6ー50 勝利の音
アルクとルドはドラニグルへ向かった大量のゾンビワイバーンを殲滅するために急いで向かっていた。
ドラニグルへ向かっている間暇だったのか横で飛んでいるアルクに声を掛ける。
「アルクよ。少し競争をしようじゃないか」
「きょ、競争!?まさか!」
「そうだ!あのゾンビ共を殺した数でだ!」
「別に良いが最優先はドラニグルの安全なんだぞ?」
「知っておるわ!」
すると、前方でワイバーンが飛んでいるのを見つける。だがそのワイバーンの片足は千切れ、翼は穴だらけであった。
「見つけた!多分あいつが最後尾の奴だ!」
その瞬間、巨大な炎の塊がゾンビワイバーンを包み焼き消す。
「先手は吾だな!」
ルドはアルクにそう言い捨てると、飛行の速度を上げて次のゾンビワイバーンを狙いに行った。
「マジかアイツ……じゃあ俺は先にドラニグルで待ってるか」
アルクはルドが全てのゾンビワイバーンを殲滅することが出来ないと予想し、先にドラニグルで待ち、迎撃する作戦を立てた。
その為、アルクはいち早くドラニグルに着くために闇を展開、翼を生やし彗星の如く素早い飛行でドラニグルへ向かう事にした。
すると、ルドがゾンビワイバーンを狩っているのが見えてきた。
「ルド!先にドラニグルで待ってるからな!」
と、アルクは追い抜きざまにそう言い捨て、そのままドラニグルへ向かった。
そして、しばらくすると大量のダークスライムが何もない空間を叩いている所を見る。アルクをそれを見た瞬間、ドラニグルの周りに禁域と同じ結界が張られている事に気付く。
アルクはもうすぐでドラニグルに着くと予想し、闇を解除して、結界が張られているであろう空間を通り過ぎる。そして、城壁の上で休憩しているドラニグル兵を発見する。
「おい!お前達!」
アルクは城壁の上で休憩している一人のドラニグル兵に声を掛ける。
「誰だ……貴方は……使者様!?一体どうなされましたか?」
「もうすぐでゾンビワイバーンの群れがドラニグルを襲う!急いで迎撃の準備をするように他の奴らにも伝えろ!」
ドラニグル兵は黒龍ガイアがどうなったのかを聞きたかったが、アルクの圧により聞くのをやめて、ゾンビワイバーンの群れが襲ってくるのをを仲間に伝えに行った。
アルクはゾンビワイバーンが来るであろう方向を見ると、僅かながら空中で爆発しているのか炎が見える。
つまりもう少しでもゾンビワイバーンの群れが来る事を示唆している。
(楽に終わる為に出来るだけ多く狩っててくれよ)
ルドにそんな期待をしながら炎の槍を三本ほど生成し、ゾンビワイバーンの群れに向かって放つ。
通常の炎の槍なら相手に刺さり、燃えるだけで終わるが、アルクが生成した炎の槍は違う。
炎の槍がゾンビワイバーンに刺さった瞬間、そのゾンビワイバーンが破裂し、肉片が周囲を巻き込みながら爆発する。
だが、それでも死んだゾンビワイバーンは数体しかいない。
「アルク!」
イグゾースの声が聞こえ、振り返るとイグゾースと白の竜人の長がいた。
「あれは一体何だ?」
「ゾンビワイバーンの群れだ。早く全滅しないとドラニグルが大変な事になるぞ」
アルクは再びゾンビワイバーンの群れの方向を見ると不思議なものを見た。それはゾンビワイバーンの群れに炎だけでなく氷、光が見えたからだ。
「アイツら……マジか……」
そして、先に数体のゾンビワイバーンがドラニグルに近づいた瞬間、ゾンビワイバーンは何かに当たり、そのまま地面へと落ちていった。
「安心しろ、アルク。ルルが張った結界で魔物は入れない」
ルルが張った結界。おそらく以前、禁域に張られた結界と同じものだろう。だが、結界には微かに光が籠っている気配を感じる。
そして、遂にゾンビワイバーンの群れがドラニグルを覆っている結界に激突する。だがゾンビワイバーンが結界にぶつかっても結界にはヒビすら入らずに、全て地面に落ちる。
「あれが……ゾンビワイバーン……なんとおぞましい……」
白い竜人の長、クレイは地面でひしめき合っているゾンビワイバーンを見ながらそう言う。
実際、鱗が剥がれ、肉が見え、辺りに血を撒き散らしながら叫んでいるゾンビワイバーンはまさに地獄そのものであった。
「アルク!何してるんだ?このままでは吾の勝ちになってしまうぞ?」
「はぁ~……これを見てまだそんな事を言えるのか?」
アルクは巨大な炎の塊を作り、地面でひしめき合っているゾンビワイバーンの群れに向かって放つ。
すると見事命中し、一点に集まっていたゾンビワイバーン全てに引火する。
「この数なら俺の勝ちじゃないか?」
「クッ……仕方ない。いいだろう!」
アルクは競争に勝ち誇った次の瞬間、ドラニグルを覆っていた結界が消え去る。いや、砕けてしまったのだ。
そして、まだ完全に燃え切っていないゾンビワイバーンや結界を叩いてたダークスライムは一斉にドラニグルの中心へと押し寄せる。
「あれ?これ結構まずくないか?」
アルクは何の前触れもなく、突然結界が割れた事により呆然としていた。
だが、反対にルドは口角を上げて、ゾンビワイバーンとダークスライムの群れへと突撃する。
ルドは魔物を一掃する為に炎を吐くが、殆どがダークスライムは巨大な壁になり炎を防ぐ。
「何してるんだルド!」
そして、巨大な壁となったダークスライムはそのままルドに覆いかぶさろうとする。
(まさかこいつ……ルドを吸収するつもりか!?)
