5-25 異常事態1
太陽が昇り周りが明るくなるとメルナやコムより早く熊鉄が起きた。
普段熊鉄は、見た目やガラに似合わずに筋トレを毎日欠かさずにやっていた。異世界に召喚された後でも熊鉄は、筋トレを欠かさずにやっていた。
だが実戦訓練が始まってからは、満足に筋トレが出来ずにいたが、今日は熊鉄は朝早くに起き、筋トレをしようと考えていた。
テントから出た熊鉄は、外で警戒をしている翔太と梨花を横目にテントを設営している所から離れ筋トレをしようとした。
「おいおい……なんだよこれ」
熊鉄は目の前の光景に絶句していた。
それは、至ることろに血が飛び散った後や血だまりが出来ており、魔物の死体が何体かあった。
「と……とりあえずここから離れた方が良いな」
熊鉄は、そう言うと朝の筋トレはせずにテントの設営地に帰ろうと決断した。
熊鉄がテントに帰るとコム以外起きていた。
「クマテツさん。どこに行ってたんですか?」
メルナは、どこかへ行っていた熊鉄を心配していたのか、熊鉄にどこへ行っていたのか質問をした。
「あ?あー便所だ便所」
熊鉄はついさっき見た光景を言おうと迷ったが、説明をするのが面倒だと思いトイレに行ったと嘘をついた。
「そうですか……勝手に行かれると心配なので誰かに言ってからにしてください」
「あ?なんでわざわざ……」
熊鉄はメルナの言葉に反論しようとしたが、なぜか反論する気になれなかった。恐らく先程見た凄惨な現場が原因だろう。
「わ、分かった……」
「はい!お願いしますね!」
メルナは朝食を食べながらそう言った。
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朝食を食べ終わった七人はテントを片付け、目的地に向かい始めた。
しばらくすると、異変が起こり始めた。それは朝、熊鉄が見た光景に似た場所についた。
先日見た光景は鳥だったが、今回は今まで翔太達も見たことのある魔物であり、サイズも大きいのが多い為匂いも激しかった。
「これは……う……」
蓮司はそれを見ると吐き気を催したのか口を抑え、雪は目の前の光景に絶句していた。
「おいおい……ここもかよ……」
「え?クマテツさん、これを知っているんですか?」
メルナは熊鉄の言葉を聞き逃さずに、この光景について質問した。
「いや、昨日にこれと似た光景を見た事があるんだよ」
熊鉄がそれを言うとメルナは考え始めた。
(明らかにこれはおかしい……鳥の件についてはたまたまで済むが……これは違う)
メルナは空に居るであろうグネヴィアを呼んだ。
「教官。明らかにこれは異常事態です」
「そうだな。私もそう考えているがここまで来たんだ。私も魔法などを使って広い範囲を見る。お前達は実戦訓練の事だけに集中しろ」
グネヴィアはそう言うと、魔法で再び空に浮かび探知魔法を発動させた。
「皆さん。ここは早くに抜けるんで走りますよ!」
コムは、後ろで話し合っている翔太達に言うと駆け足で前に進み、翔太達もその後に続いた。
「あれ?これは……」
最後尾に居たメルナは、途中で真っ黒の鉱石らしき物を見つけた。
どこにでもあるただの石に見えるが、何故かメルナは目を惹かれ鉱石を掴もうとした。
「姉さん!早く!」
だがコムの言葉にメルナは鉱石を拾うのをやめ、コムの後に続いた。
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グネヴィアは、探知魔法を通して森の様子を見ていた。
メルナ達が居たあの現場は明らかに異常だった。
たしかに低ランクの魔物であるゴブリンの死体であったが、この森ではあんな悲惨なやり方が出来る魔物は居ない。
それに加えて、ゴブリンの死体には鋭利な刃物で切られた跡があったが、その他にも噛み千切られた死体もあった。
(明らかにこの森にそぐわない高ランクの魔物が居るが……探知魔法には低ランクの魔物だけで他は何も反応しない……)
グネヴィアは、更に探知魔法の範囲を広げることでメルナ達を見守ることにした。
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目的地に近づくにつれ魔物と遭遇する確率が増えていったが、なんとか翔太達はそれらに対応できていた。
だが、それ以前にコムは少し怖くなっている。理由は単純に魔物の数が多いからだ。
コムが初めて参加した実戦訓練では全く同じ、スタート時点で、全く同じ目的地であった。
だが、その頃に比べ、魔物との遭遇率が明らかに高い。
すると、森の奥から再び大量の鳥が飛び立つ音が聞こえた。
(さすがにこれはおかしい)
コムはそう思うと、グネヴィアを呼ぼうとした。
だが、そこへワイルドボアの群れが飛び出し、コムは構えたがそのまま素通りした。
(今のワイルドボア……何かから逃げてた?)
するとそこへ、グネヴィアが降りてきた。
「お前たち!実戦訓練は中止だ!いますぐ逃げるぞ!」
グネヴィアはそう言い放つと転移魔法を唱え始めた。
だが状況を理解できていない翔太は、グネヴィアに質問した。
「どういうことですか?それにここまで来たんですよ!」
「私の探知魔法で、ありえないほどの大きい魔物を探知した。この森ではいない筈の魔物という事だけは分かってる。その他にも、私の探知魔法でいろんなところで悲惨な現場を発見できた。これは私、独断の判断で中止と決定した!」
グネヴィアはそう言っている間にも、転移魔法を唱えていく。
だが、地面に広がった転移魔法の魔法陣は突如砕けてしまった。
「な、なんだ!?」
グネヴィアは唐突に起こった出来事に困惑したが、さすが教官と言うべきかすぐさま冷静を取り戻し、状況の判断の為に周りを見た。
だが、周りに何の魔法道具もなく魔導士も居ない。
(どういうことだ?なぜ魔法陣が……)
グネヴィアは考えていると、どこからか森に大きな鳴き声が響き始めた。
「この鳴き声は……教官……これは……」
メルナは響いた鳴き声に教官に話をした。
「そうだ……でもありえない。なんでこんな所に……」
そうしているうちに、足音が聞こえ始めた。
「まずい……荷物を捨てて逃げるぞ!早く!」
グネヴィアは、七人にそう指示すると足音が聞こえた方向に魔法を放った。
「私が囮になる!その隙に逃げろ!」
グネヴィアはそう言うと森の奥に消えた。
「皆さんも急いで逃げますよ!」
メルナ達は逃げる準備をすると、何かがメルナ達の方へ飛んできた。
「な、なにが……ッ!きょ、教官!?」
メルナ達の方へ飛んできた正体は、囮になる為に森の奥へ消えたグネヴィアだった。
「ありえない……なんでこんな所に……」
グネヴィアが森の奥を見ていると、森の奥から五メートルもある魔物が現れた。
「そんな……何でディエルが……」
森の奥からから現れた魔物は、ゴリラのような体系だが体表には琥珀色の鱗が生えており、右腕は巨大な剣となっていた。
「グネヴィアさん!こいつは一体!?」
「こいつはAランクに指定されている魔物だが……クソ……なんでこんなところに……」
蓮司は他にも聞こうとしたが、グネヴィアの驚いている顔と魔物の見た目に聞く気が起きなかった。
「私でも流石にキツイな……お前達!早く逃げろ!ある程度時間を稼ぐ!」
グネヴィアはそう言うと、メルナの指示に翔太達は従い、すぐさまその場から離れた。




