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第四話 スライムと影とヤンデレの片鱗

「じゃあ佐藤さん、そろそろおうちに帰りましょう


「え?家あるの?」


 思わずそう呟くとユイにジト目で呆れられる。


「当たり前じゃないですか。君はわたしのことなんだと思ってるの?」


「…」


 なにも言えなかった。

 いや、だってほらなんか異世界の冒険者ってたき火とかして野宿しながら街と街を旅するみたいな?そんなイメージあるじゃん。


「えいっ!お仕置きです!佐藤さんは家までチューインガムの刑だ!」


 ユイはそういうと僕の顔を思いっきり引っ張った。僕のぷにぷにスライムボディがいかんなく発揮するときだ。僕はユイが顔を引っ張るタイミングに合わせてわざと間抜けな音を出す。


「びーろーん!」


「あははっ!佐藤さんそれすごくおもしろーい!もう一回!」


「びーろーーーーんんん!」


「あはは!すごいのびまーす!佐藤さんのばし世界記録に挑戦でーす!」


 自然と前世で友達の妹と遊んであげたときのことを思い出した。

 こうしていると普通の年相応の可愛い女の子なんだけどなあ。



 ユイが僕を引っ張って伸ばすのに飽きたころ僕はずっと知りたかったことについて満を辞して尋ねる。


「スキルって他にどんなのあるの?」


「うーん、スキルですか?スキル自体は本当に多種多様ですよー」


「例えばどんなの?」


「今日佐藤さんがゲットした【人語】のような意識しなくても発動するスキルもあれば、【ステータス表示】のような呪文を唱えることで初めて発動するスキルもあります。あとはテイマーとそのモンスター限定のスキルなんてのもあります」


「そうなんだー!テイマー限定のスキルって?」


「普通テイマーとテイムされたモンスターは一定距離以上離れることができないんですが、このスキルを取ると別行動でそれぞれ違う場所に行くことができます。夜行性のモンスターをテイムしたときなんかによく使われるスキルです。夜の間に狩りをしてきてもらったり」


 !!

 僕の知りたかった核心に近づいてきた。もしこの情報を知らずに逃亡していたらアウトだったな...


「まあ、そこそこ知能が高いモンスターじゃないと命令をしても命令した通りのことやってきてくれるとは限らないんですけど」


 ユイはそこで言い淀むとふと気付いたように率直な疑問を僕に尋ねた。


「でもどうしたんですか?突然、そんな事を聞くなんて?」


 僕がどう返答しようか迷っていると。次のように前置きして話を続けた。


「まあ、わたしと佐藤さんの間には愛があるので大丈夫ですが...」


 いつ愛ができたんだろう...


「たまーにあるらしいんですよね。一度テイムしたモンスターがテイマーから逃げ出しちゃうこと」


 だんだんとユイの顔から朗らかさや明るさといったものが消えていく。陽の光を雲が遮り彼女の顔に暗い影を落とした。


「佐藤さん、わたし君のこと信じてるから...でももし裏切ったら...







 ...グちャく゛チャに殺しチャウかも」



 彼女は底知れない空虚な表情で僕の考えを全て見通そうとしているかのように緋色の双眸を向けている。


 僕は鳥肌が立つような恐怖感に抗った。僕がテイムされているモンスターだからだろうか。彼女のその言葉が決して嘘や偽りでないことが自然と理解できてしまう。彼女は本気でそうするつもりだし、自分はそうしてしまうと思っている。


 僕を形づくる震え立つ細胞を抑えて、僕は自分の考えを悟られまいとする。必死で平静さを保つ。


 ユイはさっきまでの無表情とは打って変わって顔をくしゃっと笑顔にして指をさした。


「あそこです!あそこがわたしのおうちです!」


 指をさした先には茶色のレンガ造りの家が建っていた。


 もう先ほどの雲は太陽を遮りはしていない。しかし、まだ影の下にいるような肌寒さを残していった。

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