6-40 黒龍戦争4
黒龍の軍勢の侵攻から何も起こることは無く、そのまま朝を迎えた。兵士達は夜中の侵攻もあってか多少疲れた雰囲気を感じていた。
イレナは既に龍達と城壁の上に居た。
「それにしても一夜で崩壊した壁を修復するどころかさらに硬度を上げるとはね……」
ファルカは夜中に見た城壁と今の城壁を比べて驚愕していた。以前は主に岩を使って作られていた壁だが中心部は鉄で作られており硬くなっていた。
「ところででセラ姉ちゃんは何で回りをキョロキョロしてんの?」
「いやねぇ~……一回で良いからアルクと挨拶をしたのけれども~」
「セラ姉さん。アルクならもうすぐでここに来るわ」
イレナはアルクがもうすぐ来ることをセラシーンに伝える。するとポイントワープを仕込んだナイフがイレナの足元に刺さる。
イレナの言う通りアルクはポイントワープに仕込んだナイフへワープした。
「すまん。少し遅れたか?」
「いや。全然大丈夫だ。そうだ!私の兄と姉を紹介しよう」
イレナはグレイシスとファルカ以外の龍、ルドとセラシーンをアルクに紹介する。
「ああ。セラシーンさんは久しぶりだけど……ルドさんは初めましてだな」
「そうね~あなたと会うのは十年ぶりね~」
どうやらセラシーンとアルクは既に知り合いだったようだ。
「なんだ?セラシーンはアルクと言う者と知り合いだったのか?」
「そうよ兄上。前に一度だけあってね~。ある程度回復魔法を教えたことがあるのよ」
「そうなのか……アルクよ!もう知ってると思うが吾は炎龍と言われておるルドだ!短い関係かも知れんが良き戦友にあることを期待している!まぁ頼りにしているぞ!」
「そうか!俺もお前、いやお前達を頼りにしてるぞ!」
アルクはそう言うとルドは笑い、手をアルクの肩に手を回す。
「色々と複雑だが母上からありとあらゆる事を教わった事を聞いている!お前の事は他人ではなく弟と見ている!何かあったら頼ってくれ!」
「ありがとうルド。そう言えばイレナ。これからどうするんだ?」
アルクがイレナに声をかけた瞬間、突然城壁の上に居る兵士達が騒がしくなる。
「これからの予定は……敵の殲滅が先だな」
アルクはイレナが何を言っているのか理解出来ずにいたが、後ろを見た瞬間その理由が分かった。
禁域方面の平原には大量のダークスライムや大砲に半径していたダークスライムがいた。
「おい!これだとただの魔物大侵攻じゃねぇか!」
「知るか!そもそも簡単に大将が前に出てくるわけないでしょ!取り敢えずこいつらーー」
「魔物どもの処理は吾らに任せるが良い!アルクとイレナは力を温存しておけ!」
ルドはそう言うと、他の龍達と共に飛び上がる。
「さて!兵共には無用に前に出るなと言っておる!つまりどういう事か分かるだろう!」
「もちろん!僕は竜巻で敵を引き裂く!」
「その意気だ!ファルカよ!」
「じゃあ一番槍は私が」
ルドとファルカの話し合いをよそにグレイシスは呪文を唱え終えたのか幾つもの魔法陣を展開し、ダークスライムへ向けていた。
[龍魔法・氷龍柱]
すると、グレイシスの展開した魔法陣から龍の形をした氷柱が大量に現れる。
「降り注げ!」
グレイシスはそう叫ぶと出現した大量の氷柱が一斉にダークスライムへ降り注ぐ。氷柱に刺さったダークスライムは一瞬で氷漬けにされ、地面に刺さった氷柱は地面を伝って周囲を凍らせる。
「風も舐めるなよ!」
ファルカはそう言うと一瞬で魔法陣を展開して、そこから突風が吹き荒れる。ファルカの風は周囲を巻き込みながらダークスライムを切り刻んでいく。
すると、何かの生き物の咆哮が聞こえると共に龍魔力を感じ取る。
「あれ?なんで魔物風情に龍の魔力が宿ってるの?」
そして、空へ飛んでいる四体の龍の前に龍の姿をしている二体の闇の魔物が現れる。
見た目は黒龍ガイアと同じ両手両足がはっきりとしているが違うのは両目以外に額に角の代わりにもう一つの目があることだ。
