6-37 黒龍戦争2
アルクは前線要塞に居た兵士達を守りながら王都へ戻っていた。すると、王都の周りには巨大な城壁が出来ており二重で囲まれていた。
「お前達はそのままカルカかグリングルの指示に従うようにしてくれ」
「分かりました!」
前線要塞で指揮をしていた竜人の兵士はそう返事し敬礼すると、兵士が沢山集まっている所へ向かって行った。
「それにしても……こりゃあ凄いの作ったな……」
アルクはグリングルとその部下によって作られた城壁を見渡す。城壁は突破されても防衛が可能にするために二重に作られている。そして遠距離の敵に対して身を防げるように凹凸の壁が作られている。
そして壁の中には大砲が撃てるように穴も開いている。
「二重の城壁に加えて後で王都を守る結界も作られる……こんな強固な守り始めて見た」
すると、アルクの前に兵士を乗せたワイバーンが数体が降りて来る。
確か偵察に行っていた兵士達だ。
「アルク様。魔物達について知らせたいことが……」
「ん?どうしたんだ?まさか新種の魔物か?」
「いえ。それが魔物達は前線にあった要塞を潰した後侵攻をやめました」
「やめたという事は退いたか?」
「いえ。何故かその場に留まっています」
「留まっている……念のため王都の反対側も偵察してくれ。俺は前線要塞の魔物を殺りに行く」
「分かりました。お前達!行くぞ!」
偵察兵はアルクの指示に従い王都の反対側へ向かった。そしてアルクは前線要塞に留まっている黒いスライムの群れを殲滅するために向かった。
前線要塞に着いたアルクは要塞の変わり具合を見て少し驚いていた。何故なら黒いスライム達は融合し要塞を取り込もうとしているからだ。
アルクは得体のしれない違和感を感じ、要塞ごと黒いスライムを吹き飛ばそうとした。
[上級炎魔法・炎ノ怒]
アルクは短く呪文を唱え右手を掲げると巨大な炎の塊が出現する。そして、その巨大な炎を前線要塞と融合しようとしている黒いスライムへ向かって放つ。
本来ならあまりの高温にスライム程度は炎に触れることなく蒸発するはずだが、黒いスライムは蒸発せずにアルクの魔法を受け止める。そしてそのままアルクの魔法をも取り込もうとする。
「待て待て待て!それは聞いてないぞ!」
アルクは自身の魔法が止められた事に驚きながらも魔法を爆発させるためにナイフを投げる。すると、アルクの作戦通り[上級炎魔法・炎ノ怒]は爆発を起こし前線要塞ごと黒いスライムを消滅させる。
「ふう……危なかった……それにしても何をしようとしてたんだ?」
アルクは黒いスライムが何をしていたのか気になり、別の場所にもある要塞へ向かった。すると、そこには土の色をしてい要塞の色が黒色に変色していた。
「なんだ?これ……」
アルクは黒い変色した要塞へ恐る恐る近づく。すると、要塞だった建物は変形し巨大な大砲へと成り代わった。
そしてそのまま降りようとするアルクへ大砲は標準を合わせる。
アルクはその大砲が何をしようか瞬時に察すると、ポイントワープを仕込んだナイフを地面へ投げそのままワープする。
その瞬間、アルクの居た位置に高濃度の闇の凝縮物が放たれる。
地面へワープしたアルクは黒い要塞の正体を探ろうとしたが、その必要はなくなった。何故なら黒い要塞は再び変形する時、ほんの一瞬だけ黒い液体となったからだ。
「黒いスライムか……まさか生物だけでなく建物も取り込み吸収するとは……」
すると、黒いスライムは完全に要塞を取り込んだのか再び変形する。だが、黒いスライムが変形した姿はまさかのワイバーンであった。
アルクは飛び立とうとする黒いスライムを倒そうとしたが、何故か体が動かない。
(これは……確か前にも……)
アルクは前にも自分の体が突然動かなくなったのを思い出した。それは黒暗結晶を始めて見つけ闇を吸収した後だった。
