いていると、小さい子供に声を掛けられる。
「もしかして宿を探してますか?」
「そうだ。何かオススメの宿はあるか?」
「それならばついて来てください!」
その子供はそう言うと緑の翼を生やし、少し上へ浮く。
子供の獣人は先に進み、アルク達も急いで子供の獣人の跡を追う。
すると、広い宿まで辿り着く。そしてその看板にはなんと『眠りの宿屋』と書かれていた。
「ようこそ!眠りの宿屋本店へ!」




