6-26 権化
あけましておめでとうございます
禁域に再び突入したアルク達は、黒暗結晶に向かうべく襲い掛かって来る魔物を蹴散らしながら進んでいた。
すると、先頭を走っていたアルクはイレナに向かって口を開く。
「イレナ!お前は先頭に行け!俺は最後尾に行く!」
「なんで?まぁ良い!後ろは任せた!」
「ああ!」
アルクはすぐ後ろを走っていたイレナに先頭を譲り、列の最後尾に移ろうとする。
「アルク様?どうされー-」
「ッ!危ない!」
アルクは列の最後尾にいる竜人の頭を無理矢理、下に押さえさせる。すると、その竜人の頭上で何かが通り過ぎた。
「な、なんだ!?」
カルカは竜人の頭上を飛んだ謎の存在を探そうとする。
しかし、
「お前ら逃げろ!闇の魔物だ!」
と、アルクは叫び逃げようとする。
アルクが見た黒い魔物は鎌の様な腕を持ち、ゴーレムの様な体をしている。
アルクの指示でイレナ達はその場から離れようとするが、カルカは襲い掛かって来た闇の魔物を凝視していた。
「使者様。先に行ってくれ」
「カルカ?どういう事だ?」
「イグゾース。気付かないのか?」
「何がだ?」
「あの魔物……俺と同じ身体強化をしているぞ」
「お前と同じ?そんなまさか……」
「例えこのまま逃げたとしてもすぐに追いつかれる。だから俺はここで奴の相手をする」
「そうか……それで?お主の本音は?」
「戦いたい!」
「ハッハッ!そうかそうか!それじゃあお主に任せよう!」
イグゾースは豪快に笑い、カルカの背中を勢いよく叩くとアルク達の下へ走る。
「リンリンリン」
黒い魔物は目の前にいるカルカより、黒暗結晶へ向かっているアルク達に襲い掛かろうとする。
だが、カルカは黒い魔物の脚を掴み、地面に叩き付ける。
「悪いな。お前の相手は俺だ!」
カルカはそう叫ぶと拳に雷を纏わせ、地面にめり込んでいる黒い魔物目掛けて殴る。
だが、黒い魔物は周囲に電気を放ち、カルカを痺れさせる。
「この程度で……俺を止められると思うな!」
体が痺れているカルカは気合と根性で体を動かし、拳を黒い魔物に当てる。
すると、黒い魔物は甲高い声を上げながら、暴れ始める。しばらくすると、黒い魔物は完全に動きを止めてしまう。
カルカは余りの呆気なさに驚いていたが、念の為頭を潰そうとする。
その瞬間、黒い魔物は突然動き出しカルカの顔に目掛けて鎌を振りかざす。
しかし、カルカは黒い魔物の攻撃を避け、さらなる一撃を与えようとするが黒い魔物は素早い動きでカルカとの距離を離す。
「そうだ……戦いがすぐに終わっては興覚めになってしまうからな」
カルカはそう言うと、拳に纏わせている雷を拳から全身へと巡らせる。
「なぜお前が我が家に伝わる身体強化術を使っているかは謎だ。だが取り敢えずお前を殺す!」
カルカはそう叫ぶと全身に流している魔力の濃度を上げ、雷を強くしていく。
[竜人魔法・雷龍権化]
全身に流していた雷はカルカの体に留まり始め、次第に甲殻の様な物へと成り代わって行った。
[竜人魔法・雷龍権化]。それは数少ない竜人達が使える竜人専用の魔法だ。通常感電死するほどの雷を身に纏うが出来るのは頑丈な鱗と強靭な肉体を持つ竜人のみ。
「闇に生まれた魔物……どれ程の強さか俺に見せてくれ」
カルカはそう言うと黒い魔物へ襲い掛かった。
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カルカと闇の魔物が戦い始めた頃、アルク達は禁域の中心に向けて走っていた。だが、闇の濃度が高まっているのかアルク以外は苦しそうにしていた。
「大丈夫か?少し休憩でも必要か?」
アルクは一番苦しそうにしている竜人の兵士に話しかける。
「ああ……少し……休憩させてほしい」
「分かった」
アルクはイレナ達に少し休憩させるこ事を伝えると、リラと白蜘蛛を呼び出す。
「お前達は大丈夫か?」
「はい。ご主人のお陰である程度の闇への耐性はあるみたいです」
「それは良かった。取り敢えず休憩をするから俺と一緒に見張っててほしい」
「分かりました」
すると、リラのバックで寝ていた白蜘蛛はいきなり飛び起き、周囲に糸を撒き散らした。
「コレ、テキワカル」
「そうか!良くやった白蜘蛛!」
アルクはそう言うと白蜘蛛の頭を撫でる。
「そう言えばリラ。前に嫌な匂いがするみたいな事言ってなかったか?」
嫌な匂いとは、アルク達が一度禁域の近くまで寄ったときに、リラが嗅ぎ取った匂いの事だ。
「そう言えばそうでしたね」
「今はその嫌な匂いはするのか?」
「ずっとしますよ。それに前と比べてとても強く匂います」
リラがそう言うと、アルクは白蜘蛛が糸を撒き散らした所より少し遠くに探知魔法を展開する。
「取り敢えず休憩はするが俺も警戒しておく」
「お願いします」
すると、アルク達が通った方向から轟音と共に眩い光が地上に降り注ぐ。
「な、なんだ!?」
「あの雷……カルカの魔法だ……急いでここを離れるぞ!」
イグゾースはそう言うと、竜人の兵士を立たせ走る準備をする。
すると、雷は色々な所に降り注ぎ次第にアルク達の所へ迫って来る。
「あー……確かにまずいな」
アルクはそう呟くとリラと白蜘蛛を急いで担ぎ、イグゾースと共に走り始めた。




