6-15 禁域1
翌日、アルク達は約束通り大聖堂に向かおうとしていた。
するとそこへ、ワイバーンが降りて来る。
「あれ?この子昨日の……」
「迎えなんだろう。乗るぞ」
アルクはそう言うとワイバーンに乗り、その後にイレナ達は続く。
全員が乗ったのを確認したワイバーンは大聖堂に向かう為に飛び始める。
「それで禁域に入った後はどうするつもり?」
イレナは禁域に入った後の事についてアルクに尋ねる。
禁域の情報はルルに教えてもらった事しか知らない。
「取り敢えず入ったらで考えよう」
アルクがそう言うと大聖堂が見えて来るのと同時に、ワイバーンは降下し始める。
すると、大聖堂の中庭に複数のワイバーンとルルが居た。
「皆さんおはようございます。それでは早速ですが禁域にお連れしますのでこのワイバーンにお乗り下さい」
ルルがそう言うと背中に大きめのテントが張られている白い体毛の巨大なワイバーンが居た。
「それともしもの為に騎士とワイバーンを複数人同行させますので御了承下さい」
ルルがそう言うとイレナがアルクの代わりに口を開く。
「わざわざありがとう」
するとイレナとルルが話している所へ、アルナがやって来る。
「皆様おはようごさいます。禁域に向かうのでしたらこれをお持ち下さい」
と、アルナはアルクとリラに丸薬を渡す。
「禁域には何があるのか完全に解明されてません。ですが一つだけ確かなものがあります」
「確かなもの?」
「はい。それは毒です」
「毒?」
アルナの言葉にアルクは単純な疑問を浮かべる。
それは何故アルクとリラに毒を解除する丸薬を渡すのか。
「白様の言いたいことは分かります。ですが何故か禁域の毒は我々竜人には無効でして……ですがそれ以外の種族には害があるみたいなんです」
アルナの言葉を聞き終えると、アルクは若干の違和感を持つが特に気にすることは無くワイバーンに近づく。
「それでは皆さんも準備出来たみたいですし、禁域に向かいましょう」
ルルはアルク達が準備が出来るのを確認すると、テントが張ってある巨大なワイバーンに乗る。
アルク達もルルの後に続き巨大なワイバーンに乗る。
巨大なワイバーンをよく見ると、希少種であるラティワイバーンである事に気付く。
「それでは出発しますね。それじゃあお願い」
ルルがラティワイバーンに声を掛けると、ラティワイバーンは低く唸り飛び始める。
「それでは禁域まで少し掛かるのでゆっくりしてて下さい」
ルルの言う通りラティワイバーンの飛行は他のワイバーンよりも比べて遅い。
アルクはテントの隙間から外の様子を見る。
外には三体のワイバーンが囲んで飛んでおり、その上に二体ずつ騎士が乗っている。
すると、ラティワイバーンは上空で停滞し始める。
「あれ?どうしたんだ?」
アルクはラティワイバーンに指示を出していたルルに声を掛ける。
「どうやら禁域の近くまで着いたみたいですね。ここからは歩いて行くしかありません」
ルルがそう言うとラティワイバーンの頭を撫で、地上に降りるように声を掛ける。
アルク達は地上に降りると目の前に巨大な結界が貼られてることに気付く。
「恐らくですが、黒い鉱石の影響で魔物やワイバーンの気性が荒くなってるかもしれませんのでご注意下さい」
ルルがそう言った瞬間、地面に潜って隠れていたであろうグランドベアが現れ、ルルに襲い掛かる。
突然の出来事に騎士はもちろんワイバーン達も反応出来ずにいた。
だが、
[アレキウス神滅剣・次元斬]
と、アルクは不可視の斬撃をグランドベアに放ち首を斬る。
「気を付けろ」
アルクはそう言うと引き抜いた剣を鞘にしまう。
「それにしても空気が重いな……昨日とは大間違いだ」
アルクは昨日調査した場所と、今の場所について比べていた。
昨日、アルクが見た結界の大きさはまだそれ程大きいとは認識していなかったが、今アルクが見ている結界は見上げるほどに巨大だ。
つまりそれ程、今アルク達は禁域に近い位置に居るという事だ。
「ルル。ここから禁域までどのぐらいかかる?」
イレナはルルにどのぐらいかかるか聞く。
「それほど掛かりません。だいたい……30分ぐらいで着くと思います」
「分かった。それじゃあ私達が守るから案内してくれ」
「分かりました。それでは付いて来てください」
ルルがそう言うと歩き出し、アルクがルルの前、イレナが後ろ、リラと騎士はルルの斜めに着く。
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襲ってくる魔物を撃退しながら禁域に向かって行くアルク達であったが、遂に目の前に禁域に張られている結界に辿り着く。
アルクは結界の術式を良く見てみると、結界の精巧さに体の動きを止める。
(この術式……余りにも精巧過ぎる……レイリン……いやクラシスよりも上の可能性がある)
アルクがそんな事を考えているとルルが結界に手を触れる。
すると手が触れた所から穴が開き、人が通れる程の穴が開いた。
「な!?これは……」
結界の外から禁域の中を見たアルクは、中の状況を見た途端驚く。
結界の中、禁域には闇が充満していたのであった。
「何なんですか……これ」
禁域の状況を確認したルルは驚きのあまり膝を崩す。
「ルル。確認だが禁域は常にこの状況なのか?」
「白様……いいえ。普段は綺麗な空気なのですが……これは異常です」
「そりゃそうだろ。だってこれ……闇だぜ」
「え!?」
アルクの言葉を聞いたルルはアルクを見つめる。
「取り合えず早めに処理した方が良い。入って良いか?」
アルクはルルにそう言うが、ルルが答えるのより先に禁域に足を踏み入れる。
すると、アルクは大気中に漂う魔素を手に集める。
「白。中はどうだ?」
イレナは中がどんな状況になっているのかアルクに聞く。
「そうだな……確かに空気に闇が混じって入るが……薄いな。これなら人体に無害だから入ってきてもいいぞ」
アルクの言葉に従いイレナ達は足を踏み入れるが、ルルは動こうとしない。
「ルル?どうしたんだ?白が言った通り無害だから入っても良いんだぞ」
「は、はい……ですが……」
「呪いが怖いのか?」
中々話を切り出せないルルの代わりにアルクが話す。
「はい……」
「安心しろ。呪いに掛かっても俺が治してやる」
と、アルクがそう言うと、安心したのか頷き禁域に足を踏み入れた。




