6-12 巫女との面談
アルク達とガルルが王都の外に出た頃、巫女は椅子に座り書類を整理していた。
「アルナさん。何の用?」
巫女はそう言うと、扉が開きアルナが入って来る。
「全く。貴方の感知能力は以上に高いですね」
アルナはそう言うと、近くの椅子に座る。
「貴方だけだよ?私にそんな態度を取るのは」
「まだ敬語だけ良いじゃないですか」
すると巫女は一枚の紙をアルナに渡す。
「これは?」
「神龍様のお告げをメモした物よ。これを読んでどう思う?」
アルナは巫女から渡された紙をよく読んでみる。
『竜人の巫女よ。これから私の協力者である人間と娘、その仲間を送ります。出来るだけ貴方達も協力してあげなさい』
「ん~……これを読んでみる限りあの白と言う人間が使者って事か?」
「分からない。ただ私の感知した通り龍種が来たのは確か……」
「それは私も確認しました。獣人と従魔はともかくあの人間が良く分からないんですよね」
アルナはイレナと言う龍と共にやって来たアルクを警戒していた。
何故なら人間の魔力を感じるが、ほんのわずか龍魔力を感知したのだ。
「取り敢えずアルナはワイバーンの目を借りて使者たちを観察しておいて」
「分かってますよ」
アルナはそう言うと椅子から立ち上がり、部屋の扉に手を掛けるが振り返る。
「貴方も無理しないで下さいよ?アレのせいであなたの体はボロボロになってるんで」
と、アルナが言うと巫女は自身の左腕を見る。
左腕は掴まれたような跡があり、黒く変色してる上に鱗にはヒビが入っている。
「あの者達の正体も知りたいですが一番はあなたの治療です。その為ならば協力も惜しみませんから」
アルナがそう言うと部屋を出る。
「そうよね……まだ後継も居ないから私がやらなきゃいけない……覚悟を決めるしかないか」
巫女は椅子から立ち上がり、窓の外を見る。
眼下には王都を行きかう竜人とワイバーンが見える。
すると突然、首に痛みが走り、触れると首の鱗にもヒビが入っている。
「時間が無い。急がないと……」
と、巫女は呟くと急いで部屋を出た。
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ドラニグルには巫女の他にも国を統治する王が居る。
その王はイグゾース=ペンドラゴン。
見た目は高身長で筋肉質な肉体をしているが、肌や鱗は赤くなっている。
「王よ。お知らせが」
イグゾースが王城の書斎で本を読んでいる所に、騎士が声を掛ける。
「なんだ?」
「はい。昨日、巫女のお告げ通り神龍の使者が入国して来ました」
「そうか」
イグゾースはそう言うと読んでいた本を閉じ、騎士に質問をする。
「巫女と騎士はどう対応をしている?」
「はい。巫女はワイバーンの目を借りて監視をし、我ら騎士団は一人の騎士を側に置いています」
「そうか……所で巫女の病気の進行具合はどうだ?」
「はい。ついさっき左腕に入っているヒビが首元までに広がりました」
「そうか……早くしないと……下がって良いぞ」
イグゾースは騎士に命令すると、騎士は軽く敬礼をして書斎を出た。
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ガルルと共に王都の外に出たアルク達は、周辺に異変が無いか調べていた。
今、アルク達が調べている場所は、禁域に比較的近い所に居た。
「どうだ白?なんか異常はあったか?」
「ここは無い。でも……」
「でも?」
「奥……多分禁域かな?そこの周りに強力な結界があるおかげで異常が無いのかもしれない」
アルクは森の奥を見上げる。
アルク達が今いる所に着くまで、アルクは強力な結界の存在に気が付く。その強力な結界は遠く離れているアルク達にも感知することが出来るほどだ。
「あーあれか?アレは禁域に黒い鉱石が確認された瞬間巫女様が全力で結界を張ってくれたんだ」
ガルルの言葉を聞いたアルクは巫女の張った結界に強い関心を抱く。通常これ程の強力な結界な数日掛けて詠唱をする必要がある。
すると、リラがアルクに声を掛ける。
「どうしたんだリラ?」
「気のせいかもしれないですけど血の匂いが……」
リラの言葉にガルルはあることを言う。
「血の匂いか?俺には分からんがおそらくワイバーンが狩りでもしてるんじゃないか?」
「そうなんですか?それなら良いですけど……」
それからもアルク達は調査を続けたがめぼしい発見は無く、いつの間にか日が沈んでいた。
「やっぱり禁域の中に入った方が一発なんだけどな」
「私もそう思ってるわ。ていうかそろそろ巫女との面談じゃない?」
イレナの言葉にアルクは面談の事を思い出す。
「ガルル。面談の時間がそろそろなんだが俺達はどこに行けばいいんだ?」
「それならそろそろ迎えが来ると……来たわ」
と、ガルルはそう言うと上空を飛んでいた一匹のワイバーンが降りてくる。
降りてきたワイバーンは全体的に灰色で首に金色の首飾りがある。
「ガルル。これは?」
「こいつは神龍教のワイバーンだ。これに乗れば案内してくれるぜ。あと一つだけ」
「なんだ?」
ガルルはそう言うと、アルクに耳打ちをする。
「巫女は今病気になってるって噂なんだ。もしそれが本当だったら治療も試して欲しいんだ」
と、ガルルの言葉にアルクは溜息を吐く。
「すまない。俺には回復魔法系が苦手でな。今でも下級魔法の止血しか使えないんだ」
「そうか……」
アルクの言葉を聞いたガルルは落ち込む。
すると、
「回復魔法なら一通り使えるぞ」
と、イレナが言う。
「本当か?それは良かった。何を話していたか聞いていたか?」
「面談のついでに治療だろ。ちゃんと聞いてたから安心しろ」
「助かる。それじゃあ俺は俺で騎士団の用事があるからここでお別れだな」
ガルルはそう言うと、アルク達をワイバーンに乗るように促す。
アルク達はガルルの言う通りにワイバーンの上に乗り、そのままガルルの合図で空を飛び出す。
「それにしても意外とすんなり行くよな」
アルクはそう呟く。
「でも簡単に終わるなら良いじゃない?」
イレナの言葉にアルクは頷くと、ワイバーンが唸る。
どうやら降下するらしい。
アルク達は急いでワイバーンに付いているサドルを握ると、ワイバーンは降下を始めた。
すると、巨大な教会が見えてくる。
その教会は夜でも分かる程白く、アルクはすぐにその教会が神龍教の本体である事を理解した。
ワイバーンが巨大な教会の中庭に降り立つと、直ぐに神龍教徒とアルナが中庭に出てくる。
「皆さんこんばんわ。良く来てくれました。今から巫女様のところに案内しますがよろしいでしょうか?」
アルナがそう言うと、女性の竜人がアルナと話す。
「それは本当ですか!?」
と、驚愕の声を上げる。
「すみません皆さん。どうやら面談に国王も出席するようです」
アルクはアルナの言葉を聞くと頭を抱えた。
何故ならドラニグルの国王であるイグゾースにバレル王国の裁判で顔が知られているだ。
アルクは収納魔法から仮面を取り出し被る。
「準備が出来たようなので今から案内します」
アルナはそう言うと歩き出し、アルク達もその後を追った。