「む?恐らくだがガイアが作った魔物だろう!アイツが作ったのなら何もおかしくはないだろ!」
ルドはそう言うと自身の拳に力を込める。
「例え奴が作った魔物であろうと吾らの敵ではない!」
そう叫ぶルドであったがグレイシスはルドの肩に手を添える。
「ルド兄さん。なんか変じゃない?私達四体に対して相手は二体……」
「それなら私が説明するわ。私と兄上は龍魔力を完全に消しながらドラニグルに向かっていたの~」
「それってつまり黒龍は二体しか確認出来てないって事か」
「そういう事。だから兄上が戦うのは後にして欲しいの~」
「そうか?ならば奴らの相手はファルカとグレイシスの二人に任せるとして吾は見てるぞ!」
ルドはそう言うと城壁の上へ降り座り込んだ。
「全くもう。まぁ私達が居ることを隠している以上龍魔法は使えないのは事実だからね~。それじゃあ私は適当に地上で敵を殴り殺してくるわ~」
セラシーンは見た目にそぐわぬ発言をすると、宣言通り地上へ降りてダークスライムを殴って行った。
「行っちゃった……」
「仕方ない……ファルカ。足手まといにならないでよ」
「頑張ってみる!」
グレイシスは魔法を放ちながら二体を牽制しつつ、ファルカの攻撃を援護する。
ファルカは風を巧みに操り、風の刃を飛ばし少しずつ相手を切っていく。
だが、闇の魔物は自身が斬られているにも関わらず何も反応がない。それもその筈、闇の魔物は黒龍ガイアと同じ硬さの甲殻があるからだ。
ファルカとグレイシスへ突撃していく。ファルカは二体の闇の魔物の動きが予想出来ていたのか、高く飛び上がり突進を避ける。
回避をするファルカに対してグレイシスは動かずに手を前に出す。
「ちょっとグレイ姉さん!?なんで避けないの!?」
グレイシスの行動にファルカは驚いた声を上げる。だが、グレイシスは手を前に出したまま動かない。
[龍魔法・氷龍の顎]
二体の闇の魔物とグレイシスの手が触れようとした瞬間、グレイシスの手から氷龍の頭が現れる。
片方の闇の魔物はグレイシスの手から出現した氷龍の頭は危険だと察知したのかその場に立ち止まる。だが、もう一体の闇の魔物はそのままグレイシスに勢いよく殴りかかる。
すると氷龍の頭は口を開き闇の魔物の拳を受け止める。闇の魔物はもう片方の腕でグレイシスを殴ろうとするが殴ることが出来なかった。
何故なら氷龍により噛まれた部位から次第に凍ったからだ。そして、そのまま闇の魔物はグレイシスに傷一つ付ける事すら出来ずに完全に凍ってしまった。
「ファルカも攻撃技だけでなくカウンター系統の技を覚えれば良い」
「分かってるけどさ……新しい魔法を作るの大変なん……グレイ姉!上!」
ファルカは自分達より上空に竜人の魔力を感じ取り、グレイシスにその事を伝える。するとファルカの言う通り上空から竜人の様な生き物が現れ、グレイシスへ襲い掛かった。
「初めましてだな龍!俺は黒龍様の忠実な信徒であるウルカハだ!存分に殺し合おう!」
ウルカハはそう叫ぶとグレイシスに向かって片手で持っていた大剣を振り下ろす。
「ファルカ!」
「分かってる!」
グレイシスの叫びにファルカは直ぐに答え、ウルカハの腕を尻尾で抑える。
「お前が報告にあった闇の竜人か!僕は風龍ファルカ!お前の相手をしてやろう!」
と、ファルカはウルカハにそう言うと、ウルカハを蹴りグレイシスから離す。
「ファルカ……行けるか?」
「任せてよ。こんなんでも一応龍だよ」
「分かった。それじゃあ私はもう片方の魔物の相手をする。一応言っておくが本気でやる場合には周りに気を付けて」
「あいあいさー」
気合の無い返事をグレイシスにすると、高速でウルカハの懐に潜り込み遥か上空へ連れ去る。
「さて……それじゃあお前の相手をしようか」
グレイシスはそう言うと口角を上げ、闇の魔物を見据えた。




