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6ー49 予想外の敵

 ファルカに運ばれていたイレナは自身の力について考えていた。


 何故自分は光を完全に扱う事が出来ないのか。


 イレナは自身の母であるクラシスの事を思い出す。光を完全に解放した母はとしても美しく眩しかった。


 そして誰よりも覚悟が違った。


 かつてイレナは何故そんなにも光が強いのかクラシスに聞いた。


「受け入れる事よ。光も闇も全て。この二つがあるだけでこの世界は綺麗なのだから」


 当時のイレナは理解出来なかった。光は分かるが闇を受け入れる事を。実際にクプニ村は闇のせいで滅び、そこに住む人々は死んでしまった。


 だが、今は少し分かる気がする。クプニ村に覆っている邪悪な者を拒む結界をアルクは軽々と通った。闇を持っているにも関わらず。


 そしてイレナでさえ触れ合える機会が少なかった精霊達がすぐに姿を現した。


 そしてイレナは考えを簡単にであるが纏める。


(光があるなら闇は存在する。太陽に当たれば影が出来るのと同じように。世界はこの矛盾した存在を欲している)


『お前は何を求める?』


 どこからか声が聞こえた。どこか懐かしい声。


 違う。


 聞いた事があるのは当たり前だ。その声は私の光の声なのだからだ。


『私は何も要らない。ただ受け入れたい。光も闇も』


『受け入れてどうする?結局その二つは分かり合えない』


『知ってる。でも信じたい。私の兄弟子の様に』


 イレナはアルクを思い出す。闇を持っているがどこか安らぐ闇。


 クプニ村にある闇の結界と比べてとても優しく暖かい闇。それは光にとても近い。


『例えそれが後悔する事が起きようとも?』


『うん。信じる』


『ハハハ……そうか!ならば使うがいい!お前が信じたい者を信じて!』


すると、イレナは体の奥底から力が湧き出るのを感じた。そして次の瞬間イレナの体が光り出し、イレナ自身の傷とグレイシス、ファルカの傷が治って行く。


「イレナ。それは」


「ファルカ。急ごう」


「あ、ああ。掴んでろ!」


 イレナの言葉にファルカは従い飛行の速さを上げ、アルク達の下へ向かって行った。


ーーーーーーーーーーー

「イレナ……それは……」


 光を解放したイレナは龍の翼の他にも一対の光の翼が生えていた。


「その光。忌々しい……」


 ガイアは思い出す。かつて自身を封印した張本人であるクラシス。


「今度こそ……その光ごと殺してやろう!」


 ガイアはそう叫ぶと巨大な闇の槍を数本生成し、アルク達に向けて放つ。だが、闇の槍はルドの炎によって塞がれる。


 ガイアは長い尻尾で地面に落ちた骨の剣を拾いアルク達に襲い掛かる。ガイアの振った剣は大量の闇を一瞬で凝縮している為、避けたとしても衝撃で無事では済まない。


「力任せで助かる」


 イレナはファルカの手から離れ、光の障壁を再展開してガイアの剣を受け止める。鉄と鉄が擦れ合うような耳障りな音と共に闇が周囲に撒き散らされる。


「その程度で我を止められると思っているのか!」


「思っていないさ。だからアルク!頼んだ!」


「おう!」


 アルクはそのままがら空きの胴体を再び切ろうとする。だが、相手が何をするのか予想していたガイアは隠していた闇を展開し、アルクの剣を受け止める。


「ルド!ファルカ!そのままこいつを押し返せ!」


 アルクが言うのと同時にルドとファルカは大量の炎と風を合わせ、ガイアの剣を押し返す。


 そして、アルクはガイアが操っている闇を全て切り裂き、再びガイアに剣を突き刺し黒暗結晶の闇を吸収しようとする。


「魔物共よ!やれ!」


 ガイアはワイバーンに変形しているダークスライムを二体呼び出し、アルクに襲わせる。だが、水の龍と氷の龍によってダークスライムは消される。


「うおおおおおお!」


 アルクは今度こそガイアから黒暗結晶の闇を全て吸収しようと力を入れる。


 そして黒暗結晶の闇を半分頃吸収した時、突然空から黒い雷が降り注いだ。それは当然アルクやイレナ達にも降り注ぐ。


「な、なんだ!?」


 突然の事にファルカは荒げた声を上げるが、アルクは違った。


 何故ならこの場の誰よりも驚いた顔をしていたからだ。


「何故……ここにいる」


「何故だと?簡単な事だ。黒龍を回収しに来た」


 アルクの問いに応えながらも優雅に空から舞い降りた者。それはアルクも同じ黒い翼を持つ人間だった。


 その者は長身で目が黒く髪が長い。


「そんな事を聞いていない……なんで、お前が居るんだ!闇の王はまだ蘇っていない筈だ!」


「ふむ。確かにそうだな。だが王が蘇っていなくとも闇は蘇っている」


 その者が言うと手から小さな闇をアルク達に見せる。アルクはそれが闇の王の闇だと一瞬で理解した。


「アルク。アイツは誰なの?」


 イレナはアルクに誰かと聞く。


「アイツは闇の王の側近。ラルバドル」


 するとラルバトルは大量の黒い雷を降らせる。


