6-20 撤退
1匹の龍はこの瞬間を待っていた。
唯一の肉親に封印され2000年間ひたすら脱出する方法を探していた。
時には自身の全力の力で時空を歪ませ脱出しようとし、失敗し50年間動けない時もあった。
龍は己の力が湧き上がるを感じる事が出来る。
「ようやく外の世界で存分に力を出す事が出来る。だがその前に障害になりうる存在を始末する必要がある」
龍は自由になる為に障害となる存在を消す為に腕を天井へ伸ばす。
すると、龍の腕は天井をすり抜ける。
「さぁ。自由への進撃を始めよう!」
龍はそう叫ぶと全身から闇を放ち、黒暗結晶へ吸収させていった。
―――――――――――
黒暗結晶が放ち結界内を満たした闇は巨大な腕へ集まって行く。
すると、巨大な腕は暴れ始め地面を抉っていく。
「白様!イレナ様!早くあの巨大な腕を切り落として下さい!」
ルルの声に従ったイレナとアルクであったが、イレナは黒い竜人のせいで動けず、アルクだけが巨大な腕を切り落とそうと走って行った。
そして、アルクは剣を振り切る。
だが、アルクの剣は乾いた音と共に二つに折れた。
(な!?この鱗……固過ぎる!)
アルクは普段、黒赤刀のお陰で全力で振っても武器は壊れることは無かった。
そしてもしもの時を想定して鉄剣を使う場合必ず、鉄剣に魔力を流し硬さを底上げしている。
それでもなお、アルクの鉄剣は折れてしまった。
(もう少し硬い物がいいか)
アルクは新しい剣を取り出す為に一度距離を取る。
こうしている間にも巨大な腕は自身の身体全体を地上に出させる為に、地面を抉り続けている。
アルクは新しく取り出した剣を構え魔力を流し硬さを底上げする。
だが、アルクが取り出した新しい剣は鉄の剣とは違い、薄い青色が宿っている。
(オリハルコンの鉱石で作られた剣だ。黒赤刀よりは脆いが鉄剣よりはマシだ)
アルクは先程と同じ方法で走り出し、巨大な腕に剣を振る。
すると、鉄剣とは違い黒い鱗を切り裂き、肉を切った。
巨大な腕は痛みを感じたのか、動きがより一層激しくなる。
すると、黒暗結晶から再び黒い影が現れ腕となり、二本目の腕がが地上に現れる。
腕が揃った巨大な何かは地面を割く為に、地面に爪を立て、膨大な闇を放ちながら地面を裂いていく。
「ダメ!これだけは!」
ルルは慌てたように急いで結界術を施すが、尽くルルの結界は破られていく。
そして遂に地面は引き裂かれ、黒い空間が地面の穴に出来上がる。
そこから巨大な黒い影が地面から溢れだし、巨大な体を形成していく。
「ルル。これが何か知っているのか?」
「……………」
「ルル?大丈夫か?」
アルクは何も返事をしないルルに違和感を覚えた、肩を擦る。
すると、ルルは力無く地面に倒れ込む。
「ルル!大丈夫か!」
アルクはすぐに倒れ込んだルルの体調を確かめる。
その後に結界内の闇の濃度が高まっていることに気づく。
(まずい……ルルの体が弱ってる)
アルクは謎の黒い影と息を弱々しく吐いているルル、そして、騎士を魔物から守るリラと黒い竜人と戦うイレナを見る。
「仕方ない……一度撤退して体勢を立て直すぞ!リラと白蜘蛛は騎士を背負って結界の外まで出ろ!」
アルクはリラと白蜘蛛にそう言うと、リラ達は頷き騎士を背負い結界の外まで走る。
反対にイレナと黒い竜人はまだ戦闘を繰り広げていた。
イレナが攻撃を仕掛けようと距離を詰めると、魔法で距離を取りながら攻撃をする。
例え、近づけて切ろうとしても魔防壁に塞がれ、逆に攻撃を受けてしまう。
(あいつ、俺が苦手な方法で戦ってやがる)
すると、イレナは黒い竜人の魔法をくらい飛んでいたイレナは体勢を崩し、地面に落ちて行った。
「イレナ。交代だ。ルルを連れて外に出ろ」
「良いのか?」
「良いぜ。それにアイツからも色々と聞き出したいからな」
「分かった。それじゃあ頼む」
「おう」
アルクはそう返事をすると、ナイフを黒い竜人目掛けて投げる。
すると、アルクが投げたナイフが黒い竜人の魔防壁に刺さると、アルクはワープし魔防壁ごと斬る。
「マジかお前!本当に人間か?」
黒い竜人は自身の魔防壁が斬られた事に驚いたのか、魔法を放ちながらアルクとの距離を取る。
だが、アルクは高速で飛行魔法を発動し、距離を取らせないようにする。
「騙されたな!」
黒い竜人はそう言うと、体が歪んだと思えは空中に消えていった。
(今のは……幻影か!)
アルクは見失った黒い竜人を探す為に辺りを見渡す。
すると、いきなり左から強い衝撃を感じ、地面まで吹き飛ばされる。
アルクを吹き飛ばしたのは黒い影だった。
[龍魔法・龍の火球]
と、アルクの上空から魔法が放たれアルクに迫っていく。
だが、アルクは冷静に魔防壁を使い、黒い竜人の魔法を乗り切る。
するとアルクは気付いた事が一つあった。
それは、黒暗結晶から闇が漏れ出し黒い竜人に吸収されている事だ。
高濃度の闇の凝縮体である黒暗結晶の闇はとてつもなく強力だ。
(このままだと俺が押されるな……何も分からないまま引くのは嫌だが……仕方ない)
アルクは撤退しようとしたが忘れてはいけない事を忘れてしまう。
(道が分からん)
アルクはイレナの魔力を探ろうとしたが、結界内で充満している闇のせいで上手く魔力が感知できない。
だが、アルクは服の裾から銀色の糸が繋がっているのを気付く。
(これは白蜘蛛の糸……信じるか)
アルクは白蜘蛛の糸を信じ繋がっている方向へナイフを投げる。
「何をしている?……まさか!」
アルクが何をするのか気付いた黒い竜人は急いで魔法を放とうとする。
「次合った時は必ず殺す」
黒い竜人はアルク目掛けて魔法を放つが、黒い竜人よりも早くワープした。




