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7ー1 獣人王朝アニニマへ!

「あれ?ここは?」


 一人の少年は辺りを見渡す。家は焼け落ち、足元には焼き爛れた人だった者達が転がっている。そして自分の右手は赤く染まっており黒い刀を持っている。


「お……お兄ちゃん?」


 どこからか少女の声が聞こえ、少年は少女を探す。


 しばらく探していると、崩れた建物に寄りかかる形で少女がいた。だが、その少女には闇の証である黒い翼が生えていた。


 少年は少女に駆け寄ろうとするが、空から黒い魔物が降りてくる。


 少年は魔物と対峙するが、魔物の方は少年を見ていない。むしろ少女を凝視していた。


 そして魔物は腕を上げる。


 少年はそれだけで、目の前の少女を殺すつもりなのだと理解する。


[光魔法・聖なる槍]


 少年は少女を守る為に白い翼を生やし、白い槍を黒い魔物に向けて放つ。


「逃げろ!後で追いつく!」


「わ、分かった!」


 少女は泣きながらも少年の言葉に従いその場から離れる。


 黒い魔物は自身の獲物が逃げた事に怒ったのか雄叫びを上げて振り返る。


 後ろを向いていた為分からなかったが、胴体に無数の傷が出来ていた。恐らく少女と戦って出来た傷だろう。そして顔を見せたくないのか仮面を被っていた。


 何よりも少年が驚いたのは人間の様な見た目に加えて剣を持っていた。


「殺してやるよ、クソ野郎」


 少年は恨みと怒りを込めて言う。そして周囲に魔力を撒き散らしながら黒い魔物との距離を詰める。その小柄な体に見合わず、素早く重い斬撃を繰り出す。


 黒い魔物は反応しきれずに新たな傷が生まれる。


「その仮面。息苦しいだろう?取ってやるよ!」


 少年はそう言うと魔法を至近距離で放ちながら、黒い魔物を翻弄しながら仮面に向けて複数の魔法と斬撃を放つ。


 縦横無尽な斬撃に加え、四方八方から迫る魔法に黒い魔物は防ぎきれずに顔に全て喰らってしまう。


「ハハハ……やっぱりお前は強いな」


「は?」


 黒い魔物、魔物だった敵は言葉を話した。それも少年と誰よりも親しそうに。そして黒い魔物の仮面が完全に砕け散った時に少年は絶句した。


 何故なら黒い魔物の顔はかつて兄と呼ぶに相応しい程親しかった者だったからだ。


「待って……なんで?なんで……君が皆を……」


「これも全て必要だったからだ。事実、君と君の妹は目覚めた。これから障害である君を殺す。そしてこれから僕らの力になるであろう君の妹は洗脳して良いように使う」


 黒い魔物はそう言うと呪文を唱える。


「もう良い!殺してやるよ!お前を!骨の一片も残さずに!」


「ハハ!これが6歳の子供が言う言葉か?良いだろう!来い!」


 黒い魔物は剣に闇を纏わせる。少年は刀に光を纏わせる。そして二人は同じ剣の構えを取る。


[[アレキウス神滅剣・神滅ノ刃]]


 そして二人の武器が交差した時、視界が暗転した。


……

………

…………


「……た!お……きて!」


(誰だ?ここは?)


