6ー44 黒龍戦争8
龍達が黒龍ガイアと戦っていたころ、兵士達は永遠にほぼ近い魔物達と戦闘を繰り広げていた。一時期は龍達により、戦況が混乱していたがそれぞれの竜人の長達によって収められていた。
すると、そこへ国王であるイグゾースが前線へ行き、兵士達と共に戦っていた。
「お、おい!なんで国王のお前がこんな所に居るんだ!大将のお前がやられたら実質負けになるんだぞ!」
そんな破天荒な動きをしているイグゾースに青い鱗を持つ女性の竜人が咎めた。
「気にするな!それにワシがこの程度の雑魚に負けるわけなかろう!それにアイル!お前も戦いたくてたまらないだろう?」
イグゾースはアイルと呼ばれた竜人にそう言いながら大剣を振り、魔物を蹴散らしていた。
アイルと呼ばれた竜人は、青の竜人の長であり水龍の弟子でもある。そして、彼女はドラニグルで一位二位を争うほどの戦闘狂であった。
現にアイルはセラシーンと同じ戦闘方法である拳で魔物達を倒していた。
「それに!今は全体の士気が下がっている!ここでワシが出ることによって士気を上げるようにしてるんじゃ!」
「そうかい!」
イグゾースとアイルは話し合いながらも魔物を倒していき、押されていたドラニグル兵達はだんだんと押し返していた。
[竜人魔法・八ツ首の水]
[竜人魔法・八ツ首の炎]
イグゾースとアイルは似たような呪文を唱える。イグゾースの魔法陣からは炎で出来た八つの首を持つ龍、アイルは水で出来た八つの首を持つ龍を作り出す。
「邪魔するなよイグゾース」
「貴様こそな!」
二人が魔法を解き放ち周囲に居た魔物を片付け、襲われかかっている兵士達を救出する。
「アイル!水龍様の弟子ならばある程度の治療は出来るだろう?」
「当たり前だ!任せろ!」
アイルはそう言うと[八ツ首の水]で近くまで寄せると広い範囲で回復魔法を展開する。
「魔物はワシに―」
「魔物なら僕に任せろ」
壁の上から声が聞こえると曇っていた空から光が突き刺し、イグゾースに襲い掛かって来た魔物を焼き殺していく。
イグゾースは壁上へ視線を向けると弓の様な物を構えている白い鱗を持つ男性の竜人が居た。
「この光……クレイか!」
クレイは見た目の通り白い竜人の長である。そして、クレイは大剣を扱うイグゾースや拳を扱うアイルとは違い、狙撃の腕前が誰よりも秀でていた。
「イグゾースとアイルさんはそのままやっててくれ!僕は遠くから来る魔物を相手にする!」
「そうか!助かる!」
クレイは弓を構え短く呪文を唱える。すると、弓に掛けてある矢に魔法陣が描かれる。それはイグゾースやアイルと似たような魔法陣であった。
[竜人魔法・八ツ首の光]
クレイは遠くの敵へ向けて矢を放つ。すると、矢は白く光り出しそこから光で出来た八つの首を持つ龍が現れる。そして、その魔法は大量の魔物を貫き、最後に爆発した。
「お前達!ここが正念場だ!ここを耐えれば結界が発動する!」
イグゾースの言葉を聞いたドラニグル兵は雄叫びを上げ、最後の攻防戦を繰り広げる。
そして、
「お待たせしました!」
と、ルルの声と共に広い範囲で結界が発動し、ドラニグル兵と一部の魔物を結界に閉じ込める。
「良し!お前達!後は残党狩りだ!」
イグゾースは治療を行っていたアイル達から離れ、結界内に残された魔物を狩って行った。
すると、禁域がある方向の森から黒い柱が地面から現れると思いきや、次には炎の柱が発生する。
そしてその柱から黒い龍と白い龍が現れる。ドラニグル兵達やイグゾースはその二体の龍が炎龍ルド、黒龍ガイアであると直ぐに気付く。
黒龍ガイアは口を開けると、黒い炎をドラニグルへ向けて放つ。
炎龍ルドは自分自身に向けて放った技だと思ったのか身構えていた為、ドラニグルに襲っている技を止めることが出来なかった。
だが、
「兄上!本当は私も戦いたいのけれども兄上に譲るわ!ドラニグルに届く物はすべて私が防ぐから思いっきりやってね!」
水龍セラシーンの声が聞こえたと思うと水の障壁によってガイアの炎を防いでいた。
[龍魔法・塵龍]
そんな声が聞こえるとガイアへ目掛けて風の刃で構成された龍がガイアを襲う。
ルドはこの魔法の主がファルカであると確信する。そして、それと同時にルドはファルカの魔法を信頼していた。
何故ならファルカの魔法はどれも致命傷レベルの魔法である。かつてルドもファルカの魔法を喰らい死にかけた事がある。
そのせいなのかファルカの魔法が直撃したところを見たルドは油断していた。だが、ガイアはまだ意識がある事に気付き警戒を怠ることなくする。
「ルド兄さん……」
「油断するなファルカ。封印が解かれてからの成長速度が規格外だ。気を付けろ」
「分かってる……ああ……首が痛い」
龍の姿になっているファルカは少し腫れている自身の首を抑える。
「当たり前だ。なんせ我が全力で投げた闇の球なのだからな」
ガイアは煙を払いながら自身に着いた埃など払っていた。
