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5-28 事後処理

 パリ、と音が鳴るのと同時にディエルの体から大量の黒い煙が放出された。


 ある程度離れているグネヴィアは黒い煙から離れられたが、間近に居た白はまともに喰らってしまった。


「白!」


 グネヴィアは白を助けようと近づくが、ディエルから放出される黒い煙がより一層多くなり方向が分からなくなってしまった。


[風魔法・トルネード]


 誰かが魔法を唱えると、大きな風と共に黒い煙が消えて行った。


 黒い煙が消えると、甲殻の色が琥珀色に戻ったまま絶命しているディエルと、魔法を唱えた後の白が居た。


「白!大丈夫か?」


 グネヴィアは白に近づくと、体の調子を見るために触り始める。


「大丈夫だからあまり触らないでくれ」


「む。そうか?」


 グネヴィアはそう言うと白から離れ、絶命しているディエルに近づいた。


「にしても一体何だったんだ?」


「説明するよ」


 白は冒険者協会から聞いた情報をグネヴィアに話した。


 バルト王国に魔物大侵攻が始まってから、様々な異変が起きたと情報が冒険者協会に集まっていた。例としては、黒い鉱石を取り込んだ強力な魔物の出現や、低ランクの魔物しか現れない筈の地域から高ランクの魔物が出現だ。


 実際今回のディエルもそれに当てはまっている。低ランクの魔物しか現れない場所に高ランクの魔物が出現が出現し、それに加えて黒い鉱石を取り込んでいた。


「やっぱりバルト王国に出現した闇の影響か?」


「冒険者協会はそのせいだと判断している」


 白はグネヴィアにそう言うと砕け散った黒い鉱石を集め始めた。


「白?その鉱石をどうするんだ?」


「ん?これは冒険者協会に届けようと思ったんだが……少しお前にやる」


「え!?良いのか?」


「良いだろう。それに騎士団側も分析ぐらいは出来ると思っている。出来るよな?」


 白は冒険者協会では分析の結果遅いと判断し、ある程度技術者も集まっている騎士団にも分析をさせようとした。


「分かった。ありがたくこれを貰うのと……騎士団にもお前から教わった情報を伝えておく」


「そうか。良し、それじゃあ避難者の所に行くか」


「あ!そう言えば!」


「安心しろ。転移魔法で安全な場所に転移させてある。案内するぞ」


 白はそう言うと、転移魔法の魔法陣がある場所へグネヴィアを案内した。


「そう言えばどうして長い間居なくなってたんだ?」


 グネヴィアは単純な疑問を白に投げた。


 実際白は5年前に起こった魔物大侵攻の後、しばらくして姿を消した。


「ああ。それはな……普通に暮らすために必要な金が無くなったんだよ」


「え?あのSランクの冒険者様が!?」


「マジマジ。っていうか冒険者を止めてからお世話をしてくれる奴隷を買ってさ。そのまま静かに暮らしてたんだよ」


 グネヴィアは白の話を聞いて呆れていた。


「なんかお前もちゃんと人間らしい所あるんだな」


 グネヴィアは冒険者時代の事を思い返していた。


 バルナと共にチームを組んでいた時は白は鬼の様に戦い続け、チームを解散するまで一度も素顔を見せることは無かった。また、当時の他の冒険者の間では、人間ではなく人形、または人間に化けた魔物ではないのかと噂が広がっている程であった。


 しばらく白の後を付いていると魔法陣が描かれている所に着き、白は躊躇することなく魔法陣の真ん中に立った。


 グネヴィアも急いで魔法陣の真ん中に立つと、周りの景色が一瞬で変わり広場になった。


「教官!」


 転移し終わるとすぐに声が聞こえ、メルナが走って来た。


「教官!大丈夫でしたか?」


「ああ。大丈夫だぞ……まぁ白が居なかったら死んだと思うがな」


 グネヴィアは白を見ると、冒険者ギルドの職員らしき人と話をしていた。


 しばらくすると話が終わったのかグネヴィアの方へ向かって来た。


「白。ここって王都のギルドなのか?」


「そうだ。まぁここからはお前の転移魔法で戻れると思うが……ある程度魔力を送るぞ」


「それは助かる。お前たち集まれ!」


 グネヴィアは地面に座っている翔太達を集めると、地面に魔法陣を描き始めた。


「この魔法陣に魔力を送ってくれ」


「了解」


 白はグネヴィアの描いた魔法陣に触れ、魔力を流すと魔法陣が輝き始めた。


「白。今回は色々とありがとう。また会おう」

 

 魔法陣の光が最高潮に達すると転移が開始し、グネヴィア達はミリス大聖堂の近くの訓練場に戻った。


「お前たちはもう自室に帰って良いぞ。私は今のうちに上の奴らに報告してくる」


「それは後で良いんじゃないんですか?」


 メルナはそうグネヴィアに言うと、グネヴィアは嫌な顔をした。


「早めに報告しないとあいつらうるさいんだよ。それじゃあ行ってくる。お前達もちゃんと休むんだぞ!」

 

