5-27 異常事態3
グネヴィアがディエルと戦っている頃、白は戦闘が起こっている場所に向かっている途中だったが、最初は何も違和感がなく普通の魔物と思っていた。
だが途中で白の全身に鳥肌が立ち、白は急いで戦闘が起こっている所へ向かった。
所々、木々が薙ぎ倒され中心には黒い鱗で覆われやディエルに押さえつけられる女性が居るのを白は確認する。収納魔法から剣を取り出し、ディエルを攻撃しようと向かう。
ディエルは目の前の女性に夢中になっていたおかげで、白の振った剣がディエルの頭に当たったが、硬いのか白の振った剣は砕け散った。
「ッ!しまった!」
白の剣が砕け散った事により、白の存在を知ったディエルは鋭利になった尻尾で白を攻撃した。
だが、白は魔防壁を張り、ディエルの尻尾を上に反らし、魔力操作をうまく使いディエルから女性を離した。
白は救助した女性を見ると、その女性に身に覚えがあった。
「大丈夫……かって……グネヴィアじゃないか!」
昔、何度か一緒に依頼をこなしたグネヴィアだった。
「ゴホッ……グゥ……お前は……白……なのか?」
「なんでここに……いや、そもそもアレは何だ?」
白は救助した女性が昔の仕事仲間と知った白は、姿形が明らかに変わっているディエルについて質問した。
「分から……ゴホ……ない。戦っていたらいつの間にか変わっていたんだ」
グネヴィアの答えに違和感を感じた白は、とあることを聞いた。
「もしかしてアレは何か齧っていたか?」
白の質問にグネヴィアは何かに気が付いたような顔をした。
「確かに何か齧っていたが……それだけでもそんなに変わる物なのか?」
「やっぱり……」
「どういうことだ?」
「こいつを殺したら説明する。ある程度時間を稼ぐから休憩しろ。その後手伝え。流石に俺一人でもキツイぞ」
白は収納魔法から新たに剣を出すと、剣に付与魔法をしディエルとにらみ合う。すると、先に仕掛けたのはディエルだった。
剣を構える白に対して、口から圧縮された魔力の玉を白に向かって放つ。
白は後ろに居るグネヴィアに被害が出ないように、ディエルの放った圧縮された魔力の玉を切った。
だが、ディエルはそんなの気にすることなく白に突進していったが、白は剣を地面に刺し、素手で迎え撃った。流石のグネヴィアも、専念していた回復を中断し白に警告したが、白は無視をした。
そうしている間に、ディエルは白の手前まで迫ってきたが白は不思議な武術で、自分の体格の何倍もあるディエルを軽々と投げ飛ばした。
ディエル自身も自分より小さい生き物に投げられるの初めてなのか、地面に落ちた後の動けないでいた。
白はその隙を見逃さずに、剣を手に取り攻撃しようとした。
[我流剣術・地斬]
白は地面に剣を擦りながら、残りの左腕を切断しようと試みたが予想以上の硬さに切断することが出来なかった。
「無理だ!私の貫手でも貫くことが出来なかった!」
グネヴィアはそう叫ぶと白は一度考えるために距離を取ろうとしたが、白は剣に血が付いていることに気が付いた。
「グネヴィア。動けそうか?」
白は回復しているグネヴィアに状態の確認をした。
「ああ。まぁまぁ回復した。援護するぞ」
グネヴィアは薬が入った瓶を地面に捨てると、白の隣に立った。
「あの時を思い出すな!グネヴィア!鈍ってないよな?」
「もちろん。教官になっても練習は欠かさなかったつもりよ」
白はグネヴィアに触れると、魔力をグネヴィアに流し始めた。
「それじゃあ行くぞ」
白はそう言うと大きく踏み込みディエルに向かって行くが、グネヴィアは後ろから魔法を何発か撃った。
ディエルは既にグネヴィアの魔法の威力をある程度理解した為防御などせず、白を迎え撃とうとした。
だが、思いの外グネヴィアの魔法は早く、ディエルの左腕に直撃した。
すると、いつもと違い、グネヴィアの魔法は強力なのか痛がる様子を見せ、更に左腕の甲殻にある程度ヒビが入っていた。
白はその隙を利用し、再び左腕を切断しようとしたが尻尾が白の剣技を捌いていき、その間にディエルはヒビの入った甲殻を回復した。
「失敗した!グネヴィア!もう一度……って……はぁ!?」
ディエルの左腕の切断に失敗した白は、もう一度同じ魔法をグネヴィアに頼もうとした。だが、グネヴィアは白の横を通り過ぎ、魔力を纏った貫手で左腕に放つ。
もう既にほとんど回復した左腕だが僅かに回復しきれていない部分を狙った。
防御をしようしたディエルだが間に合わず、グネヴィアの貫手をくらい左腕の甲殻が砕けてしまった。
白はすぐさまグネヴィアの後に続いた為、ディエルに反撃の隙を与えずディエルの左腕を切断することに成功した。
「そのまま畳みかけるぞ!」
