6ー13 巫女と竜人王
神龍教の大聖堂に入ったアルク達は通路を歩いていたが、あまりの広さに驚いていた。
アルクは何度か教会に入った事はあるが、こんな大規模の教会は初めてだ。
廊下は蝋燭で照らしているのか薄暗いが壁に龍の頭の飾りが施されているのが分かる。
しばらくすると広い空間にたどり着く。そこには薄い布で顔が隠されていて、白い修道服にそれぞれ赤、青、緑、黄、茶、白の龍の装飾品が施されている服を着た竜人が居た。
アルクはその竜人を巫女だと一瞬で分かったが、問題は巫女の横に座っている赤い竜人だ。
イレナはその竜人を見ると、思わず足を止める。
「ん?どうしたんだ?」
「白。あの大きい竜人は強い。戦わなくても分かる。気を付けろ」
「分かった」
アルクはイレナの忠告を受け入れ、そのままアルナの案内で巫女の前に置いてある椅子に案内される。
「使者様。ようこそおいでなさいました」
巫女はそう言うと、イレナの前に立つと膝を床に着く。
巫女の一連の行動にアルクはイレナに耳打ちをする。
「イレナ。取り敢えずお前がリーダーって事で」
「分かった」
と、イレナは返事をすると巫女に声を掛ける。
「いいえ。多忙なのにわざわざ面談の機会を作ってくれてありがとう。私の名はイレナと言う」
イレナはそう言うと巫女は立ち上がる。
「寛大なお心に感謝しますイレナ様。私は神龍教の巫女であるルルと申します」
神龍教の巫女であるルルが自己紹介をすると、隣の椅子に座っている赤い竜人を見る。
「分かっている」
竜人は立ち上がると、身長の高さにリラは緊張していた。
実際リラが今まであった人の中に高身長の人間や竜人に会った事が無い。
「使者殿よ。よくドラニグルに来てくれた。ワシははドラニグルの王であるイグゾース=ペンドラゴンと言う」
やはり赤い竜人は以前アルクの谷落としの刑に立ち会った竜人の王であった。
イグゾースの言葉にアルクは内心とても焦っていた。
(やっぱりあの時の竜人かよ……でも仮面かぶってるからバレない筈)
すると、イグゾースはイレナの隣に立っているアルクに視線を移す。
「イレナ殿。隣にいる人間は?」
「こいつは私の仲間である白だ。今はこいつとその仲間達と行動している」
イレナがアルクやリラの事を説明するとイグゾースは納得したのか頷き椅子に座り直す。
「イレナ様もどうぞ椅子へ」
「ええ。そうさせてもらうわ」
ルルに示された椅子にイレナが座り、右斜め後ろにアルク、左斜め後ろにリラが立つ。
「にしても貴方のような新しい龍に出会えて長生きするもんだと再認識したわい」
イグゾースはそう言うと豪快に笑う。
「王よ。使者達の前ですよ。少し抑えてください」
「む?それはすまない。でもイレナ殿もそうだが後ろの人間も余程の実力があると見受けられる」
イグゾースがそう言うと、アルクの中でイグゾースの強さを再認識する。
「どうだ人間よ。面談が終わり次第手合わせを」
イグゾースの言葉にイレナは割って入る。
「イグゾース殿。貴殿の気持ちは分かりるがどうか落ち着いてもらいたい。それに今は力試しより発見された黒い鉱石が最優先だ。力試しはその後にしてもらいたい」
イレナの言葉の変わりようにアルクは少し驚くが、すぐに冷静になる。
何故なら神龍の元で暮らしているおかげで、ある程度の交渉や話し方にはクラシスから教わっている。
「それもそうだな。それではルルよ。使者達に説明を頼む」
「分かりました」
ルルは立ち上がると腰に飾ってある青色の龍の飾りに触れる。
すると、青色の龍の飾りから水が溢れ四角に広がる。
「これは?」
「この魔法は私が作った魔法です。皆さんも知っていると思いますが黒い鉱石は禁域に出現しました。そこで私は緊急策で強力な結果を禁域周辺に貼りました」
「それは聞いた事あるわ」
「はい。その禁域はこの様な形をしています」
ルルがそう言うと水で出来た四角に地図らしき物が映し出される。
大きな湖の真ん中に島がある。
「これが禁域の地図です。真ん中の島は黒龍が封印されていると言い伝えられている所です。そこに黒い鉱石が出現しました」
すると、湖の地図から薄暗い洞窟に移り変わる。
「これが禁域内部ですが……あった。これが黒い鉱石です」
ルルはそう言いとある場所を指さす。
それはとある祭壇から樹木の様に生えている巨大な黒い鉱石だった。
「白。これって……」
「ああ……間違いなく黒暗結晶だ。しかも結構大きい」
すると、イグゾースは立ち上がり水をよく見てみる。
「使者殿。やはりこれは危険な物なのか?」
と、イグゾースがそう言うとアルクの代わりにイレナが話す。
「ああ。これはお母さま……神龍様が言っていた闇の鉱石で間違いない」
「そうか……ではルル。禁域に入るのはいつになりそうだ?」
「そうです……グ……ウゥゥゥ……」
ルルは何か言おうとしたが突然苦しみだす。
「ルル!?大丈夫か?」
イグゾースは倒れそうになるルルを抑える。するとルルを椅子に座らせ懐から塗り薬を取り出し腕を捲る。
捲られたルルの腕には黒い跡とひびの入った鱗が目に入る。
それを見たアルクはガルルが言っていた病気だと理解する。
「ルル。どうしたんだ?」
「イレナ様……実は……」
イレナの質問にルルはなぜこうなったのか口を開く。
元々これは生まれつきではない。いつも通りの祭壇に訪れていた時、手のひらサイズの黒い鉱石から黒い靄が発生する。
当時のルルはただの霧かと思い油断している所に、黒い靄が左腕に纏わり、その瞬間激痛が走る。
最初はただの黒い跡が付いただけだが一週間になる頃に鱗の一部にヒビが入っていることに気付いたが、一枚の鱗だったのか放置していた。
その結果が今の状況だ。
「イレナ。治療出来そうか?」
「分からない……でもやってみる」
イレナはアルクにそう言うとルルに近づき、鱗にヒビの入っている腕に回復魔法を放つ。
だが、黒い跡やヒビ割れた鱗は治らない。
「白。これは恐らく……」
「分かってる。俺がやってみる」
アルクはそう言うとルルの側に寄り、黒い跡がある左腕に触れる。
すると、アルクが触れた途端、黒い跡が拳ぐらいの大きさから次第に小さくなり、最終的には消えた。
「な!?い、今のは……」
一連の出来事を見たイグゾースは驚いた声を上げる。
「宮廷医術師ですら治せなかった病を一瞬で!?」
「これは病なんかではありません」
イグゾースの言葉をアルクは正面から否定する。
「病ではない?ではこれは……」
「これは闇の呪いです」
アルクがそう言うと、ルルとイグゾースは固まる。




