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7-2 初めての砂漠

 クラシスの指示により獣人王朝アニニマへ向かうために準備を終えたのか、巨大樹の外にはアルクが立っていた。


 アルクはクラシスが用意してくれた、黒と赤が基調のローブを身に纏っていた。


「あれ?アルクはもう準備終わったのか?」


 イレナもアルクに続き、巨大樹の外へ出る。


 イレナもクラシスが用意してくれた白と赤が基調のローブを身に纏っている。


 イレナも準備を終えて外に出たが、アルクは小さい袋を腰から下げているのに対して、イレナは大きめのバッグを背中に背負っていた。


「ああ。道具とかは収納魔法に入れたからな。イレナはまだ使えないのか?」


「そうなんだよ。いくら収納魔法をやろうとも失敗するんだ」


「仕方ないさ。収納魔法は直接別次元に干渉する。失敗したら腕の一本は失っても仕方ないから気にしなくて良い」


 アルクとイレナが話していると、リラと白蜘蛛が一緒に外へ出た。そして、その後に大規模な転移魔法を発動させるために、クラシスも外へ出る。


「リラ。今回はお前の故郷に行く必要があるんだが大丈夫か?」


 アルクはリラと一緒に故郷であるアニニマへ向かう事に心配していた。アルクもアニニマで夜狼族がどの様な扱いを受けてきたのかリラから直接聞いた事があった。


「大丈夫です!それにご主人程ではないですが強いので!」


 アルクの心配とは余所に、リラは元気な声でアルクに応える。


「そうか。それじゃあアニニマの案内は任せるぞ」


「了解です!」


 すると転移魔法の魔法陣を描き終えたのか、クラシスはアルク達に声を掛ける。


「そろそろ転移させるが……今回は前の様に途中でバラバラにならないようにしたから安心してくれ!」


「「「え?」」」


 クラシスはそう言う、三人は固まる。


 ドラニグルへ向かう際に転移魔法に問題があったが、三人はこの問題がクラシス本人ではないと考えていた。


 何故なら自分達の先生であり、神の一角がこんな初歩的な間違いをしないと思っていた。


「ちょっと待て、クラシス!」


 転移魔法を発動しようとしているクラシスに、アルクは急いで声をかける。


「どこに転移させるつもりだ?」


「どこって……アニニマの首都のつもりだけど?」


「せめて少し外れに転移させてくれ!いきなり首都の近くで転移したら色々と面倒になる!」


「それは分かってるわよ。大船に乗ったつもりでいなさい!それじゃあ行くけど……イレナ!これをあげるわ!」


 クラシスはそう言うと、指輪をイレナに向かって投げる。


「それは収納魔法の代わりでもあるから大事に使いなさい!それじゃあ転移させるわ!」


 クラシスは転移魔法を発動させる。


 場所はほぼ真逆の西に位置する。そして、獣人王朝アニニマに行くにはバルト王国王都、聖ミリス皇国を超える必要があるため、竜人王国ドラニグルへ向かうより時間が掛かる。


 アルクは獣人王朝アニニマに着くまでにある程度時間が掛かると判断し、魔法陣の上で寝転がる。

 

「獣人王朝か……帝国が心配だな」


「ん?帝国がどうしたんだ?」


 イレナは魔法陣の上に座ると、アルクに声を掛ける。


「それがな。知っていると思うが獣人王朝アニニマの北東にはニハル帝国があるんだ」



――――――――――

ニハル帝国


 この大陸で258年前に建国された歴史を持つ数少ない国。バルト王国とは長い期間争っていた。どの国よりも違う点は技術力がどの国よりも秀でている。


 ニハル帝国が生産した魔力を使わずに使用できる「銃」と言う武器は鉄をも貫く力を持つと言われている。


―――――――――――


「ニハル帝国がある事は知っているが……何が心配なんだ?」


「実はあの帝国は近くに獣人王朝がある事を良い事に獣人を攫ってるらしいんだ」


 アルクのその言葉にリラは反応する。


「ご主人……やっぱりそれって……」


「そうだったな。らしいじゃなくて攫ってんだよ。あのクズ共は」


 ニハル帝国は鉱山など重労働には良く奴隷を使う。それではその奴隷はどこから調達するのか。


 簡単な話、大半は犯罪者を無理矢理奴隷の身に落とし、それでも労力が足りなければ裏家業の組織に攫ってもらう様に頼み、奴隷に落とす。


 リラも例外では無かった。元々、リラの様な夜狼族は他の獣人族にとっては穢れた一族として弾圧さ、ニハル帝国の国境近くで暮らすしかなかった。


 ニハル帝国はそれを良い事に、獣人王朝の王と一度だけ手を組み、夜狼族を根絶しようと部落を襲った。


 その際にリラの両親とリラは離れ離れになってしまった。


「ニハル帝国と獣人王朝が手を組む程、夜狼族の根絶に力を入れていた。俺はそこに引っ掛かってるんだ」


「引っ掛かってるって何が?」


「単純な話だ、イレナ。何故獣人族達はリラの様な夜狼族を弾圧するかだ。弾圧をするにも必ず理由がある。だから、今の俺の目的は黒暗結晶の浄化もそうだが獣人王朝の王に直接あって話を聞きたいんだ」


