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6-52 緊急逃走

 黒龍の戦いから翌日、アルクは王城の騒がしさによって目を覚ました。


 昨日までは比較的静かな王城は、人の足音や何かを運んでいる事が鳴り響く程の音がなっている。


 アルクは王城で何があったのか扉の前に居るであろう龍人の兵士に話しかける。


「はい。実はいきなりどこかの国の賓客が来るらしくて……何せ朝にいきなり知らせが来て……」


 アルクは竜人の兵士の話を聞いて、とある可能性が思い浮かぶ。


 それはいきなり来る賓客はミリス教関連なのではないかと。


 おそらく黒龍ガイアの目覚めは既に色んな国に広がっている筈だ。あれ程の濃い闇は、例え離れた国であろうとも感じ取れる者はいる筈。


 そして、いきなり来る賓客は光を信仰しているミリス教関連だと考えた。


 アルクはドラニグルに長く滞在するのは危険だと判断し、急いで部屋を出てイレナを探す。

 

 すると、曲がり角を曲がろうとした時、誰かにぶつかる。


「ルル!大丈夫か?」


 アルクのぶつかった相手はルルであった。ルルは黒龍戦争の際、ドラニグルの王都に魔物が入り込まないように頑丈な結界を常に張り続けていた。


「ルル様!大丈夫ですか?」


 すると、ルルの隣にいた白いマントを被った誰かがルルを支えながら立たせる。


「大丈夫です、モタさん。そうだ!紹介します!始祖龍の使者のアルク様です!」


 ルルが立つと、隣にいたモタと呼ばれる男性にアルクを紹介する。


「アルク?もしかして……貴様!」


 モタはアルクの名前を聞いた瞬間、杖を取り出し魔法を唱えようとする。だが、アルクはあらかじめ唱えていた魔法を放ち、モタを眠らす。


「あ、アルク様!?一体何を……」


「静かに!やっぱり……」


 アルクは眠らせ、地面に倒れているモタの懐を物色し、とある白い板を取り出す。


 それはミリス教の信者の証である「聖痕板」だった。


「ルル!イレナの部屋に急いで案内してくれ!」


「え?わ、分かりました?」


 ルルはアルクの切迫感に驚きながらも、アルクをイレナの部屋に案内する。


「イレナ!入るぞ!」


「は!?ちょっ!待て!」


 イレナのそんな言葉を無視してイレナの部屋に入る。すると、着替えの途中なのか上着を着ていなかった。


「アルク!どういう――」


「緊急事態だ!今すぐドラニグルから離れるぞ!」


 イレナは着替えの途中に入ってきたアルクを咎めようとしたが、アルクの勢いに飲み込まれてしまう。


「早くここを離れないと大変な事になる!急いで準備してくれ!」


「わ、分かった!」


 そして、イレナがある程度準備を終えると、そこへイグゾースが入ってくる。


「アルク!急いでここを離れろ!ミリス教の奴らが来た!」


「分かってる!」


「アルク!準備は終わったぞ!」


「そうか!それじゃあアイツらにバレないように王都を出るぞ!」


 アルクはそう言い、イレナと共に部屋を出る。すると、そこへ眠らせた筈のモタがいた。


「居た!闇の使徒アルクだ!」


 モタがそう叫んだ瞬間、ミリス教騎士が左右の廊下からやってくる。


「アルク。どうする?」


「窓から外に出るぞ」


 アルク達は左右から迫り来る騎士達に目眩しとして黒い霧を放つ。


 そして、正面から出るのは無理だと判断して、イレナの寝ていた部屋の窓から逃げようとする。


 だが、黒い霧から光の鎖が現れ、イレナに巻き付く。


「闇の使徒め!逃げれると思うなよ!」


 すると、イレナに巻き付いた光の鎖を頼りに黒い霧の中からモタは短剣を持ちながら現れる。


 だが、イレナは力だけで光の鎖を引きちぎり、モタを殴り、距離を離す。


「イレナは先に行け!後で追いつく!」


「分かった!」


 イレナはアルクの言葉を信じて、龍の翼を生やし、一足先に王城から離れる。


 だが、アルクはイレナの部屋に留まり、イグゾースとルルにある事を伝える。


「良いか?この国を救ったの龍達って事にしろ。そして俺とイレナはたまたまこの国に不法入国した事にしておけ。分かったな?」


 アルクはこの国を救ったのが闇の使徒となっている自分ではなく龍達であった事。そして、何故アルクがこの国にいた事についてイグゾース達に伝える。


「最後にルル。協力してくれるか?」


「分かりました!」 


 すると次の瞬間、モタと大量のミリス教騎士が部屋に押し入る。


 アルクはルルを人質の様に羽交締めをして、首に短剣を当てる。


「来るんじゃねぇ!来たらこいつを殺すからな!」


 アルクの言葉に突撃して無理矢理制圧をしようとしていた騎士達は動きを止める。


 だが、モタは何が余裕そうな顔をしていた。


「やれるもんならやってみろ。俺は知ってるぞ?お前は無意味な殺しをしない事を。お前達!行け!」


 モタの言う通り、今のアルクをルルを殺すつもりは毛頭ない。


 モタの指示に従い、騎士達はアルクに近づく。すると、アルクはルルの脚を短剣で刺す。


 ルルは突然自身を襲った痛みに叫ぼうとしたが、アルクの手によって口を塞がれる。


「これでもコイツを殺す事が無いと思うか?」


 そして、アルクは血を流しているルルを連れて窓を飛び出す。


 だが、騎士達も急いでアルクの後を追う為に部屋を飛び出した。


「あ、アルク様……一体何を……」


「ルル。悪く思うなよ」


