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5-26 異常事態2

 翔太達はメルナの指示通りに謎の魔物から逃げていた。


 道中でも、様々な方面から魔物と出会ったが、ほとんど戦闘をしていたのはコムとメルナであった。


「メルナさん!さっきの魔物は何ですか?」


 翔太は走りながらもグネヴィアを吹き飛ばした魔物の正体について質問した。


「あいつはAランクに指定されている強力な魔物で、普通最低ランクしかいないこの森では出現する可能性がない筈の魔物です!」


 メルナがそう言いながらも後方では、激しい戦闘が分かるほどの魔法や爆発が起こっている。


(確かに教官は強い。この調子だと教官が確定で勝つ)

 

 メルナはそう思いながら、後ろの様子を伺いながら戦いの現場から離れていった。


 しばらく走っているとホワイトスパイダーと白髪の仮面を被った男が居た。


「皆さん!止まって下さい!」


 コムは翔太達にそう言うと盾を構え、メルナも杖を構え警戒した。


「貴方は誰ですか?」


 メルナは仮面を被った男に警戒しながら質問した。


「俺は冒険家協会の依頼でここに来た。一応白蜘蛛の主人でもある。白と呼んでくれ」


 仮面を被った男がそう言うとコムとメルナは警戒を解き、今の状況を伝えた。


「分かった。既に転移魔法は発動してあるから白蜘蛛の案内に従ってくれ。俺は魔物の方へ行く」


 白がそう言うと白蜘蛛は糸を出しコムに渡した。


ー-------------------


 メルナ達が白と合流した頃、グネヴィアはディエルと戦っていた。


 ディエルが攻撃しようと距離を詰めたとしても、グネヴィアは魔法で中距離から攻撃し、ディエルが魔法を使ったとしてもグネヴィアは、魔法を纏わせた拳でディエルの鱗を砕いく。


(こいつと遭遇した時はどうなるかと思ったが……やはりこいつは動きが単調で助かる)


 グネヴィアは教官になる前はAランクの冒険家であり、剣士の教官であるバルナとチームを組んでいた。その中でグネヴィアは何体もののディエルを屠って来た。


 しばらく戦っていると負けると判断したのか、ディエルはグネヴィアから逃げた。


「に、逃げた!?待て!」


 流石のグネヴィアも逃げると判断は予想もしていなかった。


 グネヴィアが今まで出会ったディエルは逃げるといった行動をとった事が一度もなかった。


 逃げたディエルをグネヴィアが追うと、メルナ達が発見した血まみれの現場に着いたが、ディエルは何かをかじっていた。


「なぜこんな森にお前が居るのか知らないが……ここで死んでもらおう」


 グネヴィアは拳に魔力を込め始めると、拳から雷が発生した。


 その間にも、ディエルはずっと何かをかじっている。


 グネヴィアは疑問にも思いながらも、ディエルの心臓に向かって貫手を放った。


 ディエルの鱗はとても固く、どんなに鍛えられた剣や槍でも貫くことが出来ないがグネヴィアの貫手は違う。


 グネヴィアは元々魔導士であった。だが、冒険家時代にある人の武術に魅入られそこでグネヴィアは血反吐を吐くような努力をして武術を会得した。


 しかし、どう足掻いても武術は剣術に勝つことが出来ないと知ったグネヴィアは、剣術に対抗出来る方法を考えた。

 

 その中で、グネヴィアは新しく魔闘士と言う職業を世間に広めることが出来た。


 グネヴィアの貫手でディエルの鱗を貫き、心臓を刺し終わりとグネヴィアは考えていた。だが、グネヴィアの貫手はディエルの鱗を貫くことが出来なかった。


 だが、グネヴィアは慌てる事なく冷静に距離を取った。


 するとグネヴィアはとある事に気が付いた。


(あれ?なんか……黒い?)


 今まで琥珀色だったディエルの鱗はいつの間にか黒に変色していた。


 ディエルの鱗は普段、琥珀色だが稀に赤色の鱗の個体もいる。だが、赤色の鱗のディエルの発見例は少なく、ましてや黒の鱗は発見されたことがない。


 するとディエルは苦しみだしたのか地面に蹲り始めた。


 グネヴィアは好機と判断し、再び貫手を放ったが蹲っているディエルは立ち上がり咆哮をした。


 グネヴィアはあまりの音圧に耐えきれずに吹き飛ばされてしまったが、魔法で空中に止まった。


 グネヴィアはディエルに何が起こったのか観察をした。


 ディエルは次第に体が一回り大きくなり、鱗は完全に黒くなりそれに加え、更に刺々しくなっていった。


 グネヴィアは目の前で起こった変化に頭がついていけてなかった。


 だが、ディエルはグネヴィを見つめると大きく踏み込み、グネヴィアに突進してきたが、反射的に身を捻りディエルの突進を避けた。


 グネヴィアはディエルの隙を見逃さず、鱗を砕こうとした。


 だが、ディエルの鱗にヒビが入っただけで完全に砕けてはいない。


(嘘だろ!?固くなっている?)