 アルクの話を聞き終えるとリラは隣までより、アルクの隣に座る。


「でもご主人。別に私は気にしていません。ただ両親を探したいだけです」


「そうか……でも両親と離れ離れになった要因は獣人の王にもあるかも知れないんだぞ?」


「もし獣王もそれに加担していたら……直接会って話を聞きます」


「アルク、リラ、待て!獣人の王はどんな奴なのか私は知らないんだが……」


「獣人の王は一言で言えば賢王だ」


「賢王?ならば何故弾圧と言う愚かな事をしてるんだ?」


「それが分からないんだよ。リラの様な夜狼族には何か特別な力が宿っていて、それを排除する為にやってるなど噂が飛び交ってるんだ。でも誰も本当の事は分からないみたいなんだ」


「そうなのか。リラは何か心当たる節はないの?」


「生まれた時からずっとこうだったので私でも分からないんです」


 すると、高速で流れていた外の風景は突然止まり、辺り一面に砂漠が映し出される。


「どうやら獣人王朝に着いたみたいだ。全員ローブのフードを被る様に。特にリラは気をつけた方が良い」


 アルクの言いつけ通り、リラは誰よりもフードを深く被る。


「それにしてもどこだ?砂漠がだから外に転移されたと思うが……」


 アルクはそう言いながら、収納魔法から地図を取り出す。


 獣人王朝アニニマは二つの気候で分かれている。外側は砂漠で囲まれており、中心に行くにつれて樹海へと変わっていく。


 そして、樹海の中心にはアニニマの首都であるビ・カルが存在している。また、首都を中心として11の部族がそれぞれで集まって暮らしている。


 つまり、アルク達が転移されたのはビ・カルか相当遠い位置だと言う事が分かる。


「ご主人……ここは危険なので早く移動しましょう!」


 リラはここがどこなのか知っているみたいだ。


「危険ってなん……」


 アルクはそう言いかけると、遠くから大量の砂埃を出しながらやってくるのを確認する。


「ああ……そう言う事?」


 そして、アルクは遠くから来る物の正体を理解した。その正体は砂漠地帯にしか生息しないと言われるサンドワームだった。


 アルクは急いでリラを抱え、イレナの手を引っ張る。


「待て、アルク!あれは何なんだ?」


「それは後で説明する!今はとにかくアイツから逃げるぞ!」


 アルクは急いで飛行魔法を発動しようとするが、上手く行かない。


 それもそうだ。魔法陣を展開する為に必要な両手が塞がっているからだ。


 アルクは飛行の代わりに大きめの岩場を探す為に周囲を見渡す。


 すると、右手に大きい岩場を発見する。


「イレナ!手を離したら右の岩場に走れ!死ぬ気でな!」


 そして、アルクはイレナの返事を聞かずに手を離す。さすがは龍と呼ぶべきか、アルクよりも早く右手にある岩場に辿り着く。


 そして、少し遅れてアルクもリラを抱えた状態で岩場に登る。


「はあ……はぁ……それであれは何だったんだ?」


「あれはサンドワームと言って砂漠の暴食の悪魔と言われる魔物だよ。その名の通り音を立てたらすぐにサンドワームに襲われて喰われるんだ」


 イレナはアルクの話を聞き終えると、今度は音を出さずに岩場から降りようとする。だが、その瞬間、サンドワームの背ビレが現れ、イレナを食べようとする。


 だが、イレナはその瞬間に魔法をサンドワームの口に向けて、高温の炎を放つ。通常ならそれだけで普通の魔物は死ぬが、サンドワームは死なない。


 イレナはサンドワームが怯んだ隙に、再び岩場に上り直す。


「なんであれで死なないんだよ!」


「仕方ないさ。アイツは熱耐性が異様に高いうえにあいつの中身は分厚い脂肪で守られてる。だからよ、飛ぶしかないんだわ」


 アルクの提案にイレナは素直に聞き入れ、アルクはリラを抱え、イレナは白蜘蛛を抱える。


「具体的な方向は分かんないからリラが案内してくれ」


 アルクの言葉にリラは頷き、獣人王朝アニニマの首都へ向かうためにアルクに方向を教えながら、首都へ近づいて行った。

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