6-33 黒龍の目覚め
アルク達とウルカハが剣を交えた頃、闇を吸収しながら力を蓄えていた黒龍は昔の事を思い出す。
1000年前、自身の姉とも言える存在。そして自身の弟、妹と言える存在と戦い、温情で命は失わずに封印だけされた。
その事実は黒龍ガイアにとっては屈辱の極みだった。
確かに1000年前のガイアはありとあらゆる物を壊し、破壊の限りを尽くした。
だが、それは驕り高ぶり龍への敬意を失った竜人への罰だった。1000年前の竜人は現在と比べ技術力が他の国と比べ遥かに高く、その時は栄華を誇っていた。
だが、今回は失敗しない。10年前に起こった闇の出現と成長しきった黒暗結晶の闇。今度こそ全盛期と同じ力を取り戻してみせる。
そして遂に送られる闇が完全に途絶えた。
(もう少し……闇を体に慣らすだけだ。長かった……ようやくだ)
ガイアはこれからの事について考え始める。目覚めて直ぐに竜人国ドラニグルを滅ぼし、次に生きている姉弟を殺す。
(あ〜……楽しみだ……)
黒龍はそう思いながら今までに自身が使っていた魔法の魔法陣を思い出す。
(あとは奴の合図が来るまで待つだけだ)
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アルクとの戦いを楽しんでいたウルカハは危機感を感じていた。何故なら想定よりもアルクの力が強く押し負けてしまう。
アルクは切り合いに怯み、後退りをしたウルカハの顔面を鷲掴みにし、再び空へ投げ飛ばす。
[闇魔法・操暗]
アルクはウルカハに闇を流し、全身に纏わせる。そしてそのまま何度も何度も地面や壁に叩きつける。
[闇魔法・黒炎]
ウルカハは自身に纏わせられている闇を振り払い、黒い炎をアルク目掛けて放つ。アルクは自身の闇が簡単に振り払われる事が予想できなかったのか、避けられず正面から喰らってしまう。
「大丈夫か?アルク」
「お前のお陰でな」
[闇魔法・黒炎]を喰らいそうになったアルクだが、それはイレナの光魔法によって防ぐことが出来た。
「はぁ……はぁ……仕方ないがやるしかない」
「何がだ?戦いを楽しんでるクセして焦ってるじゃないか」
「バレてやがったか……まぁ良い。時は……満ちた!」
ウルカハはそう言うと壁や自身から大量の闇を放ち操る。そして、その大量の闇を地面へと吸収させる。
「時間が掛かって申し訳ありません。ですがここに貴方様の完全なる目覚めを喜びましょう」
するとアルク達が立っていた地下空間の地面が崩れ始める。アルク達は急いでルル達を連れて地上へ避難する。
だがその瞬間アルクとイレナは心の奥底から恐怖心が湧き始めた。
ここしばらく恐怖と言う物を感じていなかったアルクは、今自分自身の身に起きている事に動揺していた。
(これは……恐怖……これを感じるのはいつぶりだろうか……)
アルクはふと横を見るとイレナは恐怖のせいなのか涙を流し、空中で停滞していた。
「イレナ?おい!」
アルクはイレナの肩を強く揺さぶるが、反応がなにも返ってこない。
「クソったれが……戦いを教える前に恐怖とは何かを先に教えてろよ!」
アルクは自身とイレナの師匠でもあるレイリンやクラシスに聞こえない文句を言うと、イレナの手を無理矢理引っ張り、全員を地上へ避難させた。
「お前ら!大丈夫か?」
「は、はい!ですがイレナ様が……」
ルルはイレナを診るが何も出来ないでいる。
「イレナ!しっかりしろ!」
アルクは再び恐怖で動けないでいるイレナを呼ぶ。だが未だに反応が返ってこない。
「やるしかないか……ルル。回復魔法の用意をしとけ」
「は、はい……」
すると、アルクは手に持っていた剣をイレナの太ももに突き刺す。
「きや、きゃあああ!な、何を!?」
「何をじゃねぇ!しっかりしろ!この程度で龍が恐怖で動けなくってんじゃねぇよ!お前は何だ!」
