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5-29 試練

 実戦訓練が中止となり、騎士団の寮へ帰って二日が経った。


 騎士団は召喚者の体の具合や精神を休めさせるために、四日の休憩を取るようにと翔太達に知らせた。


 だが、蓮司はその休憩の為に与えられた四日のうち最初の二日は筋トレや体力作りの為に使い、それに加え翔太と共にコムや他の訓練生と稽古などをしていた。


 雪と梨花も、翔太達同様に体力作りやメルナやグネヴィアに渡された魔導書などを読んでいた。


 そしてその日の夜、翔太達は食堂で夕飯を食べていた。すると、そこへ熊鉄が歩み寄って来る。


 そのまま熊鉄は翔太の横に立ち、口を開いた。


「なぁ……その……」


 珍しく熊鉄は暴言を吐かず、小さい声で何か言おうとしていた。


「なんだ?」


 翔太はそんな熊鉄が気になり、どうしたのか聞いた。


「いや……やっぱ何でもねぇわ」


 熊鉄は翔太に何か言おうとしたが、結局何も言わずに反対の席に戻って行ってしまった。


「何なんだ?」


「いいよ翔太。どうせまたいちゃもんを言いに来ただけだよ」


 熊鉄の態度に気になる翔太だったが、梨花はそんな翔太に気にしないように声を掛けた。


「そうだ!梨花ちゃん。明日シエラちゃんの所に行くけど……明日は……」


「良いよ。雪はシエラの所に行っておいで。私はグネヴィアさんの所に行くから」


 どうやら雪はシエラに魔法について教わるようだ。


「ところであんた達は明日も同じ訓練をやる予定なの?」


 梨花は、翔太と蓮司に明日の予定について聞いた。


「その予定だけど……」


「あんた達もさ、たまには魔法の訓練でもした方が良いんじゃない?」


 梨花は翔太達にそう言うと、翔太は何か考えている顔をした。


(そうだな~……確かに魔法の訓練もしばらくしてないしな……良いか)


 考えが纏まった翔太は答えようとしたが、翔太より先に蓮司が口を開いた。


「俺は別に良いぞ。たまには魔法の訓練もしないとな。翔太はどうする?」


「僕も魔法を訓練しないとなって考えていたんだ」


「オッケー。決まりだね」


 翔太は熊鉄の態度に気にながらも、その日は眠りについた。



ー------------------


 翔太達が寝る少し前、熊鉄はうつ伏せでベットに居た。


(あ~。今日はダメだったか)


 熊鉄は夕飯の時に、翔太に今までの事を謝ろうとしたが自分のプライドがそれを許さず、結局謝る事が出来なかった。


(いや。焦る必要はない。まだ時間があるんだからゆっくりで良いんだ)


 熊鉄は、そう考えると日課である筋トレを始めた。


ー-------------------


「あ!また壊れちゃった!」


 とある屋敷の一室で一人の少年は驚きの声を上げた。


「壊れたって何が……まさか黒暗石の事?」


 暖炉の近くの椅子に座っている少女が、少年に聞く。


「そうだよ……もう!あれを作るのに大量の魔力を使うんだよ!それにアレを作れる人は中々居ないくせにさ。あの人たちはじゃんじゃん使うんだよ?もうホントに……」


「まぁ我慢しようよ。それに作ればお菓子が一杯貰えるんだしさ。私も手伝うから」


 少女はそう言い、椅子から降りると収納魔法から魔石を取り出す。


「兄さん。今度はなんの魔力を籠める?」


「そうだな……」


 少年はそう言い、何か考えると見た目にそぐわない程の邪悪な笑顔をした。


「今度は簡単に壊れないようにアレを使おうか」


「ホントに?分かった。じゃあアレを持ってくるよ」


 少女はそう言うと、部屋から出た。


 兄と呼ばれた少年は魔石に、自身の魔力を篭め始める。


 すると、今まで白色だった魔石は次第に黒くなった。


 少年は黒くなった魔石を眺めながら少女を待っていると、ドアがノックされた。今、屋敷には使用人も居るが起きているのは少年と少女の二人だけの筈だ。


 少年は警戒しながらドアの方へ近づくと、


「兄さん。ドア開けて」


 どうやら少女の様だ。


「なんだ……ウェルシか」


 少年は、ドアをノックした相手が妹だと分かると、ドアを開け妹を中に居れた。


「それでアレは持って来たかい?」


「うん。ていうかこれ持つのを手伝ってよ」


 ウェルシの腕の中には、いろんな色に染まっている水晶が大量に入っていた。


 少年はウェルシの荷物を半分持つと、黒い魔石の近くに置いた。


「良し!それじゃあウェルシ。どれがいい?」


「え?選んでいいの?」


「たまには良いよ」


 少年はウェルシにそう言うと、嬉しそうに水晶を選んだ。


「それじゃあこれと……これと……これ!」


 しばらく悩んでいると、ウェルシは赤色の水晶と紫色の水晶、灰色の水晶を選び、少年に渡す。 


「へ~。えっと、マンティコアの魔力と……ナイトゴブリンの魔力。それに……ウェアウルフの魔力か。悪くない」


 少年はウェルシから渡された三つの水晶のうち、最初に赤色のマンティコアの水晶を割る。すると、その水晶から赤色の煙が出現し、少年が作った黒い魔石に吸収されていく。


 そのまま、少年は紫色のナイトゴブリンの水晶と灰色のウェアウルフの魔力が籠った水晶を割り、黒い魔石に吸収される。


「それに加えて……これを吸収させる」


 少年はウェルシから渡された水晶の他に、透明な水晶を割り、魔力を黒い魔石に吸収させる。


 この工程を見れば一見簡単に見える。


「あ~めんどくさい。ウェルシ……手伝ってよ」


「良いよ」


 少年は四つの魔力を篭めた黒い魔石を掴むと、魔力を流し始める。ウェルシは、少年の背中に触れ、少年に自身の魔力を流す。


 黒い魔石に魔力を流してから30分が経つ。最初は余裕な顔をしていた二人だが30分の間、魔力を流し続ける二人に疲労が感じられた。

 