 グネヴィアは翔太達にそう言い放つと、奥の建物に入って行った。


「皆さんも取り敢えず部屋に戻って休みましょう。後の事は後で考えましょう。それじゃあ私は先に戻っていますね」


 メルナはそう言うと自分の部屋に戻り、それを見たコムも自分の部屋に戻った。


「話は……後にしよう。流石に疲れた……」


「うん……翔太君に言う通り休もう……」


 翔太の提案に雪が賛成すると蓮司と梨花も頷き、それぞれ自分の部屋に戻った。


ー--------------------


 グネヴィアは頑丈な扉をノックし、扉を開け部屋の中に入った。


「こちらグネヴィア。団長。報告に参りました」


 グネヴィアは椅子に座っている男性に、敬礼をしながら話した。


「は!?実戦訓練はどうした?」


 団長と呼ばれた男はグネヴィアの予定よりも速い帰還に驚いていた。


「それについての報告に参りました」


 グネヴィアは実戦訓練の途中で起こった出来事を省くことなく団長に話し、黒い鉱石についても話した。


「そんな事が……やっぱり……」


「やっぱり?まさか……このことについて元から知っていたのか?」


「あ、ああ。ある程度は……」


 団長はそう言うと、グネヴィアは座っている団長に近づき胸ぐらを掴んだ。


「なぜそれを早めに言わなかった!」


「まさか低ランクの魔物しかいない森に現れるとは思わなかったんだよ!」


 団長はそう言うとグネヴィアは胸ぐらから手を退け、団長から離れた。


「これは知り合いから貰った黒い鉱石だ。後はそっちでこれを分析してくれ」


 グネヴィアは白から貰った黒い鉱石をポケットから出し、団長の机に置いた。団長は机に置かれた黒い鉱石を手に取るとグネヴィアに質問をした。


「これがお前の言ってた奴か?」


「それ以外に何がある?」


「ふむ。分かった。これを研究所に後で持っていく」


「それでいい。私はもう休む」


 グネヴィアはそう言うと部屋を出て、自分の部屋に戻った。


ー-------------------


 翔太達がしばらく自分の部屋で休んでいると、ドアがノックされた。


 翔太が扉を開けると、給仕の人がいた。


「お休みの所申し訳ありませんが夕食の準備が整いましたので」


 給仕の人が翔太に言うと、向かいの蓮司のドアをノックした。


 すると蓮司が部屋から出て、翔太の方へ寄った。


「飯だってよ。行こうぜ」


 二人は話しながら食堂へ向かった。する先に、梨花と雪が椅子に座って蓮司と翔太を待っていた。


「やっほー。流石に疲れて部屋に入った瞬間寝ちゃってさ。本当に疲れちゃったよ」


 雪は眠いのか目を擦りながら話をしていた。


「そんでさ……やっぱり死にかけたね」


 翔太がそう言うとあの時皆思い出したのか、暗い表情をした。


「もしさ。あの時グネヴィアさんと白さんが居なかったら私達……」


 梨花は雪を最後まで言わせないように、雪の口を塞いだ。


「あの時は私達が弱かった。だったらもっと強くなろう。翔太が戦うって決めた時ね……私誓ったんだよ。誰よりも強くなって皆を死なせないって。だからさ……もっと強くなろうよ」


 梨花がそう言うと、蓮司は目の前に出されている料理に手を出した。


「だったら食おう。いっぱい食って、たくさん訓練して強くなろう。皆生きて日本に帰る為に」


 蓮司はそう言いつつ、食事を自分の皿に移していく。


 翔太は蓮司の言葉に答えるかのように、自分の皿に食事を移す。


 その日、翔太達は誰一人欠ける事なく日本に帰ると改めて誓った日となった。


――――――――――ー--


 実戦訓練から帰って来た熊鉄は、ベットに横たわりある事を考えていた。


(やっぱちゃんとやった方が良いか?でもなー)


 熊鉄は今までの自分の態度を直して、翔太達と協力しようかと考えていた。だが、熊鉄は弱い奴と協力するつもりはない。


 今まで熊鉄がバルナや他の訓練生の話を聞いていたのは、相手が熊鉄より強く喧嘩を実際にして、熊鉄が負けたからだ。


(どうする?自分のプライドを捨てて協力するか?)


 熊鉄は自分のプライドを捨て、翔太達や訓練生を共に戦いをする事にまだ抵抗があった。最初は熊鉄は命のやり取りを自分から進んでやる程の気持ちは持っていなかった。


 だが、しばらくこの世界で生きていく為にある程度の知識や戦い方を学んでおきたいと思っていた。


 しかし、今回の実戦訓練にて熊鉄はいい加減な訓練を止め、しっかりと訓練したいと考えが変わった。


(明日だ……明日今までの事を謝ろう……流石によく分からん所で一生暮らすより協力して早く日本に帰った方が良い……)


 熊鉄はそう考えると思い瞼を閉じ、夕飯も取らずに眠りについた。


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