アルクの問いにイレナはしばらく答えられずにいた。
だが、
「わ、私は始祖龍クラシスの娘!」
と、勢いよく答える。
「それと足の件は悪かったな。でもすぐに戻ってこれたろ?それはクラシスが教えてくれた荒治療だがな。全く……クラシスも恐怖とは何かを教えてやればいいのに」
すると、今までアルク達が立っていた地下空間の地面が完全に崩れ、大量の土埃が舞う。そしてアルクはその中で黒い影が動くのを見た。
それはまるで巨大なヘビの様な物だったが頭は獅子の様だった。アルクは最初は何かの魔物かと思ったが、その考えはすぐに消え去った。
何故なら一瞬でアルクでさえ息が詰まる程の濃度の闇を感じ取ることが出来たからだ。
「お前達……構えろ……奴が来るぞ」
アルクがそう言った瞬間、土埃を払いながら巨大な黒い火球がアルク達を襲った。
[アレキウス神滅剣・魔断斬]
アルクは巨大な黒い火球を切ろうとするが切ることが出来ない。それどころか押し負けさせられそうになってしまう。
「アルク!手伝うぞ!」
イレナは魔力をアルクの持っている剣に流す。だが劣勢のままだ。
「これを空へ受け流す!衝撃に備えろ!」
アルクは巨大な黒い火球を全身の力を使い、空へと受け流した。
すると想像よりも大きな爆発が起こり、周囲はその衝撃で吹き飛んでしまった。
「ほう……我の攻撃を受け流すとは、流石クラシスの使いと言える者だな」
と、地下空間から体の芯に響く程の低い声が鳴り響いた。
(怯むな……戦場で弱気の姿勢は直ぐに飲み込まれてしまう)
アルクは急いで言葉を選ぶ。
「お前こそ……旧時代の敗者が随分と偉そうだな」
「カハハハハ!矮小な人間が強がるな」
すると、土埃を掻き分けながら巨大な腕が伸びる。そして大量の闇を身に纏いながら地上へ上がって行く。
「イレナ!ルル達を連れて出来るだけ遠くへ離れろ!俺は時間稼ぎをする!」
アルクはそう言うと短く詠唱をし闇を展開する。そしてそのまま巨大な黒い影へ突撃していく。
「はああああああああ!」
だが、巨大な黒い影は微動だにしない。
「言っただろう。矮小な人間が強がるなと」
巨大な黒い影はそう言うと、闇をアルクへ纏わせる。アルクはその闇を吸収し自身の力にしようとしたが上手く行かずにそのまま地面へ叩きつかれる。
地面に叩きつかれたアルクはあまりの重さに気を失いそうになるが、奥歯を噛みしめ気絶するのを防いだ。
「うおおおおおおおおおおおおお!」
アルクは以前に吸収した黒暗結晶の闇の一部を利用し、体に纏わせられている闇を振り払い、呪文を唱える。
[極大闇魔法・邪神の大剣]
そして、吸収した残りの黒暗結晶の闇をすべて利用し、剣に闇を纏わせ大剣を生成する。
「崩れろオオオ!」
アルクは闇の大剣を巨大な黒い影に向けて振るい、体勢を崩させようとする。
「はぁ……今のうちに……」
アルクはそのままイレナ達と同様に逃げようとし、空へ舞い上がる。だが、激しすぎる衝撃がアルクの背中を襲い、遠くへ飛ばされてしまう。
「矮小な人間にしては技だったが……足りんな」
アルクは急いで空中で体勢を治し、黒い影を見る。すると、巨大な黒い影は闇を吸収したのか、体が見えていた。
「本当に黒龍が目覚めたのか……」
「どうした人間?絶望でもしたのか?」
「まさか!どうやって逃げるかを考えてただけだ」
「逃がすと思うか?」
「それじゃあ……じゃあな!」
アルクはそう言うと、体が黒い霧へと変化していく。黒龍はそれを見ると黒い火球をアルクへ放つが、アルクには当たらずに通り抜けてしまう。
「…………逃がしたか……ウルカハ!どこへ行った?」
黒龍は自身の使徒であるウルカハを探す。
「黒龍様。ここにおります」
「そうか。それでは始めようか」
「はい」
ウルカハはそう返事すると悪い笑みを上げる。