そうしている間に黒いスライムは禁域がある方へ飛び立った。
「クソ!……にしても何だったんだ?まぁ後でアレスに聞けばいいだけの話か」
アルクは今起こった出来事をイレナ達に伝えるために王都へ戻った。
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王都へ戻り、アルクは前線要塞で見た黒いスライムの変化をイレナ達に伝えた。イレナ達はまだ迎撃や闇の対策の会議をしていたのかイグゾースが居た。
「そんな事が……イグゾース!他にも放棄された要塞はあるのか?」
「ああ。ワシが知っている限り報告にあった物を除いて三つある。もしそれらが取られてしまった場合グリングルが作ってくれた城壁も簡単に破られてしまう……魔物の軍勢はあとどのぐらいで着く?」
イグゾースは会議室の壁際に立っている偵察兵に聞く。
「はい!黒龍の軍勢はゆっくり侵攻しています!遅くても二日後の昼、早くても朝方に到着する筈です!」
「そうか……それではグリングルには城壁の追加制作、ルルには結界の範囲を上げるよう伝えてくれ」
イグゾースはそう言うと偵察兵は短く頷き会議室を退出した。
「それで?会議の内容を少し教えてくれないか?」
「もちろんだ。アルクも来てくれ」
イレナはアルクを近くの椅子へ案内し、地図を見ながら会議の内容をアルクに話した。会議の内容としては兵士や兵器の配置、壁際に住んでいる住民の避難先などだ。
「だがさっきアルクが持ち込んだ報告で更にややこしくなるが……まぁそれは今から来てくれる龍達に頼むつもりだ」
「そうか。それじゃあ俺は戦いに向けて少し休憩してくる。イレナも休憩できる時に休憩した方が良いぞ」
アルクはイレナにそう言うと会議室を退出し、休憩するために用意された部屋へ向かった。
「それでイレナ殿……こちらへ駆けつけてくれる龍様は今どのような状況だ?」
「あ~。それなら今から話すところだ。現在こちらへ向かってくれてる炎龍と水龍についてはある程度連絡が取れた。だが風龍と氷龍は連絡が取れない」
「私ならもう来てるぞ?」
イレナとイグゾースは聞いた事が無い程の無機質な声が聞こえると同時に、体の芯が凍り付くような感覚に陥った。
「お前は……誰だ?」
イグゾースは突然聞こえた声の主に質問する。すると、体の芯が凍り付くような声は少し和らいだ。だが、声は無機質なままだ。
「誰だ……だと?あ、そう言えば自己紹介もしていなかったな。私はグレイシス。イレナは
この名にある程度覚えがあるだろ?」
「グレイシス……貴方がそうなんですね?」
イレナは振り返ると白を基調とした服を着ていて空色の髪を持っている女性が立っていた。だが、彼女は目尻に鱗が生えており、一瞬で竜人であることが分かった。
「初めまして。本当にあなたが私の姉である氷龍グレイシスなんですね?」
「ええ。にしてもあなたが私の新しい妹……まぁまだ強くは無いけどこれからだから期待してる」
「あ、ありがとうございます!貴方の事はなんて呼べば……」
「私の事は……ああ……兄弟は何人も居たね。うーん……グレイシスで良いよ」
「はい。グレイシスさん。炎龍と水龍は連絡が取れるんですが風龍だけ連絡が取れなくて……何か知ってますか?」
風龍についてグレイシスに聞くと、グレイシスは頭を抱えた。
「あの子は……多分だけどどっかで遊んでるわ。連絡が取れない事は良くあるから気にしないで」
「わ、分かりました」
グレイシスは会議室の中央に置かれている地図を見るために歩き出す。すると、グレイシスが歩いた場所には霜が降りていた。
「今までした会議の内容をすべて教えてくれ」
グレイシスの命令を聞いたイレナとイグゾースは会議の内容を漏らすことなくグレイシスに教えた。




