6ー53 帰還
クプ二村に付いたアルクとイレナはドラニグルでの出来事をクラシスに報告するために、巨大な樹の所まで歩いていた。
そしてアルク達が巨大な樹の前に立ち止まると、巨大な樹に穴が開き、アルク達は中に入る。すると、そこにはクラシスだけでなくレイリンもいた。
「久しぶりかな?」
イレナは久しぶりに会う気がするクラシスとレイリンに向かってそう言う。
「いえ、そうでもないわ。一週間程かしら?」
クラシスはそう言うとイレナは驚いた。だが、アルクはお構いなしにクラシスにとある事を聞く。
「ドラニグルでの出来事。どれぐらい予知していたんだ?」
「ガイアが目覚めるまでは予知していたわ。でもその後の闇の民の乱入までは予知していなかった」
「そうか……それで?次はどこに出るんだ?」
「それはまだ分からないわ。そんなに思い詰めなくていいのよ」
「別に思い詰めてるなんて……」
「思い詰めてるわよ。証拠にまだ疲れが取れてない。私の目は誤魔化せないわよ……まぁ良いわ。それにイレナも光を使えるようになったみたいだし。後で使い方を教えてあげるわよ」
イレナは光を完全に使える様になったが、効率の良い使い方をまだ知らない。もしこのまま戦ってしまえば直ぐに光が枯渇して戦えなくなってしまう。
そして、アルクはクラシスの言う通りアルクは疲れが溜まっていた。だが、アルク自身一秒でも早く黒暗結晶の闇を浄化しなければならないと思っていた。
だが、クラシスの言う通り次の出現場所が分からない限り急いでも意味が無い。アルクは素直にクラシスの言葉を聞き入れ休む事にした。
そして、アルクが休んでから既に昼を過ぎていた。アルクは自身の部屋から出ると未だに外でクラシスがイレナに光の効率の良い使い方を教えていた。
流石イレナと言うべきか、クラシスの教え方が上手いのか、イレナは光の使い方が昨日と比べて格段に違っていた。
「あら?もう休まなくて良いの?」
アルクが起きたのを気付いたクラシスはアルクに声を掛ける。
「ああ。疲れが溜まってただけだったからな。少し寝たら楽になったよ」
すると、イレナは立ち上がり剣を収納魔法から取り出す。
「アルク!勝負をしろ!」
「なんでだよ?」
「ドラニグルで私に言った言葉!忘れたわけではないでしょう?」
アルクはドラニグルでイレナに何を言ったのか思い出そうとする。
「『その程度の薄い光でその態度……世間知らずで幸せ者だな』……私に言ったのよ!」
アルクはイレナに言われ思い出した。
「いや……あの時は少し警戒してて……」
「問答無用よ!さっさと剣を出しなさい!お母さまはここで見てて!」
「ええ……クラシスは……」
「良いんじゃない?それに妹弟子を成長を受けるのは兄弟子としての役目じゃない」
クラシスの言葉にアルクはため息を吐きながらも収納魔法に手を伸ばす。
すると、身に覚えのない持ち手の剣が入っている事に気付き、剣を引き抜く。
引き抜いた剣はファルカから借りた緑色の剣だった。
だが、アルクは無断で持ち出してしまった事を気に留めずにイレナに向かって構える。
そして、クラシスの合図と共にイレナは光を解放し、光の槍をアルクに向けて放つ。
イレナが放った光の槍は少ない光でありながらも密度が異様に高かった。その為、槍は当たれば普通の魔物は蒸発してしまう。
すると、イレナは信じされないものを見た様な顔をした。何故なら、アルクがイレナの放った光の槍を手で掴んだからだ。
通常なら触った瞬間にあらゆる物が蒸発する筈なのだ。
「言っただろ?お前の光は薄いって……な!」
そして、アルクは掴んだ光の槍を持ち直し、ある程度アルクの魔力を槍に流し、イレナに向けて投げる。
だが、イレナもアルクに対抗して槍を掴もうとする。
イレナは光の槍を掴む自信があった。何故なら自身の光で作り出したのだから掴めて当然だと思っていた。
「何してる!避けろ!」
アルクが動こうとしないイレナに向かって叫ぶと、光の槍は消滅する。いや、クラシスによって消滅させられたのだ。
「何してんだよ、馬鹿トカゲ!もしクラシスが消してくれなかったら死んでたんだぞ!」
イレナはアルクに言われた事が理解出来ずにいた。
「でも私の光で作った槍なんだよ?防げると思ったのよ!」
「まさかお前……気付かなかったのか?」
アルクは光の槍にある細工したことをイレナは気付いていなかった。
「イレナ。アルクの言う通り、私が手を出してなかったら貴方は死んでいたわ。それにアルクは光の槍に自身の魔力を込めたせいで貴方が放った槍より何十倍も威力が上がっていたのよ。それのこれがその証拠よ」
クラシスはそう言うとイレナに近づき、手のひらを見せる。すると、通常なら傷一つ付くことが無いはずのクラシスの手のひらに大きな火傷が残っていた。
「それにしてもアルク、貴方……また魔力量が上がったのね?」
「ああ。でもほんの少しな!」
そして、クラシスは再びアルクとイレナから離れる。それに合わせてアルクとイレナは再び剣を構える。
