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5-33 格の違い

 翔太達がそれぞれ自分の部屋で眠りにつき、翌日。


 翔太はいつもより早めに起きる。


(ああ~。ベットが硬い)


 騎士団に居た頃と比べベットなど品質が低い。それが理由なのか翔太は起きてからしばらく体に痛みを感じていた。


 すると、家の外から誰かの声が聞こえてくる。


「違う!もっと体じゃなくて頭も使え!もっと相手の弱点を見抜け!そんなんじゃ殺されるぞ!」


 翔太は外の声が気になり、部屋についている窓から外を見てみる。


 すると、白とリラが戦っていた。


 リラは獣人族の特徴である、鋭い感覚や高い身体能力で白に殴りかかる。だが、白はリラの攻撃をすべて見切り、反撃する。


「何度言わせるつもりだ!もっと観察しろ!俺は今何をしていない?」


 白の言葉に従い、リラは闇雲に攻撃するのではなく白を観察する。


(何が違う?どこが違う?)


 リラは白を観察すると何が違うのか分かった。それは地面だ。夜中雨が降っていたのか白の立っている地面付近はぬかるんでいた。


 リラはそれが分かると魔力を全身に巡らせ身体強化を施す。


 すると、リラは素早い動きで白の後ろに回り込み、白に襲い掛かろうとする。白も防衛をする為に後ろを振り向く。


 だが、リラの行動はフェイントですぐさま、反対側に回り込む。白も振り向こうとするが、ぬかるんでいる地面に足が捕らわれ体制を崩す。


 リラはその隙を狙い、白の懐に潜り込み拳を鳩尾目掛けて振りぬいた。リラは勝利を確信したその瞬間、地面と空が逆さになった。


「最後の詰めが甘いな」


 白の言葉と共にリラの背中に重い衝撃を感じる。リラはしばらく呆然としていたが、負けたと分かったのか目を閉じる。


「ご主人。今日はどうだった?」


「そうだな……少しは良くなってる」

 

 白はリラにそう言うと、リラは立ち上がる。


「そろそろあいつらも起きるから朝飯の準備をするぞ。お前も早く着替えろ」


 白はリラにそう言うと、頷き家に入っていく。




 しばらくすると、蓮司、梨花、雪、熊鉄の四人が起き朝食の匂いに釣られ、リビングに入って来た。


 そのまま、翔太達は朝食を食べ、白は翔太達を連れ冒険者ギルドに向かう。


「今日は依頼を受けないで討伐をする」


「え?依頼を受けないとお金が入らないんじゃ……」


「レンジ。依頼はなある人から頼まれるんだが、依頼は魔物の討伐料金に加えて依頼達成の報酬が来るんだ。それともう一つ依頼を達成させるとある程度ギルドの評価が上がってランクが上がりやすくなるんだ」


「だから冒険者のみんなはこんな風に並んでるんですね」


 蓮司は冒険者ギルドに入ると受付の横にある掲示板に冒険者が大量に居る理由が分かったかの様に白に聞く。


「そうだ。まぁ今回はさっき言った通りに討伐するだけだが……どうする?」


「どうするって何をですか?」


「上のランクに行くか今のランクに行くか。どっちにする?」


「「「「上で!」」」」


 白の提案に翔太達は迷わずに言った。


「クマテツはどうする?」


「……着いていく」


「そうか。なら着いてこい。案内してやる」


 白は翔太達にそう言うと、受付で何なら軽く受付嬢に話をすると、受付嬢は白をとある部屋に案内した。


「何してる?お前達も来いよ」


 翔太達は急いで白の入った部屋に入る。そこは薄暗い部屋だったが、床に大きい魔法陣が書かれていた。


「白さん。転送先はどうします?」


「そうだな……ハイラ森林のB地区に頼む」


「了解です。それじゃあ皆さん魔法陣の上に立って下さい」


 翔太達は受付嬢の言う通りに、魔法陣の上に立つ。すると、グネヴィアがミア商業都市に転移した時と同じ様に足元の魔法陣が光り出し、辺りの景色が変わっていく。


「良し!着いたがお前達に一つ言うことがある。本気で行け。それだけだ。後は自由にやって良いぞ。俺は上から見てるから」


 雪は白の言葉に何か嫌な予感を感じる。だが、翔太達はそれに気付かず、そのまま森の奥に進み始める。



――――――――――――


「モアアアアアアア!」


 牛の頭で体が人間の魔物が雄叫びを上げる。それは勝利の雄叫びだった。


 奴はBランクの魔物に指定されているミノタウロスだ。そして、そのミノタウロスの前で倒れているのは翔太だった。


 翔太達は森の奥に進み始めた時は、まだそれぞれ個人で対処出来ていた。だが、たまに強い魔物が現れる時もあったが連携などでそれらをなんとか討伐できていた。


 しかし、それらはCランクの魔物だったおかげで翔太達は勝てていたが、Bランクの魔物であるミノタウロスは違った。


 冒険者の間でもミノタウロスだけは気を付けろと言われるほどの体格や筋力、身体能力、知能がある。


 まだ、翔太達では実力不足であることは歴然だった。


「ク……ソ……強すぎる」


 翔太はまだ戦う意志があるのか立ち上がろうとする。だが、ミノタウロスは立ち上がろうとする翔太の脇腹に蹴りを入れる。


 翔太はあまりの痛みに意識を保つ事が出来ずに気絶する。


 ミノタウロスは翔太が気絶するのを確認すると最後に熊鉄の方を見る。


「チ……仕方ねぇ。来い!」


 熊鉄は白から渡された鉄のガントレットを付けミノタウロスに突っ込んでいく。


 ミノタウロスは手に持っている大剣を熊鉄目掛けて振る。だが、熊鉄は横に飛びミノタウロスの大剣を避け顔面を殴る。


 熊鉄の拳はミノタウロスに届いたが右手で熊鉄に殴り返すが、熊鉄を腕を交差させミノタウロスの拳をガントレットで防ぐ。


「舐めんな!」


 熊鉄は魔力を拳に込めてもう一度顔面に拳を放つ。だが、ミノタウロスは熊鉄の攻撃を避け、長い手で足を掴み地面に叩きつける。


 ある程度熊鉄を地面に叩きつけ様子を見ようとした時、熊鉄は叩きつけられた時に掴んでいた砂をミノタウロスに向かって投げる。

 