白はそう言うと剣に再び付与魔法を付与し、グネヴィアは自分に身体強化を施し、ディエルを確実に殺すために甲殻を壊そうと攻撃する。
ディエルは両手が無くなり、尻尾で防御するが二人の猛攻により防御しきれずに胸の甲殻が次々と砕けて行った。
グネヴィアはさらけ出されたディエルの胸を貫こうとしたが、その瞬間ディエルは地面に向かって魔力の玉を放った。
グネヴィアの貫手はその衝撃で左にずれ、心臓を貫けなかった。だが、グネヴィアは再び貫手を心臓に向かって放とうとした。
「グネヴィア!避けろ!クソ!」
白は攻撃をしようとするグネヴィアにそう叫んだが、グネヴィアに白の声は聞こえていなかった。白は急いで攻撃を続けているグネヴィアに近づき、無理やりディエルから引き剥がした。
すると、グネヴィアのいた位置に切断した筈の腕が降って来た。
「白!何をする!」
状況がまだ分かっていないグネヴィアに対して、白は目の前で起こっていた事を理解できていなかった。
なぜなら、ディエルが一瞬黒く光ったと思えば切断した両腕が一瞬で再生したのだ。
魔物の中には切断された部位を再生する魔物も居るが、ディエルはそんな能力は持っていない。
だが、ディエルの身に起こった数々の変化の理由はすぐに分かった。なぜなら、ディエルの胸には先程まで無かった黒い鉱石が埋め込まれていたからだ。
「やっぱり……か」
白はディエルの数々の変化の理由が分かったのかそう呟いた。
「白?何か分かった?」
「多分、今アイツの胸にある黒い鉱石で強化されている。仕方ない……ちょいと本気を出すか」
「マジか!?」
白はそう言うと、グネヴィアは驚いた声を出し、急いで白から離れた。
[独自身体強化・羅刹]
白は全身に魔力を流すと、グネヴィアと同じく全身から魔力が溢れ、額に角が形成された。
それを見たディエルは、先にグネヴィアの身体強化を見たのか警戒したのか、姿勢を低く構えた。
「っふ!」
白は小さく息を吐くと、瞬きの間にディエルの懐に潜り込んだ。だが、ディエルは黒い鉱石で体が強化されたのか、ディエルは白の攻撃を防御をすることが出来た。
だが、白はディエルの行動を予想していたのか手に持っていたナイフをディエルの後ろの木に刺した。
ディエルはそのナイフを無視し、再生した右手の剣で白を切ろうとしたが、白はディエルの後ろの木に刺してあるナイフにワープした。
ディエルは白の素早い移動に反応しきれずに後ろを取られた。
[我流剣術・八星]
白はディエルの背中に向かって八つの斬撃を放ち、僅かながら甲殻に小さい傷が入った。
すると、ディエルは口に魔力を溜めながら後ろを振り向き、そのまま白に向かって魔力の玉を放つ。
白は最初は避けようとしたが後々の依頼後処理が面倒と思い、そのまま高密度の魔力の玉を上へ蹴り飛ばした。
そのまま、白は止まることは無く魔法をディエルの顔に向かって放った。
ディエルは防御をしようとしたが、思いの外、魔法のスピードが速く防御が間に合わず顔に当たった。
白は止まらずディエルを剣で切ったが、どれもディエルの甲殻を切断出来ない。だが、白はそんな事を気にせず攻撃を止めない。
すると、ディエルの体から僅かに血が出始めた。
「まさか……あいつ!」
そう、白は適当にディエルの体を切っているのではなく、再生出来ないぐらいの小さい傷を何度も斬り、甲殻を少しずつ削っていた。
だが、ディエルは自身の傷に気が付かず、白に反撃をしていた。
すると、白はディエルに対する攻撃を一旦止め、ディエルから距離を取り剣を構えた。
[我流剣術・魔空斬]
白が剣を振ると、ディエルの体に出来た傷が大きく広がった。
ディエルは何も無かった筈の自身の体がいきなり裂け、甲殻が剥がれ落ちる理由が分からなかった。
だが、自分に傷があると感知したディエルは自身の裂けた肉体と甲殻を再生していった。
(やっぱり……自分に傷があると気付かないと再生しない。でも先に胸の鉱石を壊した方が良いな)
白はそう考えると、ナイフをディエルの胸に向かって投げ、ワープの勢いを利用し懐に潜り込んだ。
[我流剣術・波状突き]
白はディエルの胸に突きを放ったが予想以上に硬かったのか、白の突きは鉱石に受け止めれてしまった。だが、白の突きは受け止められたが少しばかりヒビが入っていた。
「グネヴィア!頼む!」
「分かっている!」
グネヴィアは白の意図を汲み取り、魔法陣から鎖を取り出しディエルに放った。
その鎖は、懐に居る白に向かって振りかざしてる腕を縛り地面に固定した。
白はそのまま、ディエルの胸にある黒い鉱石に向かって突きを何十回も放つ。すると、黒い鉱石にあるヒビは次第に広がり、最後の突きで完全に砕け散った。