「翔太!起きて!」


「はぁ!」


 翔太は雪の必死な声に目を覚ます。雪は泣いていたのか目を赤くしていた。雪以外の蓮司や梨花も慌てたような顔をしていた。


「あれ?どうしたの?」


「どうしたのじゃねぇよ!そろそろ見張りの時間なのに中々起きなくて心配だったんだぞ!」


 蓮司は翔太の肩を揺らしながら、翔太に迫る。翔太は蓮司を振りほどき、比較的落ち着いている梨花に何が起こったのかを聞く。


 黒暗結晶の出現が預言された場所である獣人王朝アニニルへ向かう馬車に乗った瞬間、翔太は深い眠りに落ちてしまった。


 始めは皆、疲れが溜まっているのだろうと思っていた。だが見張りを交代しようと蓮司が翔太を起こそうとするが一向に起きる気配が無い。


「そうだったんだ……心配させてごめん。やっぱり疲れが溜まってたのかな?」


「そうだよ、翔太。最近頑張りすぎなんだからさ。楽していこうよ」


「ありがとう、梨花。そうだね……しばらくそうしてみるよ。それじゃあ蓮司。交代するよ」


 翔太は蓮司にそう言うと馬車から出て、蓮司が乗っていた馬に乗り移る。


「ショータ!大丈夫だったのか?」


 後続の馬車から翔太を心配する声が聞こえる。すると、翔太の乗っていた馬の隣まで別の馬がやって来る。


「セイラさん!ごめんなさい!みんなの話だと馬車に乗った瞬間寝ちゃったみたいで……」


「そうなのか?やはり詰め込み過ぎたかもな。気付いてやれなくて済まない」


「セイラさんが謝る事じゃないですよ!それに死なない為にはあれぐらい頑張らないと!」


「そうか?でもしばらくはアニニルに向かうために馬車での移動だからしばらくは休暇だと思って良い」


「はい!ありがとうございます!」


 翔太はしばらくセイラと話をし、アニニルまで着くまで馬車を走らせた。


ーーーーーーーーーーーーーーーー


 とある巨大樹の内部で一人の女性が走っていた。走っている女性は始祖神龍であるクラシス=ノヴァだ。


 アルク達が竜人王国ドラニグルから帰ってから既に3週間が経っている。


「やっと見つけたよ!」


 クラシスはドアを勢い良く開けると食事を取っていたのか、広めのテーブルを囲っていた者達がいた。


「どうしたの母様?見つけたって……まさか!」


「そうよ、イレナ!黒暗結晶の次の発生地を見つけたの!説明するから食器をどかすわよ!」


 クラシスは魔法を使い食材が乗った食器を端へと寄せる。


 途中でレイリンの「ワシの酒が……」と聞こえた気がするがクラシスは気にせずに魔法で世界地図を見せる。


「ところでアルクはどこに行ったの?」


「アルクなら散歩するとか言って外に出たぞ……酒までもうちょい……」


「まぁ後でアルクにも説明するわ。次に出現する場所は獣人王朝アニニマよ!」


 クラシスは意気揚々と砂漠と樹海に囲まれた都市を指差す。


「幸いな事に獣人達の祖である神獣とも仲が良いから相談して――」


「神獣なら封印されたぞ」


 アルクは散歩から帰ったのかドアに寄りかかっていた。


 だが、それよりもクラシスは信じられない事を聞いた様な顔をしていた。


「え?もう一度言ってくれる?神獣がどうしたって?」


「いや、なんか封印されたって聞いたけど?」


「そ、そんな筈はないわ!始祖神獣である彼が封印される事なんてありえない!」


「噂で聞いただけだから真実は分からない……そう言えば始祖神達は念話で会話が出来るって聞いたけどやってみたらどうだ?」


「そ、そうだった!少し待ってて!」


 クラシスは急いで神獣へと念話を飛ばす。


 白く綺麗でシミ一つないクラシスの顔は次第に青ざめていく。それだけでアルクは先程の噂は本当なのだと気付く。


「マズいことが起こった……ファタンが本当に封印された……」


 クラシスのその言葉でアルクだけでなくイレナとレイリンも動きを止める。


「おもしろい冗談じゃ!ガハハハ!」


「本当の事よ、レイリン」


「本当なのか?だとしたら均衡がいつ崩れてもおかしくない」


「そうわね……だから三日後に飛ばす予定だったけどあなた達を今日中に獣人王朝に飛ばすわ!急いで準備しなさい!リラと白蜘蛛も一緒に飛ばすから準備しなさい!」


「わ、分かった!」


 クラシスの言葉と共にアルク達はそれぞれの自室に戻り、剣や薬品などの必要な物を集めに行った。


 だが、一人だけは自室に戻らずに椅子に座っている者が居た。


「どうしたの?リラ」


 自室に唯一戻っていなかったのは元奴隷の獣人のリラだった。


「いや、その……」


「言いなさい。相談を受けるのも私の役目よ」


「はい……実はアニニマに戻る事が不安で……」


「どうしてなの?」


「私達、夜狼族は他の部族の人達から迫害されてて……例え自分の部族の事を話してなくても、この髪色でバレて」


 リラは奴隷になる前の自身の事についてクラシスに話す。


「ふーん……でももう大丈夫よ」


「なんでそう言い切れるんですか?」


「なんだって……」


 クラシスはそう言うとリラを抱き寄せる。


「貴方は私とレイリンによって直接鍛えられた。それに加えてアルクと共に過ごしたお陰で心が昔より一層強くなった。今の貴方は昔とは大違いに成長した。だから胸を張りなさい」


 クラシスはそう言うと、リラの背中を強く叩く。


「この全ての龍の祖である私が言うんだから信じなさい!さあ!早く貴方も準備しなさい!」


 リラは力強く返事をすると自室へ戻り、アニニマへ向かう準備をし始めた。


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