6ー46 黒龍戦争10
グレイシスとウルカハがセラシーンの結界に閉じ込めれてから二人は睨み合っていた。
「なんだ?ここでお前と一対一でもやれって事か?」
「そうみたいだな。まぁさっさとやろう。お前を殺して兄上達の手助けをしたいからな」
「舐めやがって……」
ウルカハはそう言うと闇を解放し、収納魔法から剣を取り出す。だが、ウルカハの持っている剣は骨で出来ている。
「そんじゃあ……死ね!」
ウルカハは剣に魔力を込め、振ろうとする。だが、グレイシスは直前でウルカハの腕を凍らせ剣を止める。
「そのやり方は貴様の主人でもう知っている」
グレイシスは一瞬でウルカハの周囲に氷柱を生成し一斉に放つ。だが、先祖返りの影響で硬くなった鱗に全て弾かれる。
「来ないなら……俺から行ってやろう!」
すると、ウルカハの腕についた氷を叩き壊しグレイシスへ迫る。
グレイシスは氷の剣を一瞬で作り、ウルカハの剣を受け止める。だが、予想以上にウルカハの力が強く吹き飛ばされてしまう。
「なんだ?この程度の力か?いや……それともお前だけか?」
ウルカハはグレイシスを敢えて挑発する様に話す。
(落ち着け。相手はわざと挑発しているだけだ)
グレイシスは持ち前の冷静さでウルカハの挑発に乗らずに、戦闘を挑む。
ウルカハの大体の力に慣れたのか、ウルカハに吹き飛ばされる事なく攻撃を続ける。
だが、ここでグレイシスはとある事に気付く。
それは、
(なんだ?力が……出ない?)
グレイシスは次第に自身の体が重くなるのを感じ取る。それだけで無く龍魔力が減っていく事にも気づき始める。
だが、相手は力が増している。
グレイシスはずっと気がかりだった事がある。それはガイアの異常な成長速度は使者にも影響あるかどうかだ。
実際、アルクとイレナの報告より異常な速度で力が増している。
グレイシスはウルカハの力を再び確認する為に、ウルカハに近づき剣を振る。
だが、グレイシスの剣はウルカハの鱗によって受け止められる。
「まぁこのぐらいだろう」
ウルカハはそう言うとグレイシスの剣を壊し、腕を握る。
その瞬間グレイシスはなぜ自身から力が抜けているのか気付く。
それは奪われていたのだ。ウルカハがグレイシスを吹き飛ばした時からずっと、グレイシスに触れるたびに力、龍魔力が奪われていたのだ。
そして奪った力は自身の筋肉に、奪った龍魔力は鱗の成長へと変換していたのだ。
グレイシスはこのまま戦闘が長引くのは悪手だと判断して、自身の体を龍の姿に戻す。
周囲に超低温の冷気を撒き散らし、周囲を凍らせながら自身を氷で包む。そして氷が砕けると、そこからは水色の神秘的な龍が姿を表す。
龍の姿に戻ったグレイシスは魔法陣をウルカハを囲む様に大量に構築する。
そしてグレイシス自身の口にも大量の魔力と魔法陣を構築する。
これはグレイシスが撃てる最大威力の魔法。それを受けた敵は誰であろうと沈黙が強制される魔法。
[龍魔法・静氷]
その瞬間、ウルカハの周囲を取り囲んでいた魔法陣が一斉に光出し、煙を放つ。そしてグレイシスは口から一つの氷をウルカハへ放つ。
グレイシスが吐いた氷がウルカハに触れようとしたその時、破裂する。すると、破裂した所へ魔法陣から放たれていた煙が集まり始める。
ウルカハはその魔法が一瞬で危険だと判断し、急いでその場を離れようとする。だが、いつの間にか自身の体中が氷漬けにされていた。
そして遂に周囲の煙が集まり終わった瞬間、ウルカハですら信じられない様な大量の龍魔力を感知する。
「実に腹立たしい」
誰かが言った瞬間、大量の龍魔力がウルカハを覆い、巨大な氷の柱がウルカハを呑み込む。
これがグレイシスが作り出した魔法だ。敵の周囲に魔法陣を構築し、光と煙で気を逸らす。その時に気温を下げる事により、自身の体が凍り付いている事に気付かせない。
そして、煙を一点に集め開放する事で一瞬で敵を氷の中に閉じ込める。
「寒いだろうウルカハ?この氷は龍魔力で作られている。お前はもう抜け出せないよ」
グレイシスは完全に凍りついたであろうウルカハにそう言うと、竜人の姿へ戻り結界を出ようとする。
すると、背後から感じたことの無い闇を感知する。
そして、巨大な氷の柱は耳障りな音を立てながら崩れていく。
「ありえない……あの氷はルド兄さんですら壊すのに時間が掛かるんだぞ!」
その時、グレイシスは初めて心から動揺した。
「はぁ……本当にムカつく雌だな!」
誰かがそう言った瞬間、周囲に大量の闇が解き放たれる。そして、その闇に触れた木々は全て枯れ果てていく。
「本当はドラニグルを滅ぼす為の闇だったんだがな!」
闇を払いながら禍々しい闇を纏ったウルカハが姿を表す。そして、周囲に広がった闇を全て掌に集める。
[闇魔法・黒王の光]
その瞬間、グレイシスの視界が闇に染まる。そして次に、身体中に激痛が走り、体勢を維持する事が出来ずに地面へ落下してしまう。
(なんだ……今の闇は!ガイアでも奴自身の闇でも無い!)
グレイシスは感じた事のない闇を目の当たりにして怯えていた。
(あの闇は……まるで……まるで……)
「まるで闇の王の闇だろう?」
ウルカハはグレイシスの思考を読んだかのようにグレイシスへ話しかける。
「この闇は王の物だった。ここに来る前に王の側近の者に渡されたんだ。『緊急時にはこれを使え』と」
ウルカハはそう言いながら地面へ降り、地面に伏せているグレイシスへ少しずつ歩み寄っていく。
グレイシスは反撃を試みようとしたがウルカハの魔法の影響で動かなかった。何かしら声を出そうとするが声すら出せない。
「だがこの闇は一つ欠点がある。それは一度使うと暫くは全く力が出ないと言う事だ。だからここでお前を殺すのは無理だとしても力の源である角を折るのは簡単な事だ」
ウルカハはグレイシスを仰向けにして額にある水色の一本角へと手を伸ばす。
「お前はここで兄弟と守る筈だった国が滅ぶのを何も出来ずに見るだけだ」
ウルカハはそう言うと手に力を込め、勢いよくグレイシスの角を折った。
「じゃあな氷龍」
ウルカハはそう言うとグレイシスの角を懐にしまいガイアの元へと飛んでいった。




