6ー34 戦争への準備
黒い霧となったアルクは黒龍の攻撃を避けながら、イレナが残していった魔力を辿った。
「アルク!大丈夫だったか?」
アルクはイレナが残していった魔力を辿り、結界の外へ逃げ出すことが出来た。結界の外へ逃げたアルクは周囲の状況を確認するために見渡す。
辺り一帯に魔物の死体が転がっており、負傷しているのか結界へ侵入する魔物を食い止めていた兵士達がルルによって治療を受けていた。
「大丈夫だ。それよりイレナ。黒龍の対策法については何か知っているか?」
「ごめん……特に母上から教えられてない」
「そうか……イグゾースは居るか?」
「何だ?」
「イグゾース!今すぐ軍を編成した方が良い。そうしないと黒龍との戦いに敗れ、ドラニグルが滅ぶぞ」
「わ、分かった!それでは今すぐ城へ戻りましょう!」
「そうしたいが俺は戻れない」
「多分だが結界はもうすぐ……破れたな……」
結界が破れたことをイグゾース達は確認する。一番衝撃を受けていたのはルルであった。それもそうだ。禁域へ施した結界はルルが持つ技術や知識の集大成と言っても過言ではない。通常の竜人であれば20年かけて施す結界を、ルルは10日で作り上げた。
「こ、黒龍だって!?」
「そんな……もう終わりだ……」
「どうしろって言うんだよ!」
黒龍が復活したことを確信した兵士達は一斉に騒がしくなった。だが、イグゾースはその場を収めようとするが、中々上手く行かない。
それを見かねたアルクは兵士達に向けて、魔力を少し解放する。アルクの魔力を浴びた兵士達は冷静さを取り戻したのか次第に静かになった。
「イレナ!お前はイグゾース達と城へ戻れ!俺は禁域内に封じ込まれていた闇を広がる前に吸収して周囲への被害を抑える!」
「分かった。その他にやることはあるか?」
「やる事……黒龍について調べてくれ。出来るだけ奴の情報が欲しい。それからイグゾース」
「む。なんだ?」
「もしもの時は隠さずに全力でやれ」
「それは……ッ!分かった」
すると、アルクは再び黒い霧となり姿を消す。残されたイレナ達はイグゾースの指示に従い、負傷者を運びながらドラニグルへ戻った。
イレナ達と別れたアルクは手筈通り周囲へ広がる闇を吸収し始める。
『アレス。このぐらいの闇はすぐに使える様に出来るか?』
『ああ。この程度の闇は直ぐに使える様にしてやる』
『そうか……ところで前に吸収した黒暗結晶の闇はどうなった?』
アルクは以前に吸収した黒暗結晶の所在について聞く。
『あれ?気付いていないのか?ガイアから逃げるときに全部使っただろ?』
アレスはそう言うとアルクは気になる事が生まれた。
『ガイア?それって黒龍の事か?』
『そうだ』
『なんで黒龍の名前を知っているんだ?』
『当り前だ。何せこの世に最初に生まれたのは始祖龍と言われるクラシス。そして二番目は黒龍と言われているガイアだ。その二体は白黒時代から生きているんだ』
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白黒時代
かつて大昔に存在していた大陸を支配していた王国。今の光と闇を作り出した始まりの存在
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アレスが答えるとアルクは思い出そうとする。
(今思い返すと、あの時使った大量の闇って吸収した闇だったのか……)
吸収した闇をすべて使った事を思い出したアルクは少し勿体ない気持ちになった。吸収した大量の闇は、今のアルクでは到達できない濃さであった為、もしもの為に取っておきたかった。
『はぁ……勿体ないな~』
『何が勿体ないだ!あの時に闇を使っていなかったらお前は今頃死んでいたんだぞ。それに使っていなかったとしても少しずつお前の闇へ変換されて本来の力を失ってしまう』
『そうなのか?じゃあ別にいっか……それで?吸収した闇はどうだ?』
『この闇は黒暗結晶より遥かに薄い。だが今のお前の闇より濃い。だからすぐにお前の力へ変換して闇の膨張を早める』
『分かった』
アルクは闇を吸収し続け、以前と比べ禁域だった所に漂っている闇の濃度が遥かに下がった。そして目を疑うような物を見た。それは地下空間の中でひしめき合っている黒いスライムの大群であった。
そしてその中心に佇んでいる黒龍。それを見たアルクは黒龍は戦争を始めようとしているのを瞬時に察する。
アルクは闇を吸収するのをやめると急いで地下空間で見た物を知らせるためにドラニグルへ戻った。
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アルクが禁域内の闇を吸収し始めた頃、先にドラニグルに戻っていたイレナ達は各軍の指揮官と上位聖職者を複数人、竜人の長達を呼び会議を始めていた。
イグゾースは禁域内で起こった事を包み隠さずに話すと、長達以外は困惑する者や気絶する者が現れた。
イグゾースの話が終わると水色の鱗を持つ竜人が口を開いた。
「実は私も禁域の近くまで行って兵士達を手伝っていたんだ。それで気付いた事がある」
「何だ?アイル」
「昔読んだ文献で黒龍はドラニグルを滅ぼそうと書かれていたんだ。それで上空から禁域を見ると一点に大量の黒いスライムが集まっている所を見つけた」
「それで?何か分かったのか?」
「恐らく……いや。確実に黒龍はこの国を滅ぼそうと大量の魔物を引き連れて襲い掛かってくる」
「それならば王都を守る結界は私で張ります。ですが流石に直ぐには出ませんので時間を稼いで欲しいです」
「だったら俺の出番だな!」
ルルの話を聞いた茶色の鱗を持つ竜人は口を開く。
「はい。アズース様。壁でも穴でも良いので王都を囲むように作って欲しいです」
こうして、ルルとイグゾースが中心に黒龍と黒いスライムの対策を練り続けた。