「いや~鱗が硬くなってるって聞いたけど……いくらなんでも……」
「でも死なない訳じゃない!全力でやるぞ!」
「おう!」
ーーーーーーーーーーーーーーー
「な、なんだ?これ?」
禁域の洞窟にたどり着いたイレナは周囲の状況に唖然としていた。何故なら洞窟の入り口にはあちこちに飛び散ったダークスライムの残骸が大量にあるからだ。
「あ?イレナか。傷は大丈夫なのか?」
と、洞窟の中から体のあちこちに傷を作ったアルクが出てきた。
「あ、アルク!?黒暗結晶はどうしたんだ?」
「あー……その事なんだが……その~」
アルクは都合が悪そうにしていたらイレナに問い詰められる。
「分かったよ!言うよ!でも驚くなよ?」
アルクは洞窟の中にあった筈の黒暗結晶の状態をイレナに伝える。
「闇が無い?ここでふざけるのは―」
「マジだよ。何なら見に行ってみるか?」
アルクがそう言うよりも先にイレナは洞窟に入り黒暗結晶の今の状態を確認する。
「はあああああああああああああああ?」
と、洞窟の外に居るにも関わらずアルクにも聞こえた。
「ちょっと!どういう事よ!前まで溢れるぐらいあったじゃない!」
「知らないよ……でも明らかに変なんだよ。ダークスライム達も俺を待ち伏せしてたみたいだし……」
すると、ドラニグル方面で濃度の高い闇をアルクは感じ取った。
「嫌な予感がする。一度戻ろう!」
「分かった!」
イレナはアルクの勘を信じてアルクの後を追いドラニグルへ向かう。
「先に行く。イレナは傷もあるから慌てずにゆっくりで良いからな!」
アルクはそう言うと飛行魔法を発動し、高速でドラニグルへ向かった。イレナはまだウルカハによって付けられた傷が治り切っていないのか痛みで顔を歪ませながら走って行く。
しばらく飛んでいると黒龍ガイアと戦っているファルカとルドを発見する。
「はああああああああ!」
アルクは飛行で稼いだ速度をそのまま利用しガイアへ突撃する。
「むう!?なんだ?」
「吹っ飛べ!」
ガイアは意識外からの衝撃に態勢を崩してしまう。
「良くやった!アルク!」
ルドはガイアの態勢を崩したのがアルクだと瞬時に気付き、隙を与えずに拳に炎を纏い顔を殴る。
ルドに続きファルカも攻撃を仕掛けようとする。だが、ガイアは短く呪文を唱え何かの魔法を放とうとする。
「その呪文……マズイ!下がれ!」
ガイアが唱えてる呪文は闇魔法だと気付いたアルクは近くにいるルドと攻撃を仕掛けようとするファルカに離れる様に伝える。
[闇魔法・黒の茨]
すると、ガイアの足元から闇の巨大な蛇が現れると思いきや地面に溶け込む。そして、溶け込んだ所から次第に周りに広まっていく。
「なんだ?これ?」
「何してるルド!早くここから離れろ!」
ガイアはルドに向けて手を伸ばす。すると、地面から黒い茨が発生しルドに巻きつく。
「こんな魔法。吾に効くと……でも……」
ルドは何か言おうとしたが茨が巻き付いた足に違和感を感じ視線を向ける。すると、足にあった筈のルドの鱗が崩壊していた。
「それに触れるな!それは触れた物をすべて崩壊する魔法だ!」
ガイアは更に龍魔力を地面に流し、茨の成長速度を上げる。大量の龍魔力を浴びた茨の成長速度は段違いに上がり辺り一帯を茨で覆ってしまう。
[闇魔法・黒炎]
アルクはこれ以上周りに被害を広がせない為に茨に向けて黒い炎を放つ。
「ルド!ファルカ!俺は今動けないから頼む!」
「りょーかい!」
ファルカは無尽蔵に生え続ける茨を焼いているアルクを守る形で、アルクの前に出る。
「吹き荒れろ!」
すると、ガイアの足元から竜巻が発生しガイアを閉じ込める。そしてファルカの魔法に合わせる様に竜巻に[龍魔法・龍の火球]を放ち巨大な炎柱を発生させる。
そして茨をすべて焼き切ったのかアルクはファルカとルドが発生させた炎柱へ黒い炎を流す。
だが、ガイアはそれらを全て無視して竜巻を起こしているファルカへ突撃する。
「この程度で我を止められると思うな!」
「仕方ない。ルド。こいつを堕とすまで全力でやるぞ」
「おう!」
アルクは闇を解放し片翼を生やす。ルドはその巨大でファルカの前に出てガイアを受け止める。
[アレキウス神滅剣・神滅ノ刃]
アルクはまずガイア飛行能力を削る為に翼を狙い剣を振る。
だが、ガイアの翼には何も変化がない。確かにアルクの刃は翼を捉え、届いた筈だ。
その時アルクはふと自身が持っている剣を見る。すると、先程まで刃こぼれしていなかった剣が刃こぼれしていた。
(おかしい……少し前までこの剣でガイアに傷を付けることが出来たのに……)
アルクでさえもガイアの異常な成長速度に驚いていた。だが、アルクは見逃さなかった。
ガイアが闇を解放したその時、ほんの僅かに黒暗結晶の闇を感じ取った。
本来禁域の黒暗結晶にあった筈の闇。だが、その闇は全て無くなっていた。そして、ガイアから感じる黒暗結晶の濃い闇。
「お前……黒暗結晶の闇を全て吸収したな?」




