5-38 闇との邂逅2
始めて闇を身に宿している人間を目にした翔太達は、あまりの威圧感により怯んでいた。だが、反対に白はため息をつく。
「何だ……この程度か……」
「「「は?」」」
白の思いがけない一言に翔太達はもちろん闇の使いも声を上げてしまう。
「お前達!本気で行けよ!危険だと判断したら俺が助ける!」
白はそう言うと翔太達の後ろで待機をする。
「お前……俺を舐めるな!」
闇の使いは白に放たれた言葉に怒りを感じたのか、前に居る翔太達より後ろに居る白に向かって闇で作った剣を投げる。
しかし、闇の剣は白に届く前に消えてしまう。
「はぁ!?お前……何をした?」
「さぁな。お前達も早く殺しに行け!」
「は、はい!」
白は見ていた翔太達にそう言うと、翔太達は武器を構えて黒暗結晶の上にいる闇の使いに迫って行く。
梨花や雪などの魔法が使える二人は牽制として魔法を放ち、その隙に蓮司が槍の長さを利用して攻撃を仕掛ける。
しかし、闇の使いは蓮司の攻撃はもちろん梨花達が放った魔法を避け反撃しようと動く。
だが、動こうとするが足が動かない。
闇の使いは足元を見ると白い糸が絡みついていた。
(まったく……援護はするなと言ったのに……)
蓮司は闇の使いの隙を見逃さずに、槍を上から下に振る。
闇の使いは蓮司の攻撃を防御したが、足場を崩しそのまま地面に叩きつけられる。
「くっ……」
「ありがとう!蓮司!」
翔太は立ち上がろうとする闇の使いに休憩する暇を与えずに攻撃をする。
「舐めるな!」
しかし、闇の使いは闇を周囲に撒き散らかし翔太の攻撃を中断させる。
「手加減しただけで思い上がりやがって!殺してやる!」
闇使いはそう叫ぶと剣を取り出し、翔太に斬りかかろうとする。
だが、翔太は毎日、白の訓練を受けていた影響か殆どの攻撃をいなすことが出来た。
「最後の最後が甘いんだよ!」
闇の使いは翔太の攻撃を全ていなし、油断している翔太に闇で作ったもう一本の剣を胸に刺す。
「か……は……」
闇の使いはそのまま闇の剣を引き抜き、翔太は力無く地面に倒れる。
「翔太!お前!」
「残り五人……人数が多いだけで大した事ないな」
闇の使いはそう言い、剣を構えて蓮司達に襲い掛かる体制になる。
しかし、闇の使いの背中から突然血が溢れ出す。
その正体は闇の使いに胸を刺され死んでいた筈の翔太だった。
「は?なんで生きてんだよ!?」
闇の使いは殺した筈の人間が立ち上がり、それに加えて背中を切った翔太に驚きの声を上げる。
すると、翔太の懐から何かの小包が落ち黒い炎で塵になって行く。
「行くぞ……闇の使い……」
翔太は剣を構え闇の使いに迫って行く。蓮司達も翔太に合わせて複数人で闇の使いに攻撃を仕掛ける。
いくら闇の使いとは言え、人数や手数の多さに対応しきれず体の至る所に傷が発生する。
「クマテツ!お前も見てないで戦いに参加しろ!」
白は翔太達と闇の使いの戦いを見ている熊鉄にそう言う。
「参加しろって……無理じゃね?」
熊鉄は魔法や剣、槍の攻撃が繰り出されている所に向かうといった無謀な考えは持っていなかった。
「なんだ?お前の今までの威勢はどこに行ったんだよ?それに死んでも一回なら助かるから。ほれ!行って来い!」
「はぁ……分かった……」
熊鉄はため息を吐きながらそう言うと、翔太達の所へ向かって行く。
「死ね!クソ虫!」
「まずい!蓮司!」
闇の使いの剣は、槍が弾かれ完全にフリーとなった蓮司の胸に迫って行く。翔太は蓮司を助けようとするが蓮司の反対側に居る為、助けに行けない。
「おらぁ!」
だが、闇の使いの剣は熊鉄の拳によって砕かれる。
「これでも……くらえ!」
熊鉄はそのまま闇の使いと格闘を挑む。
だが、予想外なことに闇の使いは熊鉄の拳をすべて捌き反撃をする。熊鉄も負けじと劣らず殴り返す。