「何をしている?我はまだまだ戦えるぞ。ようやく調子を取り戻してきた所だ」


「いいえ。もう十分です」


「だからなんだ?もしや我に食われに来たのか?」


「はぁ……ここまで馬鹿とは思いませんでした。単純な話です。黒龍。貴様を使役しに来た」


 ラルバトルはそう言った瞬間、自身の闇を解放しガイアに纏わせる。


「まずい!今すぐラルバドルを殺せ!」


 アルクはラルバドルが何をしようとしているのか知っているがイレナ達は何も知らなかった。


 アルクは急いでラルバドルとの距離を詰めて、首を切ろうとする。


『ガイア。今すぐ私を守れ。だが反撃はするな』


 すると、ガイアはラルバドルを守るようにアルクの前に立つ。


「邪魔だ!」


 アルクはガイアを切るが、ガイアは反撃すらしない。アルクは舌打ちをするとイレナ達の元に戻る。


「アイツに何があったんだ?人間を守るなんて……」


「使役されたんだよ」


「使役!?あいつがだと!?」


 ルドは信じられなかった。圧倒的強者である龍、特に2番目に生まれた古い龍が人間に使役されたのだ。


 すると、ガイアは大量の闇を放ちながら、その巨大が小さくなり竜人の姿となる。


「上手くいったな。それじゃあ目的は達成した事だし私は失礼するよ」


「待てよ。このまま行かせると思うか?」


「はぁ……そうだよね。じゃあこれならどうだ?」


 ラルバドルはそう言うと巨大な闇の鉱石を召喚し、地面に突き刺す。


 すると、そこから新たな魔物が現れる。


「ガイアの願いはドラニグルの滅亡だったな。私を相手にしてこいつを放置すればドラニグルは間違いなく滅ぶぞ」


 新たに生まれた魔物。それはゾンビワイバーンだった。それに加えて、黒い鉱石が落ちた場所には大量のワイバーンの骨が埋まっていたのか、次々とゾンビワイバーンが蘇る。


「クソ!じゃあさっさとクソトカゲを連れて消えろ!」


「うん!理解が良くて助かるよ。じゃねえ〜」


 ラルバドルはそう言うと転移魔法陣を発動させ、ガイアと共に何処かへと去って行った。


「済まない、ルド」


「仕方のない事だ。それよりもゾンビワイバーンをここで全部殺さないと大変な事になるぞ」



ーーーーーーーーーーーー

 ゾンビワイバーン


 それは死したワイバーン達が呪いにより蘇った変異種。

 

 その物に噛まれた場合、呪いが移され、全身を貫く様な痛みを襲い死に至らしめる。そして、死んだ場合その者もゾンビとなり蘇る。

 

 何故ゾンビ達が生者を喰らうのかは未だに謎に包まれている。

ーーーーーーーーーーー


 

 すると、アルクの言う通りゾンビワイバーン達は目の前にいるアルク達より、生きた生物が大量にいるドラニグルへ向かった。


「まずい!アルク!どうするの?」


「取り敢えず俺とルドでゾンビワイバーンをやる。イレナはセラシーンとグレイシスの治療……そうだ!これを!」


 アルクはとある物をイレナに渡す。それはウルカハに折られたグレイシスの角であった。


「俺はこう言うスリまがいな事が得意でな!まぁ頼んだ!」


 アルクはそう言うとルドと共にゾンビワイバーンを倒す為にドラニグルへ向かって行った。


「イレナ。私は大丈夫だからグレイシスを先に治療してあげて」


「分かった。ファルカ、治療の間は戦えないから防衛はよろしく」


「おう!任された!」


 ファルカの元気の良い返事にイレナは安心し、グレイシスの角を繋げようとする。


 だが、一筋縄で行くわけがない。龍の角は魔力の凝縮体だ。


 実際に、グレイシスの折れた角を持っていたイレナの手が凍り付いていた。


「イレナ……これは私が……」


「大丈夫よ。光でこの程度ならすぐに直すことが出来るから」


 イレナは折れた角をグレイシスの額に当てると、大量の冷気が周囲に放たれる。


 ファルカはあまりの冷たさにイレナ達を地面に降ろそうとする。だが、それをセラシーンが止める。


「今ここで下ろすと地面を伝って辺り一帯……ウッ……生き物が住めなくなってしまう。お願い、耐えて」


「分かった」


 すると次の瞬間、グレイシスは咆哮する。その咆哮は龍そのものだった。


 そして、グレイシスから発せられていた冷気が霧散すると、そこには角が繋がったグレイシスがファルカの手の上で寝転んでいた。


「はぁ……はぁ……イレナ……大丈夫か?」


「うん。なんとか腕一本で済んで良かったよ」


 イレナは自身の右腕を見る。右腕はグレイシスの角を掴んだせいで氷漬けにされていた。


 そして、イレナは氷漬けにされた右腕に光を流す。すると、氷は段々と溶けていった。


「良し。セラ姉さんとグレイ姉さんは休んでてくれ。ファルカ。護衛は頼んだぞ」


 イレナはそう言うと翼を羽ばたかせ、空を飛ぶ。


「おい!なんで僕だけ兄を付けないんだよ!」


 ファルカは何故自分だけ呼び捨てなのかイレナに向かって叫んだが、聞こえないフリをしてドラニグルへ向かっていった。

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