オーク、勇者を召喚する
目を開けると、俺はそいつらに取り囲まれていた。
筋肉がみっちりと付いた肥満体を粗末な衣服で覆い、頭は豚と人の特徴を兼ね備えつつ、そのどちらにも似ていない。
こちらを見つめる瞳には明らかな知性があり、差しのべられた手には人間そのものの5本の指が生えている。
なぜこんな目に遭っているのかさっぱり分からないまま突っ立っていると、その人と豚の混じった連中が口々に何やら話しかけてきた。
「良かった、術式の発動に問題は無かったのか」
「だからって、こうも地力を吸い尽くしてしまうのでは困るよ」
「私の声が聞こえますか?言葉は分かりますか?目は見えますか?」
「召喚したばかりで済みませんが、我々は危機に瀕しています。助力願います」
……言葉は理解できる癖に意味がさっぱり分からない。
あれだ。自分達は事情が分かっているから相手もそうだと思い込んでいやがるな、こいつら。
「一斉に喋るんじゃないよ、お前達。混乱してるじゃないか」
低い、迫力のある女の声。俺を取り囲んでいた連中の後ろから、一回り大きな姿が現れる。
同じように頭に豚と人の混じった肥満体だが、その端々に女性とおぼしき特徴が見て取れる。
「あたしはグルフ。一応だが、『国無き神』の神官をやっている」
ここで一礼。こちらもつられて頭を下げる。
「あたし達は『国無き神』を神として戴き、従族の地位から独立したオークだ。
今あたし達は命を狙われている。そこであたし達を守ってくれる勇者、つまりあんたを召喚した。
お願いだ。あたし達を守ってくれ」
俺の瞳を真正面から見返しつつ、迷いの無い口調で一気に語る……
「……オーク?」
変に上ずった声で聞き返す俺。
「そうだ。まさかオークを知らないなんて言うんじゃないだろうね?」
何だこれ。
いやそりゃオークは知ってますよ?一応ファンタジー物のお約束ですから。
敵役のレギュラーですよね?エロい奴では責め役ですよね?
ただその、何だ、その。
「オークが俺を召喚した?勇者として?」
「そうだ」
「俺がオークを守るの?」
「そうだ」
いかん、目の前の女オーク……グルフが少しイラつき始めている。
もう少し意味のある質問をしないと、このまま頭からカジられかねない。
「オークを、何から守るんだ?」
「まずは、この儀式塚に迫っているオーランナ領国の憲兵隊、そしてそれに同行する勇者から」
え、何このファンタジー設定。
……さっきまで「トリニティ」をやってたはずなのに、なんでこんな事になってんの?
こんな調子でゆるゆる参ります。