3話
あれから何週間かが過ぎて、今度はイゼリアで再会した。場所は初めて会った動物園。今日は少し大人しめのメイクで、控えめのワンピース。前回はネットにあげる写真を撮るのが目的だったけど、単純に暇だったのでリベンジに来ている。
「よく来るの? ここ」
隣に並んで立って、声をかける。
彼女の肩にかかる髪がふわりと揺れた。
振り向いてから、とくに驚く様子もなく答える。
「ええ、まあ。また来たんですね」
「うん。今度こそ楽しむために来たんだ。君、前回もこの猿山のとこにいたよね?」
他にももちろん動物はいるけど。タイミングの問題?
「お気に入りなので」
「休日なのになんで制服なの?」
「いつ部活の収集があるか分かりませんから」
あれ、でもこの子部長だったよね?
そういうことを発信する側じゃないのかな。収集って、ここに集まるわけではないよね。
「ふーん……まあいいいや。もったいないことしてるね、君」
「はあ。とても有意義な時間を過ごしていますが?」
確かに1人が好きな人もいるけど、中学生でそれってちょっと心配。友達いないのかな。
「たとえば、新しい服を見に行ったり、化粧品を買ったりさ。君くらいの頃からボクは、お金はそりゃあお小遣いしか無いから買える物に限りはあるけど、しょっちゅうウィンドウショッピングしてたよ」
余計なお世話でしょうけど。もっとこう、年頃の女のコらしい遊びってあるじゃない。
「ここには暇なんじゃなくて、来たくて来てるんです。見てるの、好きですから。物欲が増えるとお金が貯まらないでしょう。洋服なんて最低限着回せれば結構。メイクは社会人になってからで十分だと思ってます。最近は少しずつお手入れはしていますが……」
ああ、あげたの使ってくれてるんだ。それが聞けて何より。
「タダじゃなきゃ絶対にやらないですね」
「興味ないの?」
「無いですね」
そこまで頑なだと、気になるなぁ。
「でも、メイクを調子よくする為の肌作りなんだから早いに越したことないよ。あ、ねえ、名前教えてよ」
「矢ノ原野々。……人に尋ねる時はまず自分からでは?」
「ボクはイゼリア。身バレは困るからそう名乗っておくよ。その感じだと、ボクのこと知らないみたいだけど。SNSいろいろとやってるからすぐに分かるよ」
「はぁ。そういえばこの間後輩が騒いでましたっけ。私は携帯を持っていないので」
「えーっ!?」
携帯を。持ってない? 中学生だから……いや、最近は物騒だし、星花に通ってるくらいの家の子なら持ってるのは普通だと思うけど。ボク、携帯無いなんて生きていけないや。
「びっくり……あ、そうだ。今度さ、遊ばない? お姉さんがウィンドウショッピングの楽しさを教えてあげよう! ご飯くらい奢るし」
言ってしまって自分でも驚いたけど、我ながら良い案だと思う。
絶対にイゼリアの身バレは困るけど、イゼリアでいる時だって友達の1人くらいいてもいいじゃない。
この子メイクしたら絶対可愛いし、ロリータの道を勧められるかも。
「やっぱり歳上なんですね。奢りなら……いいですけど。暇なんですか?」
「まさか。今日はたまたま休みだけど、もちろん学校はあるし、アルバイトだってしてるもの。今度の休みはえーっと……二週間後の日曜日かな」
学校終わった後じゃゆっくり見て回れないし、土日は稼ぎどきだから月に何日かは入れるようにしてる。遊べる日は限られてきちゃうけどしょうがない。この子の前でイゼリアのままいられるから楽しめそうだし。
「分かりました」
時間とかは後で、って、できないんだ。持ってないんだもんね。
「待ち合わせはどうする?」
「時間だけ決めていただければ」
「じゃあ10時に……ここ?」
「はい。それで大丈夫です」
「おっけー! 楽しみにしてるね。スキンケアはちゃんと続けて!」