5-23 実戦訓練4
ホワイトスパイダーが森の中に消えたのを確認したメルナ達は、素材集めを再開した。
日が傾き、空が赤く染まった頃メルナは素材の確認をした。
メルナの持っていた籠は、集めた薬草や木の実により満杯になった。
それに対し、雪の籠は半分ほど埋まっていた。だが、メルナは感心していた。
何に感心しているのかと言うと、最初はほとんどの人は籠の底が少し埋まるぐらいだが雪は半分も埋まっていることだ。
だが蓮司の籠には少ししか入っていなかった。
「まぁ蓮司君は……警戒してたから仕方ないよね!」
雪の励ましの言葉に蓮司に見えない棘が刺さった。
実際、蓮司は真面目に探していたがどうしても区別が付かなく見逃してしまう。
「ユキ……それは……」
雪の何気ない棘のある言葉にメルナは注意しようとしたが、躊躇した。
何故なら、雪の目は純粋な目をしていたからだ。
(あっ。これ自覚無いやつだ……)
しばらく考えていたが、結局注意するのを止めた。
「ま、まぁ必要な素材も集まったし、それに夜になりますしテントに戻りましょう」
メルナの提案に、二人は頷きテントに戻った。
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テントに戻ったメルナ達はコムを見て驚いた。
素材集めに向かう前までは、まだワイルドボアの見た目はそのままだったが、今はコムはそれぞれの部位に切り分けている途中だ。
「コム。三人はどうしたの?」
メルナはテントに居るはずの翔太、梨花、熊鉄の姿が無かったからだ。
「三人ならテント周りの警戒をしてくれてるよ」
コムはそう言うと、メルナは薬草や木の実が一杯に入っている籠をコムに渡した。
「わぁ!凄いなこれ……あっ!そうだ姉さん!これを見てよ!」
メルナはコムに言われた通り、切り分けられているワイルドボアの肉を見た。
「すごい……こんなにも脂が……」
「違う!これだよ!」
コムが指し示すところを見ると一部が金色になった肉があった。
「うそ……これは……」
「そう!金豚だよ!」
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金豚
それは、ワイルドボアが繁殖期にメスを引き付けるためにとある果物をを食べ続けることにより発生する特殊な肉だ。
最近は生物の研究が進んだことにより、ワイルドボアが繁殖期に食べる果物はリンゴであることが明らかになっている。見た目や味により人々は愛称を込めて金豚と呼んでいる。
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味は加工の技術に左右されるが全体的には生臭さが無く、とても柔らかく、味が濃い。
「やった!当たりだ!」
金豚であることを知ったメルナは嬉しさのあまりに声が上がった。
そうしてる間にコムは、メルナ達が集めた木の実や薬草を用意し調理を始めた。
するとすぐに肉を焼いた匂いと木の実の匂いがし始めた。
コムは蓮司にテントの警戒をしている三人を呼ぶように頼み、蓮司は三人を呼びに行った。
コムはその間に調理した料理を皿に移し、地面に敷いてある布の上に乗せた。
その間に蓮司は翔太と梨花と一緒に帰ってきたが、熊鉄が居ない。
「あれ?レンジさん。クマテツは?」
「それが探したんですけど居なかったんですよ」
「それならば私の魔法で探しますよ。リカ、ユキもこの魔法を教えますのでこっちにー」
メルナの言葉に二人は嫌な顔をした。
何故ならメルナは魔法が好きなあまりに、魔法について熱弁してしまう。過去最長の熱弁は約一時間だ。
だがそう思う二人の意志に反しメルナはとある魔法について話した。
「これから二人には探知魔法を教えたいですが……まずはクマテツさんの捜索が優先事項ですね」
メルナはそう言うと魔法を唱えながら杖で地面を叩いた。
「……あっ……見つけた」
