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勇者、船を呼ぶ

左手首のホロリーダーを起動。艦隊一覧画面を再度流し読み。

貨物を積めて、すぐに大気圏降下できる艦は……

あった。チュートリアル時に作った後で放置していた多用途型のイーグル級が、「パンタグリュエル」の気密ドックにある。

作った時に適当に入れた機体名「#1」も変更してないまま、更に整備もしていないので稼働率が60%程度に下がっていたが、使えるのなら使う。

指先をホログラフの中で動かして操作する。艦隊一覧画面から「#1」を選択、「#1」の貨物庫に、これもチュートリアルで作って放置していた歩兵用重装甲服1ユニットと、重装甲服用の装備品コンテナ1ユニットを積載。

「積載中」のプログレスバーがじりじりと伸びていく間に「#1」の操縦モードを「自動」に切り替え、モードは「地表・着陸」。

着陸目標は「コマンダー」、つまり今俺がいるこの場所。

飛行プロファイルは一番早く到着する「緊急展開」。

「積載中」が「積載済」へ変わったところで「#1」へ「緊急発進」を指示、「緊急発進を実施しますか?」のメッセージに「確認」を選択。

エアロックで一時停止して減圧作業を済ませてから宇宙空間に出る通常発進と異なり、緊急発進では艦艇用エアロックを全開放して発進するので気密ドック内の空気が無駄になる。ただ今回は俺の命にもかかわる話なので、ケチ臭い事は言わない。

惑星拡大マップを表示、「#1」のステータスと合わせて追いかける。「#1」は気密ドックから抜ける空気に乗り、開放されたエアロックを大人しく低速推進で通り抜けた後、安全基準ぎりぎりの戦闘機動で「パンタグリュエル」を離れ、メインエンジンと慣性制御エンジンを全開、軌道減速を開始。


到着まで5分。


衛星軌道上で惑星を周回する「パンタグリュエル」の現在位置は天頂近く、つまり俺の頭の上にある。そこから伸びる「#1」の針路は減速により軌道周回速度よりも遅くなったことで、惑星を回る周回軌道から惑星地表へ急降下する放物線へと変わっている。急角度での大気圏突入で発生するプラズマと高熱はシールドの緊急出力で避け、慣性制御エンジンを全開にしてGを打ち消しつつ、惑星の引力にメインエンジンの推力を加えてパワーダイブを開始。


「勇者!何遊んでるんだい!今すぐ何とかしないと……!」

「何とかしてるから待ってろ!」


グルフに言い返しておいてから空を仰ぐ……もう少し言葉を選ぶべきだったかな。

到着まで3分。


「空を見ろ!何だあれは!」

「光ってるぞ!月も出ていないのに!」


誰からともなく声が上がる。

すっかり日が暮れた夜の空に白い光が生まれる。直後、空を引き裂き、雲を散らすほど強烈な雷鳴が二度、三度轟き、地面すら揺らす。


「うわあ!」


轟音と光に、敵味方のあちこちから悲鳴が上がる。俺も慌てて目を伏せるが、目の焼け付きと耳鳴りは抑えられない。

音速の数十倍で突入してきた「#1」はメインエンジンを惑星地表に向け……つまり機体を地面と垂直に立てて、エンジン全開で急減速。この無茶な機動により発生する猛烈なGを慣性制御エンジンで無理やり抑え込むことにより、「#1」は辛うじて空中分解せずにいる。

もう一度空を見上げるが、圧縮断熱の余波が残るシールドとメインエンジンの噴き出すプラズマが太陽を思わせる白色光を放っており、「#1」そのものの姿は見えない。

到着まで1分30秒。


無茶な減速を済ませた「#1」は姿勢を水平に変えて着陸地点、つまり今俺がいる丘に向けて急角度で降下してくる。

……いかん、今気付いたがこの丘の真上に自動着陸させちゃ駄目だ。儀式塚が潰される以前に、VTOLノズルからの噴射で丘の斜面に居並ぶオークが丸焼けになっちまう。

遠隔操作モードに切り替え、接続→#1、コマンド「着陸地点変更」→「直接視認指示」。

ホロリーダーのホログラフ表示がARモードに切り替わり、「#1」の機体の形とサイズ、そして噴射炎の危険域を模した3Dモデルが現実の映像に重なって表示される。


儀式塚の丘とと憲兵隊の包囲網の間に降ろして盾代わりにしようと思ったが、どうやっても丘にいるオーク達を危険域に入れずに着陸させられないことが分かったので、思い切って包囲網をふん潰す形で降ろすことにする。ちっとは頭があれば避けてくれるだろう。「確認」っと。あと念のため艇外灯をオン。

「#1」は艇外灯を煌々と輝かせながら、高度400mほどで機体を傾けてぐるりと大きく旋回し、変更された着陸地点に向けてアプローチを開始する。

夜を照らす新たな光と減速噴射の轟音にまたひとしきり敵味方が騒ぐが、憲兵隊の方は自分達の方に降りてくると分かったらしく騒ぎがどんどん大きくなる。


「ひっ、退けーっ!退け……」


さっきの拡声器からの声がVTOLノズルからの噴射音に掻き消える。わらわらばたばたと包囲網が後退し、ちょうど着陸に必要な空間が確保できたところで、「#1」は着陸脚を伸ばし、荒地に着陸。


[LND]


「#1」機載AIからの控えめなメッセージが、遠隔操作のメッセージログに表示された。

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