6ー51 泥のように眠る
日が暮れ、夕焼けが見渡す限りの荒野に刺す頃、とある場所に真っ黒な物体が現れる。そして、その物体は大きくなりそこから一人の人間と龍が出てくる。
「ふぅ……いや~、まさか黒龍ガイアだけでなく黒暗結晶の闇も手に入るとはね~」
転移魔法から出てきたのはラルバドルと使役された黒龍ガイアだった。通常ならただの人間に龍が使役されることはあってはならない事だが、ラルバドルが持っていた謎の闇によって使役されてしまった。
「それにしても大きいな……竜人の姿になってくれ」
ラルバドルの指示に使役されたガイアは素直に聞き入れ、竜人の姿へと変化する。竜人の姿になったガイアは黒い長髪で中肉中背の中年の男性だった。
「良し!それでちょう……と……あれ?」
そこでラルバドルはとある事に気付く。それは前に仲間であったウルカハの報告より、ガイアが吸収した黒暗結晶の闇が少なかったことだ。
「やられた……まさかあの時に五……いや、六割も奪われている」
ラルバドルはあの戦いでガイアに宿っていた黒暗結晶の闇を奪われたことに驚いていた。だが直ぐに冷静さを取り戻す。
(仕方ない……何せあの方と戦っていたんだ)
すると、ラルバドルの元へ一羽の鳥がやってくる。だが、その鳥は真っ黒で目に小さな魔法陣が施され、通常の鳥とは全く違っていた。
ラルバドルは鳥を腕に止まらせると話しかける。
「えっと……エビナかな?」
『はい、ラルバドル様。ドラニグルで何か回収はありましたか?』
「ああ。黒龍ガイアは使役する事は出来たんだが、黒暗結晶の闇の殆どが奴に奪われた」
『そうですか……カリナ様へはどのように報告をすれば……』
「それなら私から報告しよう。そうすればカリナは何も言わない筈だ」
『そうですか。ありがとうございます』
「気にするな。それで?帝国の方ではどうだ?」
『順調でございます。やはりあの豚はとても操りやすいです』
「そうか!それは良かった。それじゃあ私はカリナに色々と報告してくる。そっちも頑張れよ」
ラルバドルは最後にそう言うと鳥は勝手にラルバドルの腕から離れ、遠くを飛んでいった。
「さてと……そんじゃあ報告しに行くかぁ」
ラルバドルはそう言うと黒い翼を生やす。それを見たガイアも龍の翼を生やす。
そして、ラルバドルはカリナと呼ばれる人物にドラニグルで何を手に入れたのか報告する為に何処かへと消えていった。
―――――――――――
イグゾースに会う為に王城に着いたアルクとイレナは、イグゾースを探していた。
だが、二人が王城に着いてから随分経っていたのか明るかった空が、夕焼けで赤く染まっていた。
「いくらなんでも見つからないな……やっぱり誰かに聞いた方が良いぞ」
アルクは先行して前を歩いているイレナにそう言う。だが、イレナはアルクの提案を断る。
今のイレナは覚醒して光を出せるようになってから少し偉そうになっていた。
いや、実際竜人にとってイレナはとんでもなく偉い存在なのだ。
「はぁ……その程度の薄い光でその態度……世間知らずで幸せ者だな」
と、アルクの発言にイレナは思わず立ち止まり後ろを振り返る。
「え?おま……え?」
イレナはアルクの突然の毒舌に驚く。だが、アルクはいたって普通にイレナの横を通り過ぎる。
そして、通りがかる兵士に声を掛ける。
「あ、イグゾースがどこにいるか知らないか?」
そしてその兵士はアルクにイグゾースがどこにいるか答える。
「何してんだ、イレナ?さっさと行くぞ」
「あ、ああ」
そして、兵士に教えられた通りとある部屋にたどり着く。それは以前にアルクが竜人の長達と話した部屋であった。
アルクはなんの躊躇も無く、龍が彫られている扉を開ける。そしてそこにはご飯を食べているルドとファルカ、横にはお茶や菓子を食べているセラシーンとグレイシスが居た。
「む?来たか!それじゃあここに座ってくれ!」
イグゾースの案内でアルクとイレナはセラシーンの隣に座る。
「まずは本当に助かった!感謝する!」
ルドはそう言い頭を下げ、後ろに控えていた長達もルドに合わせて頭を下げる。
「そんなにしなくてもいい!そもそもガイアとの戦いは吾等龍の心残りだった!」
ルドはそう言うと他の龍達も頷く。
「それに新しい妹と出会えたからな!むしろ感謝するのは吾等の方だ!」
ルドはそう言うと豪快に笑う。
「あれ?そう言えばリラと白蜘蛛はどうしたんだ?」
イレナは辺りを見渡すがリラと白蜘蛛が見えない。
「あれ?言ってなかったか?あいつらはこの戦いでも成長できるほどの経験が出来ないから先にクプ二村に返した」
「え!?そうだったの!?」
実際アルクの言い分は正しかった。リラと白蜘蛛の訓練に相手としてダークスライムの処理をさせようとした。
だが、実際にアルクが戦ったが吸収した魔物を模倣しただけだった。それ加えてダークスライムが模倣した魔物は殆どがリラが戦ったことのある魔物だった。
それならば様々な闘い方を熟知し、様々な知識を有しているクラシスの元で訓練させた方が効率が良い。
「それで?僕達に何か聞きたい事があるんでしょ?」
ファルカの言葉にイグゾースは咳払いをする。
「そうだった!皆に黒龍との戦いで何があったのか聞きたくて集まったんだ」
イグゾースの言葉に今まですごい勢いでご飯を食べていたファルカの手が止まる。
そして、話し上手で説明が上手いセラシーンがイグゾースに何があったのか話す。
セラシーンの話を聴き終えたイグゾースは頭を抱える。
「使役……された……」
イグゾースの気持ちも分からなくはない。実際最強格であった生き物が突然現れた人間に使役され、どこかへ消えていったのだ。
「まぁ、何はともあれ脅威はさったと言う認識で良いだろう?
」
その時、白の竜人の長であるクレイがイグゾースの肩を叩く。
「それもそうだな!」
イグゾースは先程の不安が無かったかのように立ち直る。
「取り敢えず疲れているだろう!今日はもう王城で過ごすと良い!龍の方々もゆっくりしてくれ!」
イグゾースはそう言うと、元気そうに部屋を出る。
「良し!私もお腹減ったから食べよう!アルクはどうすんだ?」
「俺は……今はとにかく休みたい……闇を無理矢理ガイアから奪ったせいで体が重い……」
「そうか……じゃあゆっくり休むと良い。そ!と!さっきお前が私に言ったこと忘れないからな!村に戻ったら覚悟しておけ!」
イレナの言葉にアルクは疲れているのか、ましくは面倒なのか適当に返事すると、兵士に連れられ寝室へと向う。
そして、寝室へ着いたアルクは真っ直ぐベットに倒れ込み、泥のように眠った。