メルナは立ち上がり、熊鉄がいるであろう場所に向かった。
雪と梨花もメルナの後について行った。
すると、そこには寝ている熊鉄とそれを見下ろすメルナがいた。
「はぁ……クマテツさん。起きてください」
メルナは激しく熊鉄の体を揺さぶったが、熊鉄は起きる気配がない。
すると、メルナは杖を熊鉄に向け、静電気のような物を熊鉄に流した。
静電気の様な物を流された熊鉄は、あまりの痛さに飛び起きた。
「クマテツさん。夕飯の準備が出来ましたよ」
メルナはそう言うと、熊鉄はメルナを睨み胸ぐらを掴んだ。
「テメェ……何しやがる……痛ぇじゃねえか」
「仕方ないじゃ無いですか。中々起きませんし」
怒りの表情で熊鉄はメルナを睨んでいるが、反対にメルナは終始穏やかな表情を崩さない。
「……ッチ」
メルナの胸ぐらを離すと、熊鉄はテントに戻った。
「それじゃあ私達も行きましょう」
メルナはそう言いテントに戻ったが、雪と梨花は改めてメルナを関心した。
「やっぱりメルナさん凄い」
雪は未だに熊鉄に対して怖い感情を持っているが、メルナは怯まずに熊鉄に立ち向かった。
それだけでメルナはどれぐらい凄いか、雪と梨花は知った。
テントに戻ると既に、コムと翔太、蓮司、熊鉄は食事を始めていた。
「雪!梨花!これおいしいよ!」
翔太はそう言うと、雪と梨花に料理を渡した。
そして、それを食べると、翔太の言う通り料理を食べると口の中に濃厚な味が広がった。
しばらくは楽しく談笑していたが、日が完全に沈み夜になってしまった。
「それじゃあ皆さん。あの時に話した通りの組み合わせで警戒をするんですが、ここで気を付けてほしい事があります」
コムはそう言うと、メルナは収納魔法から枝を出した。
「冒険者もそうですが、夜に野宿をする場合は焚き火を常に燃やしてください。そうすれば、明るさに弱い魔物や魔物の早期発見になりますので」
コムはそう言うと、メルナは雪と梨花を集め探知魔法について二人に教えた。最初は、探知魔法の概要について教え、次に探知魔法の呪文とやり方を教えた。
コムと翔太と蓮司は、お互い楽しく会話していたが、熊鉄は先に寝てしまった。
しばらくすると、本格的な夜になり、肌寒くなった。
「それじゃあ、最初は私が一人の警戒をするので皆さんは寝ていいですよ。2時間後に起こしますので。おやすみなさい」
メルナはそう言うと焚き火の近くに座り、杖を取り出した。
それぞれは、自分の順番に備えて各自自由に眠りに入った。
メルナは、一人で警戒している時考え事をしていた。それは熊鉄に関することだった。
(あの人はどうすればみんなに馴染めるのでしょうか......)
熊鉄は訓練に対しては、たまに訓練に参加する。
だが、基本的に訓練に顔を出しては訓練兵に喧嘩を売るといった問題行動が頻繁に起きていた。
幸い、訓練兵は手加減したおかげで、熊鉄や訓練兵は大きな傷はない。
(いっその事催眠術でも......ダメダメ!自分自身で変わってもらわないと!)
メルナは暗い思考を振り払うと、焚き火に薪を追加した。すると、森の中から大量の鳥が飛び立つ音が聞こえる。
メルナは探知魔法を唱え、枝で地面を叩いた。
(まだ見つからない......遠いから大丈夫か)
探知魔法とは、何かを媒介にし、生物や物を見つける魔法だ。
やり方は人それぞれだが、普通の魔導士の探知範囲は半径100メートルで、媒介は何でもいい。
それに対して、メルナの場合は、探知範囲は半径300メートルで、媒介は音を振動を使う。
メルナは、先程の鳥の行動に疑問を抱き、警戒をより一層強めた。
そうしている間にもう二時間が経ち、次の警戒に当たるコムと梨花を起こしに行った。
最初に、いつも起こし慣れているコムに向かった。
「コム。起きなさい。あなたの番よ」
体を揺さぶると、最初はグズっていたがメルナはそのうち目覚めると判断し、梨花が寝ているであろうテントに向かった。