「え?」


 アルクはそう言うと、抱えていたルルから手を離し、ルルを落とす。


 ルルを落とした高さでは魔法を発動しなければ地面に叩きつかれ死んでしまう。


 ルルは急いで魔法を発動しようとするが魔法が発動しない。そしてルルはとある事に気付く。


 それは、自身の体の中にある魔力の量が極端に減っていた。


 そして、その時ルルは初めてアルクを疑った。アルクは本当にこのまま自身を見捨てて逃げるのか。


 すると、今まで感じていた落下の浮力が収まり、何者かに抱えられる。


 それはミリス教騎士だった。


「闇の使徒め!巫女を人質にするとは!」


 そして、ルルは騎士の言葉を聞いて悲しい気持ちになる。


(アルク様……まさか責任を全て自身に背負うおつもりですか?)


 もし、アルクがルルを人質にせずに逃げてしまえば、ドラニグルは闇の使徒に協力していた事になってしまう。


 だが、ルルを人質にして殺す素振りを見せる事で、アルクの目的はルルを殺す事だと錯覚させる。


 全てはドラニグルに責任を負わさない為に。


「騎士様!私を神龍教の本堂に連れて行って下さい!」

 

 そして、騎士に連れられ神龍教の本堂に着いたルルは急いでアルナを探す。


「アルナ!」


「ルル!?どうしたんだ?」


「お願いがあります!アルク様達が逃げられる様にミリス教騎士を怪しまれない程度で足止めして下さい!」


「分かった!」


 アルナはイレナの切羽詰まる顔で何が起こったのか感じ取る。アルナはアルクの逃亡を手助けするために外に出る。


「ちょっと!ドラニグルで何をしているんですか!」


 そして、アルナはアルクを追うためにドラニグルの王都で飛行している騎士を呼び止める。


「貴方達!王都での飛行の許可は取っているのですか?」


 ドラニグルの王都での飛行を行う際は許可が必要となっている。だが、アルクを追うために飛行している騎士達はもちろん許可など貰っていない。


「闇の使徒が居たんだぞ!許可など取っている訳ないだろうが!」


 騎士はそう言い再び飛行するが、そこへドラニグル兵がやって来る。


「いくら賓客でもこの国の決まりぐらいは守って貰いたい!それでも飛行をするなら捕まえる必要があるぞ!」


 ここでミリス教騎士は気付く。それは他国で問題を起こせばミリス教の支持が下がってしまう事だ。


 一人のミリス教騎士が他のミリス教騎士を説得して、アルクの追跡を止める。


 そして、アルクを追跡する為に王城から出た騎士達は、ルルを守りながら王城に戻る。


 だが、それはミリス教の信者であるモタが許さない。


「止めるだと!?せっかく見つけたのに逃すとは何事だ!」


「ですがこのままだとドラニグルでのミリス教の評判が落ちてしまいます!」


 モタはミリス教騎士の必死な説得により、アルクの追跡を諦めた。


 モタは確かにミリス教の信者だが、ミリス教騎士に命令出来るのは教皇のみ。現在はモタの護衛として付いているだけだ。


 そして、モタ達ミリス教の面々はドラニグルで何が起こったのかを聞く為に王城に戻り、イグゾースと謁見をした。


―――――――――


 ミリス教騎士の追跡を撒いたアルクは王都の近くの森の中で身を潜めていた。


(アイツらからは上手く逃げれたみたいだな……イレナを探すか)


 アルクは自身の目立つ白い髪の毛を隠す為に、収納魔法からマントを取り出して羽織る。


 そして、魔力探知を使いイレナがどこに隠れているのか探る。


 すると、高密度の魔力の塊が物凄い勢いで迫ってくるのを察知する。


「この……クソ野郎!」


 イレナは勢いに任せて強烈なドロップキックをアルクに向けて放つ。


 だが、アルクはイレナの蹴りを避け、イレナを抑える。


「いきなり何するんだよ!危ないだろう!」


「それはこっちのセリフだ!ルルを殺すつもりだったのか?」


 どうやらイレナはアルクが王都が脱出した時の手段に怒っていた。


「そんな訳ないだろ!俺は絶対にアイツらが助けてくれるって確信してたから手を離したんだ!」


 アルクの予想は正しかった。他国で闇の使徒の追跡中に死者を、ましてや国の中で上層部の人物を死なせてしまうとミリス教の評判が大いに下がってしまう。


 イレナはアルクの拘束を振り解き、しばらくアルクと睨み合う。


「それなら良い……早く村に戻るぞ」


「分かってる」


 イレナは収納魔法から一つの魔石を取り出す。それにはクプニ村への転移魔法が宿っていた。


「そういえば龍達に何か一言ぐらいは言った方がいいんじゃないのか?」


「それならお前を待ってる間に済ませた」


「それなら良い」


 そして、イレナが転移魔法を発動させると、地面に魔法陣が展開し、周囲の景色が一気に流れる。


 しばらくすると、外の景色が見慣れた花畑となった。


「着いたー!」


 アルクは思いっきりそう言うと、花の影に隠れていた妖精がアルクに群がる。まるでアルクの帰還を喜んでいるように見える。


 そして、少し遅れリラと白蜘蛛がアルクの下へやって来る。


「あの時はいきなり村に返して悪かったな」


「大丈夫です!それにクラシス様達と訓練した方が良いと私も思っていたので!」


「そうか?それなら良かった」


 そしてアルクはドラニグルでの出来事をクラシスに知らせるために、居るであろう巨大な樹へ向かった。

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