6-27 それぞれの戦い
「お前達!また黒いスライムが来たぞ!あの陣形で撃退するぞ!」
「「「「「「はい!!!」」」」」」
声を上げ指揮をしたのは結界内に入ろうとする魔物を撃退する部隊の隊長だ。
アルク達が禁域内に突入してからはずっと黒いスライムと戦っていた。だが、黒いスライムは学習し続け、様々な魔物に変形して襲ってくる。
「クソ!いったいどんだけいるんだよ!」
「知るか!とにかく襲ってくる奴を……まずい……サイクロプスに変形した黒いスライムだ!固まれ!」
竜人の兵士の言葉に他の兵士は従い、一か所に集まる。
[岩龍よ。力をお貸しください。竜人魔法・岩龍の土壁]
竜人達が魔法を唱えると、地面から龍が刻まれた土壁が現れる。その瞬間サイクロプスに擬態していた黒いスライムは突撃してくる。
「来るぞ!踏ん張れ!」
黒いスライムが土壁にぶつかろうとした瞬間、黒いスライムは弾け飛んだ。
「君たち!どうやら手こずってるらしいね!」
と、どこからか声が聞こえる。
「大丈夫さ!なぜならこの私が来たからね!」
すると、空中から大量の水が流れたと思うと青い鱗を持つ竜人が現れた。
「あ、あなたはアイル様!」
青い鱗の竜人はアイルと言い、アルクが長達と出会った時にいた竜人だ。
「ですがアイル様!あいつらは様々な魔物に変形します!貴方だけでは……」
「うるさい!私を誰だと思っている!水龍様の弟子だぞ!」
アイルはそう叫ぶと口から大量の水を吐き始める。すると、攻撃のチャンスだと思ったのか隠れていた黒いスライムが続々と現れる。
「お前達。巻き込まれたくなければ後ろに下がれ」
アイルは後ろにいる竜人達にそう言うと、竜人達は後ろに下がる。竜人達が後ろに下がったのを確認したアイルは吐いた水で地面に魔法陣を描き始める。
[竜人魔法・八ッ首の水]
アイルは魔法陣から水で出来た巨大な八つの頭を持つ龍を作り出す。そしてその龍は八つの首で黒いスライム達を食い散らかしていく。
「しばらくは大丈夫だ。少し休むと良い」
「は、はい!ありがとうごさいます!」
竜人達はアイルの言葉通り、休憩をし、アイルは禁域の結界内で起こっている大量の落雷を見据えた。
(カルカ……死なない様気を付けろよ)
アイルは内心そう思うと、再び休憩している竜人達に向き直る。
「それじゃあ私は別の所で様子を見てる。お前達も気を付けろよ」
「はい、アイル様!わざわざご足労ありがとうございます!」
アイルは手を振ると禁域の周りを見るために、空に飛び始めた。
――――――――――
カルカの落雷から逃げ切ったアルク達は、襲い来る魔物の相手をしていた。
「皆様!ここは私達が相手をしますので先にお進み下さい!」
アルク達と共に禁域に突入したカルカの部下である兵士達は立ち止まり、襲い掛かる魔物達と対峙する。
「ならぬ!お前達だけでは間違いなく死んでしまうぞ!」
「覚悟の上です!良いから早く行ってください!」
「しかし!」
「イグゾース!行くぞ!」
「使者殿!しかし!」
「あいつらの覚悟を無駄にするな!早く行くぞ!」
「わ、分かった……お前達。絶対に死ぬな」
「頑張りますよ」
兵士達はアルク達と別れると武器を構え、魔物達と向き合う。
「なぁ……これガチで死ぬ奴じゃないか?」
「ああ。多分死んでしまうな」
「はぁ……転職すれば良かったな」
「仕方ないだろ?もしこれに失敗したらドラニグルは消えてしまう」
「分かってるさ。お話はここまでにして魔物を全力で相手するか」
「おう。そんじゃあ行くぞ!」
「おう!」
兵士は己を鼓舞すように叫ぶと全身に魔力を流す。そのやり方はまるでカルカと同じ[竜人魔法・雷龍権化]だった。しかし魔力の色がとても薄い。
この二人はカルカの直属の部下であり、カルカが認めた強者である。
兵士達は息を整えると襲い掛かる魔物の群れへ突撃していった。
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「クソ……予定より奴らの足止めが上手く行かない……」
黒い竜人は広範囲に探知魔法と水晶からアルク達を見ていた。
「どうする……俺が直接……いやダメだ。ここを離れたら黒龍様への闇を送れなくなる」
黒い竜人は悩んだ末一つの結論にたどり着く。
「もう一匹強い奴を作ればいいだけの話か」
黒い竜人は黒暗結晶から大量の闇を取り出すと、自身の魔力と混じり合わせ一匹の魔物を生み出す。カルカを襲った黒い魔物は闇といくつかの魔物と組み合わせて作ったが、今回は竜人の魔力と組み合わせて作られている。
黒い竜人が生み出した闇の魔物はワイバーンの様な見た目をしていた。だがその闇の魔物の体が膨らみ、弾ける。するとそこにはもう一匹の黒い竜人が立っていた。
「良し!見た目は俺とそっくりだな……俺の名前がウルカハだから……うーん……お前はウルティマだ!」
ウルカハは目の前の竜人をウルティマと名付け、ウルティマに命令を下す。
「敵を殺しに行け」
ウルカハの命令にウルティマは頷くと高く飛翔し、高濃度の魔力の感じる所へ向かって行った。