「熊鉄!下がれ!」
翔太の言葉に熊鉄は素直に従い、一発だけ入れ後ろに下がる。すると、熊鉄と闇の使いが居た所周辺に魔法陣が出現し炎柱が発生する。
梨花は炎柱をしばらく発生させていたが魔力が少なくなったのか魔法を止めて、闇の使いを様子を見ることにした。
「はぁ……はぁ……チクショウ……」
梨花の魔法を受けていた闇の使いだったがまだ倒れていなかった。
「仕方ねぇ……予定が狂うが使うしかねぇな……」
闇の使いはそう言うと、後ろにある黒暗結晶の方へ走っていく。闇の使いが黒暗結晶の前まで走ると、黒暗結晶に触れる。
「お前達!何をぼさっとしている!早く殺せ!」
白は慌てた声を上げるが突然の白の動揺に翔太達は動けないでいた。
「チ……お前達。行くぞ!」
白は闇の使いに目掛けナイフを投げ、ポイントワープをして距離を詰める。
白の剣があと少しで闇の使いの首に届く瞬間、再び周囲に闇が巻き散らかされる。
白は同じように吹き飛ばされるが、今度は空中で受け身を取り地面に着地する。
「クソ……こいつもか……」
白はそう言い、闇に包まれた闇の使いに目線をやる。その瞬間周囲に漂っている闇がすべて闇の使いに吸収されている。
「まるであの時の様だな……」
「あの時?」
「話は後だ。今は目の前の状況に集中しろ」
白は翔太にそう言うと、剣を構える。
「死ね」
と、単語が聞こえる。
「まずい……伏せろ!」
白は叫ぶと、近くに居た翔太はギリギリ反応が出来、耳が掠るだけで済んだが反応出来なかった蓮司達は首から血を流す。
「はぁめんどくさい。ショータ。お前はあいつらを安全な所までに引きずれ。その間俺が戦う」
「は、はい!」
白は立ち上がり、翔太を庇う様にして翔太の前に立ち。
「そうだ……お前だよ……お前が一番ムカつくんだよ!」
闇に包まれている闇の使いが叫ぶと闇が消え去り、魔力が溢れている闇の使いが居た。
「俺を雑魚だと決めつけやがって……殺してやる……殺してやるぞ!」
闇の使いはそう叫ぶと大きく踏み込み、白との距離を詰め攻撃を仕掛ける。
しかし、白は闇の使いと比べて冷静を保っており、闇の使いの攻撃を全て防ぐ。
すると、白の足に鋭い痛みを感じ、白は足を見ると影が棘となり足に刺さっていた。
「おらぁ!!」
闇の使いはそのまま白を蹴り飛ばす。
「お前は危険だ。今すぐにここで殺す。あいつらは後回しだ!」
闇の使いは闇魔法を白に目掛けて放とうとする。だが、白は魔法消去を発動させ魔法防ぐ。
「おい……まさかお前……俺の攻撃をすべて防げてると思っているのか?」
「何のことだ……」
白は闇の使いの言葉を疑問に思い、辺りを警戒する。
「ご主人!体!」
リラは叫ぶと白は自身の体に魔法消去を施そうとする。しかし、その瞬間白の至る所に傷が走る。
「ッチ……」
「どうだ?痛いか?」
「当たり前だ!」
白はナイフを三本取り出し、それを闇の使いに目掛けて投げる。
そして、それぞれのナイフにワープをし、一気に開いた距離を詰める。
闇の使いは剣を構えて白を迎え撃つ。
外から見ると白が有利に見えているが、黒暗結晶の闇を吸収した闇の使いはまだまだ余力を残していた。
「ここだ!」
闇の使いは白との剣戟の隙を付き、透明にしていた闇の玉を白の仮面に向かって放つ。白は予想外の攻撃に対応できずに正面から喰らってしまう。
「ムカつくんだよな……戦っているのに顔を隠すなんてな……」
闇の使いはそう言いながら顔を庇っている白にそう言う。
「しくったな……でもここでお前を殺すからどっちにしろ関係ないな……」
白はそう言うとひびが入った仮面を外し、地面に落とす。
「は、はは……まじか……マジかよ」
闇の使いは白の素顔を見ると思わず笑ってしまう。