「グモモオオオ!」


 ミノタウロスは驚き、熊鉄を離す。その隙に熊鉄はミノタウロスの顎を何度も殴る。


 すると、ミノタウロスは地面に膝を着く。どうやら脳震盪が起こったようだ。


 そのまま熊鉄は殴り殺そうとする。だが、ミノタウロスの視界が戻ったのか熊鉄の拳を避け熊鉄の腹を殴る。


「グフ……ハァ……」


 熊鉄は今まで感じた事のない痛みに地面に膝を着く。


 ミノタウロスは大剣を拾い翔太達に止めを刺そうとする。だが、ミノタウロスは動きを止める。


「はぁ。だから本気で行けと言ったのに仕方ない」


 ミノタウロスの前には白が居た。


「ブル…………」


 ミノタウロスは目の前に立っている白に怯えていた。ミノタウロスにとって翔太達は自分の強さを見せつける為のちょうどいい格下の相手だと認識していた。


 だが白は違った。ミノタウロスにとって白は得体の知れない魔族に見えていた。


「おい。動いたら殺すからな」


 ミノタウロスは逃げようとしたが、白は声音を変えてミノタウロスの動きを封じる。


 白はその内に収納魔法から回復薬を取り出し、翔太達に飲ませる。


「う、うう……白さん?あいつは!」


 翔太はミノタウロスについて白に聞いたが、すぐ後ろにミノタウロスが居ることに気付く。


「まぁ大丈夫だ。お?あいつ等も起きたみたいだな」


 蓮司達が起きるのを確認した白は呆れた様な息を吐く。


「だから言っただろ?本気で行けと」


「本気で行きましたよ!でもアイツが強いんですよ!」


 翔太は白にそう叫んだが、白は翔太達に励ましの言葉を言わなかった。


「そうか?まぁ「グモモモオオオ!」……でも「グモモモオオオ!」……ふぅ。お前うるさいな」


 白はそう言うと、ミノタウロスは大剣を振りかざし白に迫る。


 だが白は避けるといった行動を一切見せない。その代わり腰に差していた刀を抜き、ミノタウロスに向かって振る。


 だがミノタウロスの体には何も変化が無い。白はそれを気にせずに刀を鞘に仕舞う。


「ハァ……ハァ……」


 だがミノタウロスは次第に走るのが遅くなり、白の前で立ち止まる。すると、大剣を握っていた両腕が落ちる。


「え?なんで……」


 翔太は驚きの声を上げる。


 白は右腕でミノタウロスの上半身を押す。すると、ミノタウロスの上半身は何の抵抗もなく地面に落ちて行った。


「どういうこと……」


 梨花も白とミノタウロスのやり取りを見ていたが何が起きているのか分からなかった。


(腕と上半身が切れた?腕と体は別々の位置にあったのになんで?)


 梨花は白の動きを思い返してみる。白に突撃するミノタウロスは大剣を振りかざす為に両腕を上げていた。


 白が刀を振ったのはたった一度。ミノタウロスの上半身と両腕を切るには最低でも二回刀を振らなければ不可能だ。


(まさか……あの時に二回振ったの?)


 梨花は白の底知れぬ実力に恐怖していた。


「お前ら!いつまで寝ている?まだまだやるぞ!」


 白は起きたばかりの翔太達にそう言うと、白は再び木の上に上った。


「熊鉄。今回は協力してくれ。頼む」


 翔太はまだ地面に座っている熊鉄にそう言う。


「協力はしてやる。だが今回だけだ」


 熊鉄がそう言うと、翔太は頷き蓮司達の体調を聞き、今度は警戒をより一層強めて森の中に進む。


 そこからは魔物に遭遇したが、連携で倒せる相手は進んで討伐し、明らかに手に負えない魔物が現れた場合、近くの茂みに隠れやり過ごした。



 太陽が沈みかけた頃、白達は転移魔法で冒険者ギルドに帰って来た。


「すみません!これお願いします!」


 翔太達は魔物を討伐した証拠として、それぞれの魔物の剝ぎ取った部位を受付嬢に渡す。


「はい。ただいま確認しますね……」


 受付嬢は魔物の剥ぎ取った部位をギルドの奥に持って行こうとする。


「あ!白さんも付いて来てください!」


 受付嬢に呼ばれた白は受付へ向かう。


「白さん。明日の依頼の件についてなんですけど……」


「え?明日?依頼?」


「え?」


「え?」


 受付嬢の質問に全く身に覚えのない依頼に白は気の抜けた声を上げてしまう。


「ハァ。明日ミル商業都市の北部に当たる山でワイバーンが暴れまわっているのでそれを討伐する依頼を受けたじゃないですか」


「あれ?そうだっけ?」


「そうですよ!」


「そうか……少し待っててくれ」


 白は受付嬢にそう言うと、楽しく話している翔太達の下へ駆け寄う。


「すまん。明日依頼があって明日は見れないが……魔物を討伐するつもりならDランク以下の魔物をやれ。それ以上の上の魔物の討伐は俺が許さない。分かったか?」


 白の言葉に翔太達は頷き、冒険者ギルドにある食堂で夕飯を済まし、白の自宅へ帰って行った。

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