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勇者、戦場に立つ

目論み通り、「#1」の着陸は憲兵隊の包囲網を掻き乱す効果があった。この隙に自分だけでも装備を固めないと。


「はいごめんなさい、ごめんなさいよ……」


儀式塚から出て、丘に居並ぶオーク達の間を縫い、その巨体に半ば身を隠すようにしながら、着陸したての「#1」へと走る。


イーグル級は全長80mほどのずんぐりとした有翼艇で、地球と同等の惑星における単体でのLPO(惑星低軌道)往還能力を持つ。但しそれは整備が万全、かつ普通の降下・着陸コースを選んだ場合に限った話で、全く使っていない状態から緊急展開させたツケは相当高くついた。

耐熱・対レーザー防御用の蒸散装甲がほぼ全て溶け落ち、その下の外板までもがあちこち焼け焦げて変色し、機体全体から未だに溶鉱炉もかくやといった熱気が押し寄せてくる。

こういう部分が妙にリアルなのが「トリニティ」の売りの一つだ。

あと、この熱のお陰で憲兵隊もおいそれと近寄ってこないのはありがたい。


遠隔操作で「#1」の後部貨物扉を開き、貨物庫内から一瞬噴き出る熱風を脇に避けてからランプウェイを駆け上がり、まだ熱のこもる貨物室の中央に固定してある重装甲服ハンガーへと向かう。

重装甲服は高さ2m強、(歩兵としては)分厚い装甲とそれを敏捷に動かすための倍力機構を備えているが、基本的には装甲宇宙服のカテゴリーに入る。


背中のバックパック部を持ち上げて、何だか昆虫の脱皮を逆再生するような感じで中に潜り込み、クッション材を掻き分けつつ手足を通し、固定式のヘルメットに頭を突っ込む。装着者、つまり俺が正しい位置に収まったことを検知した重装甲服は自動的に起動、バックパックを元の位置に戻して密閉。ハンガーの固定具が外れ、貨物室の床に降り立つ。


普段と手足の長さが違うのに多少戸惑いつつ、今度は貨物室の隅に置いてある装備品コンテナを開けて、入っていたセントリーガン2基と銃2丁を取り出す。

セントリーガンは要するにセンサー反応式の自動銃座だが、「トリニティ」で実装されている物には履帯が付いていて、遠隔操作やAI操作で移動と攻撃を行えるのが特徴だ。

銃はメインが分隊支援用の重アサルトライフル、サブがコンパクトなレーザー拳銃。それぞれ重装甲服備え付けの電磁ホルスターに接着させておく。

そしてセントリーガンのキャリングハンドルを引っ掴み、両手に1基づつぶら下げて貨物庫を飛び出し、ボイスコマンドで後部扉を閉鎖。

これでとりあえず丸腰ではなくなったな、と思いつつ儀式塚の方を見上げると、何を思ったかグルフ達が丘から降りてこようとしていた。

慌ててこちらも儀式塚の方へと走り、合流する。


「一体どうしたんですか?」

「準備はいいようだね。相手が腰砕けになっている所へ勇者同士の決闘を持ちかける。そのまま決着をつけな」

「いくさぞ、果し合いぞ、うぬの武勲の立て時ぞ、勇者フェットチーネ!ぎひゃぎゃぎゃきゃひゃ」


ご丁寧にもグルフは「国無き神」を背負ってきている。なぜか父兄参観に母親とばあちゃんが一緒に来た時のことを思い出した。

ついでに、俺が決闘するという部分についての異議は呑んでおくことにした。話が面倒になるだけだし。


「背が伸びてるようですが、これが『勇者のスキル』というものですか?」

「手にしているのは武器ですか?確か火薬を使う鉄砲とか……」

「これだけの鎧でこうも軽々と動けるとは……さすが勇者だ」

「とはいえ少々武骨すぎませんか?もっとこう、神気というか、迫力というか……」


一緒についてきた儀式塚のオーク達がまた一斉に喋り出したので、


「……細かいことは後で説明します」


と無難に返しておき、艇外灯がぎらぎらと光る「#1」の脇を皆で一緒に通り抜け、浮足立つ憲兵隊の前に出る。俺が先頭、その左後ろに「国無き神」を背負ったグルフ、更にその後ろに儀式塚のオーク達が居並ぶ格好だ。

とりあえずここまで手にぶら下げてきたセントリーガンを足元に置き、展開させていると、グルフが目一杯に息を吸い込み、とびきりの大声を張り上げる。

具体的には装甲服の外部音声に一瞬ミュートが掛かるぐらいの。


「『国無き神』の神官として、勇者同士の決闘を申し込む!あたし達の勇者が勝ったら、今後一切あたし達への手出しを控えてもらおう!」

「ふざけるな、逆賊ども!従族が主族に交渉の真似事なぞ!」


グルフの申し出は拡声器の男にあっさり却下された。今までの話を聞いている限り、憲兵隊の言い分もこれまた予想通りだ。


「あたし達は別の神を戴き、勇者だって召喚してる!国として対等に交渉できるはずだ!」

「従族の農奴がひねり出す屁理屈なぞ聞く耳もない!」

「ならば、我らが神にも同じ口を利いてみるがいい!」

「そのような怪しげな端神など、神・オーランナの威光の前では……」

「その神・オーランナを倒した神だ!お前達もどうなるか分かったもんじゃないよ!」

「うぬら一人残らず骨の髄までむしゃぶり尽くしてくれるでな、けひゃぎゃひゃひゃぎゃ」


グルフの背中から「国無き神」も煽ってくる。


「む、ぐっ……」


拡声器の男がたじろぐ。もうひと押しかな、と他人事のように思っていると、


「おもしれーじゃん。ブタが勇者を喚んだってんなら、勇者で相手してやんよ」


若い男の声に、憲兵隊の列がざざーっと退いて道を作る。そこを悠々とやってきたのは原色ばりばりで装飾過多な鎧に身を固め、

これまた装飾過多な大剣を背中に背負った、長身で美形の男だった。


こいつが勇者か。敵の。

……まあ、俺の格好よりかは勇者っぽいよな。

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