クラシスは再開の合図をすると、先にアルクが仕掛ける。イレナはアルクの素早い動きに驚きながらも魔法を放つ。だがアルクはイレナとの距離を詰めながら、イレナが放った魔法を全て切り伏せ、逆袈裟斬りをする。
だが、アルクの剣はイレナの翼によって防がれ、反撃として至近距離で龍魔法を喰らってしまう。
イレナが龍魔法を放った際、広範囲で地面が焦げた事により黒い煙が立ち込めていた。
イレナは上手く当たったと思い、少し警戒を解く。すると、黒い煙の中から何かが光り出したと思うと黒い煙を掻き分け、イレナに向かって剣を振ろうとする。
そして、アルクの剣が無防備のイレナの胴体に当たりそうになった瞬間、クラシスの魔法によってアルクの剣が止められる。
「この勝負はアルクの勝ちね!イレナは何か文句ある?」
クラシスの問いにイレナは言う。
「なんで光を効率よく使える様になったのに負けたのかまだ分からないです」
「それはね、イレナ。光を効率よく使える様になっただけでまだまだ経験と技術力が足らない。実際にアルクが光の槍を撃ち返した時にやったのは圧倒的な技術力が無いと出来ない技なのよ」
イレナは勝負の時に死にかけた事を思い出す。確かに思い返してみれば、光の槍にアルクの魔力が混じっていた。
「でも少し前と比べてとても良くなっているわ。それは本当よ。後は経験を技術力が育てば貴方はアルクより何倍も強くなる。これは嘘でもなく確実な事だから安心して」
そして、クラシスは最後にある事を付け加える。
「イレナ。今から言う事は大事なことよ。これから自身の事を『白龍』と名乗ることを許可するわ」
クラシスの言葉にイレナは驚いた顔をする。それも当然だ。この世に生まれてまだ10年くらいしか経っていない幼い龍が『白龍』と名乗る事を許可された。
彼女の兄であるルドも姉であるセラシーンも長い期間の間ひたすら力を蓄えようやく『炎龍』や『水龍』と名乗ることが許されたのだ。
「言っておくけど何もおかしくないわよ?だってルドですら自身の力の源である炎を完全に扱えるようになるまで500年以上も掛ったのよ。それぐらい当然よ?だから自信を持ちなさい!」
そして、イレナに光の使い方を出来るだけ多く抑えようとする。だが、それはアルクに止められる。
「流石にイレナも疲れてんだ。休ませた方が良い」
アルクの言葉は正しかった。黒龍ガイアとの戦いで光を発現してから、ずっと光を使っていた。体は大丈夫でも精神的に負担が少なからず掛かっている筈だ。
「それもそうね!それじゃあ、イレナ。光の使い方はまた明日にして今日はゆっくりしましょう!私はアルクとまだ話があるから行ってて良いわ」
イレナはクラシスの言う通りに休む為に巨大な樹へ向かう。すると、自身に掛かっていた疲労が今頃になって感じたのか足取りが重くなっていた。
「あの様子だと自分でも気付いてなさそうだったな」
「そうね。まぁ誰でも光を発現させてからいきなり使えばイレナの様になるのは当然よ……さてと。それじゃあ、アルク。今度は貴方の番ね」
クラシスに言われ、アルクは闇を解放する。アルクの闇はクプニ村に戻った頃よりも濃くなっていた。
通常の闇は適正のない命ある物に触れれば命を奪ってしまう。逆に言えば適正があれば闇に触れても命を奪われる事はない。
白黒時代の頃の大地では殆どの生き物や植物が闇に適正を持っていた為、自生することが出来ていた。
だが、アルクの零れ落ちた闇が地面に触れても、近くにあった草には何も変化が無い。
それどころか、枯れかけていた花に生気が戻っていく。
「どんどんと闇の性質が光に似ていくわね」
「当たり前だ。元々は光だったんだから似てても仕方ない」
「それもそうだけど昔は命を奪ってたじゃない」
「でも偽装魔法で光に見えるようにしても違和感が無いように見えるから良いじゃん」
「それもそうね……それじゃあ貴方の闇がどれ程成長したか見せてちょうだい!」
アルクはクラシスの言う通りに闇を可能な限り解放する。
アルクが放った闇は周りを巻き込みながら、黒く染めていく。
そして限界を感じ、アルクは闇を解放するのをやめる。
「じゃあその解放した闇を使って私を攻撃しなさい!私を驚かせる事が出来たら今日はもう終わりにするわ!」
アルクは解放した闇を全て手のひらに集める。そして、手のひらに集めた闇を球状にする。
球状にした闇は高密度になっているのか、闇の周りには黒い雷のような物が走っていた。
「それじゃあやるぞ!」
クラシスに向かってそう叫ぶと、球状にした闇を投げる。
投げられた闇は、バチバチ、と音を鳴らしながらクラシスに迫っていく。
クラシスは両腕を龍化させ、アルクの投げた闇を受け止める。だが、勢いが強いのかクラシスは押されてしまう。
クラシスはこのまま受け止めるのは難しいと考え、受け流す事にした。
闇を受け止めていた手を平らにして、空に行くように動かす。
空に受け流された闇は行き場を失ったのか複雑に動き、最後には大爆発を引き起こした。