 すると、黒い魔石はなんの前触れもなく輝き始め、黒い魔石は暖炉と蝋燭の光にも負けない程の黒い光を放っていた。


「く……良し……やっと終わった……」


 ウェルシはそう言った瞬間、床に倒れ込み、そのまま寝てしまった。


「こっちも……ヤバいかも……」


 少年は掠れていく視界で、黒い魔石を箱に入れ、そのままウェルシと同様に眠りに入ってしまった。


――――――――――――――


 実戦訓練が中止となってから、2ヶ月が経とうした。


 翔太達は、訓練が始まったばかりと比べ物にならない程の体と体力、そして魔法を身に付けていた。


 そして、翔太達はバルナとグネヴィアの案内の元、騎士団の団長の居る部屋に案内された。


「お前達とはこれが初めましてだな。俺はミリス騎士団団長をしているラーウェンと言う。突然だがお前達に一つ任務を与える」


 ラーウェンはそう言うと、紙を引き出しから出し、見えるよう机に置いた。


「今から2週間後にお前達には冒険者となって貰う」


 ラーウェンの言葉に翔太達は何を言ってるのか分からなかった。


「はぁ〜。ここは俺が説明する」


 ラーウェンの説明不足と思ったバルナは間に入って、説明をした。


 通常の訓練兵は3年間訓練した後、一度冒険家となり、外で魔物の種類や倒し方、野宿の仕方を日常的にこなさせる。


 通常の訓練兵で3年間の時間が欲しいが、翔太達は訓練を始めてやってからまだ四か月しか経っていない。


「にしても団長。いくら何でも早くはないか?」


「私もバルナと同意見だ。確かに四ヶ月前と違ってそれなりの技術を身に着けた。だが、まだまだこいつらはひよっこなんだぞ?」


 グネヴィアの話にも一理はある。確かに今の訓練兵と比べて戦闘技術や知識が無い。


「だからこそだ。それにいつ闇が完全に動き出すか分からない


「だが……」


「大丈夫だ。既に名の知れた冒険者にも手配はしてある」


「それはどこのどいつだ?」


「最近復帰したSランクの冒険者だ」


「まさか……白か?」


「は!?」


 グネヴィアには一人心当たりがあり、その人物の名を口にした。すると、バルナも驚いたのか大きな声を出した。


「なんだ?お前達、知っているのか?」


「知ってるも何も……元々こいつと同じチームを組んでたんだ」


「そうか……ならお前達も安心出来るんじゃないのか?」


 ラーウェンの言葉にバルナとグネヴィアはしばらく考え、お互いに頷いた。


「グネヴィア。良いんじゃないか?」


「そうだな。それにアイツなら魔法も剣術も両方できるからな」


「決まり……だな」


 ラーウェンは二人の決定を見ると、翔太達に向き直った。


「これから三日後にここへSランクの冒険者がお前達を迎えに来る。まぁ後はそこで頑張れ。後の説明は二人に聞くと言い。俺はこのまま作業に戻るから出て行ってくれ」


 ラーウェンがそう言うと、机にある書類の作業に取り掛かり、翔太達はそのままラーウェンの部屋を出た。


「あの……白って言う人は……」


 梨花は白についてバルナとグネヴィアに聞く。


「ああ。奴に付いて話そう」


 バルナは翔太達を食堂へ案内すると少し早い昼食を取る。


「まず、白に付いてだか……奴は俺が見た中で最強だ。そもそも奴に勝った事は一度もないんだ」


「「え?」」


 バルナの言葉に翔太と蓮司は驚いた声を上げた。翔太と蓮司は何度かバルナと模擬戦をしたが、勝つどころか木刀を当てる事がまだ出来ていない。


 そんなバルナですら最強と言い、一度も勝った事が無い事実を翔太と蓮司は驚いた。


「しかもそれだけじゃない。剣術に関してはとても強いが、その上、魔法も得意なんだ」


 グネヴィアはバルナに続くように話し始める。


「実際、私が戦闘の時に使っている魔力の使い方や身体強化も白に教わった」


「つまり、その白って人はとても強いって事ですか?」


「そう言うことになるな……」


 翔太達はバルナとグネヴィアよりも強い白に合うことに緊張していたが、気になる事を聞く。


「あれ?白っていう人って仮面を被っていますか?」


「む?そうだが……あ!そういえば一度会っていたな!」


 翔太達は実戦訓練の時に避難していた際に一度会っていることを思い出した。


「そうか。それなら話は早い。これから二週間後に備えてある程度訓練の質を上げる必要がある」


「え?なんでですか?」


「白はある程度才能や技量がある奴に興味がある。実際俺やグネヴィアも白に才能を買われて一緒のチームを組んでいた……が、お前達には才能が無い。だからその補填として技量を向上させる」


 バルナはグネヴィアの代わりに説明すると、グネヴィアは指を鳴らし広場に移動した。



 

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