6ー25 兆し
「黒龍様。体調は優れていますでしょうか?」
黒い竜人は次第に体を形成している黒い影へ話しかける。前までは黒い影の手足以外の部分は完全に形成されていなかった。
しかし、現在は腹部まで形が完全に形成されていた。
「まだわからん……だが感覚が戻っているのを感じる……もう少しだ……」
「分かりました……それでは奴らが攻めて来るまで貴方に闇を送り回復するまでの時間を早めましょう」
黒い竜人はそう言い、黒暗結晶に手を触れ、闇を黒龍に送る。
(王よ……もう少しであなたの願いが叶いましょう)
すると、黒龍の胸が形成されようとするが、形が崩れてしまう。
(もう少し送れば良いだろう)
黒い竜人はそう言うと、黒暗結晶と黒龍を守るために狭い範囲で結界を張り、狭い範囲で闇を放出した。
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禁域へ突入することになったアルク達は身の回りの整理と、武器の手入れをしていた。
そして、アルクと同様イグゾースも武器の手入れをしていたが、そこへ黄色の鱗を持つ竜人と数人の兵士がイグゾースの下へやって来る。
やって来た黄色の竜人はイグゾースとの力試しの際に居た六人の内の一人だ。
「イグゾース。お前の指示通りに強い兵士を何人か連れてきたぞ」
「む?そうか」
「それで何で俺だけじゃなくてお前も行くんだよ?王様なんだぞ?」
確かに黄色の竜人の言う通りだ。準備する前にもルルは黄色の竜人と同じことを言っていた。しかし、ルルやその家臣が言うたびに『強い奴は何人いても良い』の一点張りだ。
「別に良いだろう?それに強い奴は何人いても良いだろ」
「……ハァ。分かった。まぁお前ならある程度怪我をしても大丈夫だろう」
しばらくすると、禁域へ兵士達とアルク達を乗せる巨大なワイバーンが教会の中庭へ降りてくる。
イグゾースは巨大なワイバーンの前に立つと、軽く息を整える。
イグゾースが何をしたいか気付いた兵士達と黄色の竜人、ルルは身だしなみを整え、イグゾースと向き合う。
「お前達!良く来てくれた!これから禁域へ進行する!手筈通り一般兵士は近づいてくる魔物の排除、カルカとその部下は使者達に付いて行く!」
イグゾースの言葉に兵士達とカルカと呼ばれた黄色の竜人は頷く。
「イグゾース。質問があるんだが良いか?」
イレナはそう言うと、イグゾースは頷く。
「私達が黒暗結晶の下に辿り着くまでに必ず黒い竜人が来る。そいつの相手は誰がやる?」
「そいつの相手はワシが直々にやろう」
「はぁ!?」
イグゾースの衝撃的な言葉にアルクは驚いた声を出す。
「待て!さっきの話を聞いてまさかかと思ったが……前線に出るつもりか?」
「そうだ。それに黒い竜人とやらと戦ってみたいのだよ」
イグゾースの言葉にアルクは反論しようとしたがカルカに肩を叩かれる。
「使者殿。あいつは戦闘狂いなんだ。もうどうしようもない」
アルクがカルカの話を聞くと頭を抱える。
(龍も竜人もどいつもこいつも戦闘狂なのかよ……クラシス、お前のせいだぞ)
竜人とは魔族と並ぶ戦闘好きな種族で有名だ。ドラニグル国内では年に一度大会を開き戦闘を楽しむ程だ。
アルクはクラシスの事を思い出す。アルクがレイリンの弟子になるまで、戦闘についてはクラシスに教えて貰っていた。だが、その教え方が殴られて覚えろといった教え方であった。
(なんだ?龍と竜人が戦闘好きなのはクラシスのせいなのか?)
アルクは何故竜人が戦闘好きなのか謎が解けたような感覚に陥った。すると、アルクの肩を叩かれる。
「アルク?どうしたんだ?早く乗るぞ」
どうやらイグゾースの話が終わり、アルク以外の者は巨大なワイバーンに乗っていた。
その事に気付いたアルクは急いで巨大なワイバーンに乗る。
すると、アルクはイレナの異変に気付く。いつもは白い余り虹色に見えるイレナの鱗が濁っていた。
「イレナ。お前の鱗どうしたんだ?」
「分からない……禁域を出てからしばらく経ってこうなった」
「……黒龍の仕業か?」
「それか黒い竜人の仕業か、だな」
「体に異変は?」
「特には……無い!むしろ元気だ!」
「そうなのか?まぁそれなら良いが……見ろ。禁域の中に闇が充満してるぞ」
アルクの言う通り、イレナは禁域の中を見る。
前までは何の変哲もない森が、今では闇によって何も見えなくなっている。
すると、アルク達を乗せているワイバーンは空中で止まる。
「あれ?止まった……なんかあったのか?」
アルクはテントの前に行き、ワイバーンを操っている竜人に話しかける。
「おい。どうしたんだ?禁域まで遠くないか?」
「使者様……申し訳ありません。ですが何故かいきなり言うことを聞いてくれなくなったんです」
ワイバーンを操っている竜人はワイバーンに前に進むよう指示を出すが、進んでくれない。
それどころか少しずつ後ろに下がっている。
「一度地上へ下ろしてくれないか?」
「分かりました」
アルクの指示に従った竜人は、巨大なワイバーンを地上に下ろす。
地上に着いたアルクは、巨大なワイバーンの頭を撫でる。
「やっぱり……何かに怯えてるな」
「やはり黒龍に関係が?」
「恐らくな。もう一度聞くがお前は大丈夫なのか?」
アルクは本当に体に異変がないかイレナに聞く。
「……黙っていたが……その……」
「なんだ?行ってみろ」
「禁域に近づく度に吐き気がするんだ」
アルクとイレナはが話していると、後ろからルルがやってくる。
「やっぱり……イレナ様も吐き気を?」
「そうだ。お前もか?」
「はい……」
アルクは巨大なワイバーンを一眼見て、提案をする。
「ワイバーンは使い物にならなくなった。ここから歩くしか無さそうだ」
「そうですね。後ろの人にも言ってきます」
ルルはそう言うと、後ろで待っている竜人に伝え始めた。
ある程度時間が経つと、禁域に向かう兵士と、禁域に入る魔物達を排除する部隊が完成した。
「それじゃあ俺らは禁域に向かうけど……体調は大丈夫か?」
アルクはイレナとルルが吐き気を催している事を思い出し、イグゾースや兵士達に聞く。
だが、イレナとルル以外は吐き気どころか体調は安定しているようだ。
「そうか。じゃあ俺が先頭で進むから着いてきてくれ」
「分かった」
アルクはイレナ達や騎士達を連れて、禁域へ向かった。