すると、
「白さん!大丈夫です……か……」
と、翔太は蓮司達を安全な所に避難させたのか戦っている白の所へ戻って来た。
「はははははは……まさか……まさかお前がアルクとはな……まったく。笑えるぜ」
「嘘……なんで?」
翔太も何度も見た事のある顔であった。
「白さんが……闇の使徒アルク?」
国際指名手配に描かれていた闇の使徒アルク。翔太達が最終的に殺す人物が今目の前に居た。
「どうした?笑うだけで何もしないのか?」
アルクはそう言うと剣を振った。すると、闇の使いの胸に大きな切り傷が発生する。
「もう正体がばれたんだ。手加減する必要もないな」
アルクはそう言うと、身体強化を施し闇の使いに攻撃を仕掛ける。
だが身体強化を施したお陰もあってアルクが優位となる。
闇の使いとアルクはしばらく剣戟や魔法を撃ち合っていたが、闇の使いは攻撃を突然やめた。
「こうなったらキリがねぇな……やるか……」
闇の使いはそう呟くと、黒暗結晶の一部を砕きそれを体内に取り込む。明らかにその行動は冒険者ギルドに報告されていた魔物の行動と酷似していた。
「こいつもかよ……」
アルクは闇の使いの行動に一人だけ心当たりがあった。だが、あの時とは比べて目の前に闇の使いは奴より遥かに弱い。
しかし、奴との大きな違いは黒暗結晶の欠片ではなく原石を取り込んだ。アルクはその事実だけで十分に警戒をする必要があった。
すると、アルクは闇の使いから発せられていた威圧感が増すのを感じる。
[闇よ我が意に従え]
白は本気でやらないとやられると本能的に感じ、闇を解放した。
「はぁ!」
闇の使いはアルクとの距離を詰め攻撃を仕掛けるが、アルクは空中へ逃げることにより闇の使いの突進を避ける。
しかし、黒暗結晶を取り込み自身の闇や魔力を強化したのか素早く移動し、空中にいるアルクに追いつく。
「マジかよ」
アルクそう呟き距離を取ろうとするが闇の使いはアルクの腕を掴みそのまま地面に投げつける。
翔太はアルクと闇の使いとの戦いを遠くで見ていた。
翔太自身戦いに参加するべきなのだが一体どちらを攻撃すればいいのか迷っていた。
しばらくすると。アルクの剣が闇の使いの右腕を切り落とす。
翔太はチャンスだと考え、先に闇の使いを倒す事にした。しかし、翔太の動きはリラと白蜘蛛によって塞がれる。
「な!?どうして!」
「ご主人から邪魔が入らない様にと命令をされているので」
リラはそう言うと、翔太に攻撃を仕掛けその隙に白蜘蛛は翔太の手足を縛った。
その間にもアルクは闇の使いと戦いを繰り広げていた。しかし今度はアルクが優勢になっていた。
「ふざけんな!」
闇の使いは闇の剣をアルクに放つが、アルクは首を横に傾け闇の使いの攻撃を避け、闇の使いに剣を振る。
闇の使いは何もすることが出来ずに正面から喰らってしまう。
「そのまま死ね!」
アルクは攻撃を止めることは無く剣を闇の使いの胸に刺す。
アルクは闇の使いが死んだことを確認すると、翔太に一度視線をやるが振り返り黒暗結晶へ向かう。
「待って!」
アルクは後ろから声が聞こえ振り返ると、蓮司達が居た。
「……リラ、白蜘蛛。こいつらを拘束しておけ」
「はい」
リラは返事をすると、翔太と同じ方法で蓮司達を拘束する。
「待ってください!いったい何をするんですか!」
雪はアルクに質問するがアルクは無視をし、黒暗結晶に触れる。
すると、黒暗結晶は黒く輝くと闇を周りに放出する。アルクは周りに放出された闇を吸収し黒暗結晶の闇を吸収した。
「クソ……この!」
翔太は白蜘蛛の糸を力任せに千切ると、魔法をアルクに放とうとする。
すると、
[光魔法:聖なる槍]
と、上から光の槍がアルクに目掛けて飛んでくる。
「よりによって今来るのか……」