今の所ダークスライムについて分かることが余りにも少なすぎる。ダークスライムがどれほどの格上の相手を吸収することも余り分かっていない。
「凍れ!」
そんな声が聞こえた瞬間、ダークスライムは氷漬けにされる。
「良くやったグレイシス!そのまま砕け!」
「分かってる!」
上空からグレイシスの声が聞こえると共に、グレイシスは落下の勢いを利用し氷漬けにしたダークスライムを砕く。
「グレイシス!角は治ったのか!」
「イレナのおかげでね。取り敢えずゾンビワイバーンを片付けよう!」
その後は一方的な狩りだった。グレイシスは地面を凍らせゾンビワイバーンの足を固定する。そして、そこへルドの炎やアルクの剣によって徐々に数を減らしていく。
「お前で!最後だ!」
アルクは最後のゾンビワイバーンの頭を切った。それを見たルドはドラニグルに向かって叫ぶ。
「黒龍ガイアは去った!この戦い!吾等の勝ちだ!」
ルドの勝利宣言を聞いた兵士達は一斉に歓声を上げ、ある者は抱き合い喜びを分かち合う者、胴上げをする者で溢れていた。
するとそこへファルカとセラシーンもやって来る。ファルカはあまり戦闘に参加出来なかったと言う事もありどこか不満げだった。
そしてファルカに後ろにある程度回復したのかセラシーンが付いていた。だが、まだ血の気が失せていたのか顔が青かった。
「あー……セラシーン?大丈夫か?」
「アルク……少しフラフラするけど……大丈夫よ~」
セラシーンはそう言いながら地面に降り立つが彼女の言う通り足元がおぼつかなかった。
「セラシーン、あまり無理をするな。ガイアに殆どを持ってかれたんだ。今は安静にしてると良い」
「兄上……そうするわ」
セラシーンはそう言うと再びファルカの掌に寝転がる。
「さて、アルクよ。勝負の件はどうする?」
「勝負……無かった事でいいんじゃないか?」
ルドに話しかけられアルクは勝負の事を思い出す。だが、倒したゾンビワイバーンの数は数えていなかった。
それはルドも同じだった。
「取り敢えず休もう。お前はともかくグレイシスとセラシーンは持たないだろう」
「それもそうだな!所でイレナはどこに行った?」
「俺は知らないぞ?途中まで一緒じゃなかったか?」
「イレナなら禁域に行くって言ってたよ」
ファルカは話しているアルクとルドにイレナがどこに行ったのかを教える。
「禁域か……まぁあそこは何も無くなってるから心配する事は無いな……早く休もう……」
アルクはそう言うと流石のルドも疲れたのか竜人の姿へと戻る。
そしてそのままファルカからセラシーンを受け取る。
「ファルカも竜人の姿に戻ると良い」
「そんな事言われなくても分かってるよーだ!」
ファルカもルドと同じように竜人の姿に戻る。
「あれ?もうゾンビワイバーンは終わったのか?」
するとそこへ禁域に行った筈のイレナがやって来る。
「ああ。ところでなんで禁域に行ってたんだ?」
「最後の確認よ!もしかしたら残ってる可能性もあるしね」
「そうか……ふぅ……流石に疲れた……」
「朝から戦っていたからな、仕方ない。吾も疲れた!早く飯を食いたい!」
「僕も〜」
そしてそこへドラニグル兵が何人かやってくる。おそらく案内役だろう。
「皆様。この誠にありが――」
「長ったらしいのはいらない!吾は早く飯を食いたい!」
「承知致しました。それでは案内致しますのでついて来てください」
ルド達はドラニグル兵の後をついて行き、そのまま王城へ向かっていく。
「アルク。イグゾースに色々と何かあったか伝えに行かないか?」
その場に残ったアルクとイレナはイグゾースに戦いの中で何があったのか伝える事に同意し、イグゾースを探す事にした。
アルクは魔力探知でイグゾースを探そうとするが兵士が多い為、探すのが困難になっている。
するとそこへ一人の兵士がやって来る。
「使者様!イレナ様!イグゾース様より伝来があります」
伝来の内容。それは王城で待っていると言う事だった。それを聞いたアルクとイレナはイグゾースに会う為に王城に向かって飛行する。
上から見た城壁の上ではまだ勝利の余韻が残っているのか賑やかな声が聞こえ、ドラニグルの中では勝利を祝してか、鐘の音が鳴り響いていた。