 戦闘したばかりのディエルと黒く変色した今と比べて、明らかに硬度が高くなっている。


 ディエルは鱗を砕くことが出来ずに驚いているグネヴィアを尻尾で掴み、地面に何度も叩きつけた。


 だがグネヴィアは転移魔法を使い、ディエルの尻尾から抜け出すことに成功したが、先程のディエルの攻撃で僅かに傷が出来ていた。


 グネヴィアは変化したディエルに怯まずに、魔法を使いながらディエルとの距離を詰めた。


 グネヴィアの放った魔法にディエルは防御する素振りすら見せずにそのままくらい、グネヴィアは魔力を纏った拳でディエルの顔面を殴った。


「まだだ!!」


 グネヴィアは連続してディエルの顔面を殴り続けたが、ディエルに傷が付くどころか痛がる様子すら見せない。


 するとディエルはグネヴィアの猛攻の最中に口を開いた。


 グネヴィアはそれを勝機だと思い、口に目掛けて魔法を放とうとした。だが、グネヴィアは魔法を撃つのを止めてしまった。


 なぜなら、ディエルの口の奥、つまり喉からありえないほどの魔力量を感知したからだ。


 それを感知したグネヴィアは命の危機を感知し、すぐさま距離を取り魔防壁(ボルグ)を三重にして発動させた。


 その瞬間、ディエルの口から高密度の魔力の玉が放たれた。


 グネヴィアは三重に発動させた魔防壁でやり過ごそうとしたが、グネヴィアは念のために右に寄った。すると、グネヴィアの魔防壁をいとも簡単に貫通させた。


 それを目撃したグネヴィアは再度ディエルの変化は異常だと感じた。


 だが、ここで奴に背を向けて逃げては更に周りに被害が広がってしまう。


「お前に何があったのかが分からないが今この場で、お前を殺さないといけないようだな!」


 そうすると、グネヴィアは身体強化を施し再びディエルに挑んだ。


 距離を詰めるグネヴィアに対して、ディエルは右手の肥大化した剣で迎え撃った。


「はあ!」


 グネヴィアはそのまま勢いを殺すことなく、まずは右手を破壊しようと試みた。


 グネヴィアにとって剣士の剣を折ることはとても簡単なことであった。実際、盗賊との戦いでグネヴィアは何度も盗賊の剣を折ったことがある。


 ディエルの振りかぶった剣をグネヴィアは拳で側面を殴った。すると、案外簡単に折ることが出来た。


 たがそこでグネヴィアは自分の失態に気が付いてしまった。


 ディエルと言う魔物にとって右手の剣は自分の強さや誇りを表すために大事な部位だ。もしそれが何かに折られたとなるとディエルは怒り狂い、折った相手を殺すためだけに暴れまわってしまう。


 それは目の前にいるディエルも例外では無い。


 自分の自慢の右手を折られた事に気づいたディエルは、怒りの咆哮を上げるとあり得ないほどの速度でグネヴィアとの距離を詰めた。グネヴィアは、咄嗟に魔防壁(ボルグ)を発動させたが、ディエルの繰り出す拳によって簡単に砕けてしまった。


「カ……ハ……」


 そのまま、グネヴィアの腹に拳を叩きつけ、今度は右手の剣をグネヴィアを切断しようとした。


 だが、グネヴィアは魔法を一瞬で唱え空中へ飛んだ。

 

 しかし、その行動を予測していたのかディエルは高く跳びグネヴィアをはたき落とした。


 だが、ディエルの猛攻は止まらず、グネヴィアを踏み潰さんと落下の勢いを殺す事なく落下してきた。


 グネヴィアは咄嗟にポイントワープを仕込んであるナイフを投げ、ディエルの攻撃を避けた。


(あいつからこれを教わって正解だったな)


 グネヴィアは、ポイントワープを仕込んだナイフを懐にしまうと大きく息を吐く。


(私はあいつの様に魔力量はバケモノでは無い……恐らく死ぬ可能性がある……)


「だが!そんな事知った事か!」


 グネヴィアはそう叫ぶと、全身に魔力を流す。


「耐えろよ!私の体![独自身体強化・()()]」


 するとグネヴィアの体から魔力が溢れ始め、溢れた魔力はグネヴィアの額に角を形成し始めた。

 

 ディエルは目の前に居る人間から有り得ない程放出している魔力に驚いたのか、後退りをした。


 グネヴィアは力のままに地面を踏み込み、ディエルとの距離を詰めたが余りの速さにグネヴィアにそのままディエルの横を通過した。


「クソ!だがまだまだぁ!」


 グネヴィアはすぐに立ち上がると、今度は少し力を抜いて踏み込んだ。すると上手い事ディエルの目の前まで詰めることが出来た。


 グネヴィアはそのまま勢いよく拳を振りかざした。


 だが、ディエルはまだグネヴィアの変化に気付かず防御しなかった。すると、上手い事グネヴィアの拳はディエルの胸に当たった。


 さっきまではディエルに傷が付かなかったが、今度は鱗が砕ける音と共に肉が抉れる音が聞こえた。


 グネヴィアはチャンスと思い次の攻撃を仕掛けた。だが、その瞬間体が重くなり、全身に力が入らなくなってしまった。


 理由はただ一つ、魔力欠乏だ。


(クソ……やはり私では無理だったか……)


 グネヴィアは気合で拳を振ろうとしたが、ディエルに掴まれそのまま地面に叩きつかれた。そのままディエルは押さえつけ、口を開けた。


 あの魔力の玉をグネヴィアに放つつもりだ。


「ク……ソ……」


 グネヴィアはディエルから抜け出そうとしたが、強く押さえてけられて何も出来ない。

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