8話 ヒャッハ―ですわ
街の入り口は現在複数の兵士により物々しい警備が引かれていました。
なおイベリスが戻ってくるまでに持っていた棍棒は、実はクロスボウのような飛び道具だと教えてもらいました。びっくりですわ。
所で、街の入り口付近に今日私が乗って行った馬車がありますね。どうしてでしょう?
「おっ! おーい、領主んとこのお嬢様が戻って来たぞ!」
「なに、本当か!」
私たちの姿を確認すると、みんなが駆け寄ってきてくれて口々に「よかった」や「心配した」と言ってくれます。どういう事でしょう?
その人たちに聞くと、馬車の御者をしていた男性が、ゴブリンの暴走があったと聞いて、私たちを置いて勝手に逃げ帰って来たそうです。
まあ、なんという事でしょう。さすがにそれは……言い訳できませんわね。イベリスも怒っています。
が、御者の男性はすでに街の人によってボコボコにされて、いまも罵声を浴びせられています。可哀想な気もしますが、自業自得であると思っておきましょう。
「お嬢様方は早くお屋敷に戻ってください。俺たちはこれからゴブリン退治に向かいます。」
兵士の方が、私たちに声をかけてきてくれます。今回の場合、冒険者が攻勢に出て、兵士が街の防御を担当するそうです。
「大丈夫なのですか? 300匹ぐらいいると聞いていますが……」
「さ、300!? …………むぅ、難しいかもしれませんが、俺たちが食い止めないと街が襲われますので。よし、野郎ども行くぞぉー!!」
「「「おおー!!」」」
そう言って冒険者の方々、およそ30名ほどでしょうか。が一斉に声をあげます。
「少しお待ちなさい!」
冒険者の方々が強いのは知っています。ですが10倍の戦力差をひっくり返せるものなのでしょうか? 私は無理だと思い、とっさに声をあげました。
「ねえ、震電。何とかなりませんの?」
『何とかとはどういう事でしょうか?』
「それはその……ほら、さっきイベリスに渡したような武器をみんなに持たせるとか?」
ゴブリンは棍棒などは使いますが、矢などの飛び道具は使わないはずですから遠距離から戦えるなら人間の方が有利ではないでしょうか。
『彼らはその使い方を知りません。“ゴブリン”の現在位置と移動速度から計算すると、仕様説明をする時間がありません。』
残念です。時間が無いそうです。
「じゃ、じゃあさっきの適合化処置とかは?」
『お嬢様及びその従者はともかく、その他大勢に対しての処置はのちの不適合を招きかねません』
な、なんだかよく分かりませんわ。震電、わざと難しい言葉を使って私を煙に巻こうとしているじゃあないでしょうね。
「じゃ、じゃあ、もっとすんごい武器とかありませんの」
『あります』
「まあ、ではそれを」
まあまあ、ダメもとで言ってみたのですがあるそうですわ。何事も疑問を持ってみるべきですわね。
「リ、リリア様! 何を言っているのですか。リリア様は伯爵家のご令嬢、この場は兵士の方たちに任せておけばよいのです!」
「何を言っているの、イベリス。領民を守るのも貴族の務めですわ」
イベリスは反対しますが、やはり貴族たる者指をくわえて見ているわけにはまいりませんわ。それに一応とはいえここは私の父の領地です。領主の娘が逃げたとあってはカッコ悪いです。
「分かりましたでは私が行きますのでリリア様は御留守番していてください」
「えー、ずるいですわ」
「ですから――――っっ!!」
イベリスが頭を抱えてふらつきます。大丈夫かしら、もしかして私のせい? 怒りすぎて眩暈が……とか言うやつかしら。
「震電! いきなり知識をっ! 頭に――」
『お嬢様、到着しました』
イベリスがキッ! と震電の方を怒りながら睨んでいますが、そんなことは気になりませんでした。
どこから現れたのでしょう。目の前には巨大な人が……いえ、人型の何かが2人立っていました。それらは、ゆっくりと動き始め、膝をつくと手のひらを私たちの目の前に差し出してきました。
震電が呼んだのでしょうか。見た目は塗装されているようですが金属でできているようですね。ですが学園なんかで見たアイアンゴーレムなどではなくて工芸品に見られるカッコ良さがありますわ。それに大きさが段違いですわ。アイアンゴーレムは大きくても5m程度でしたが、この巨人は15mぐらいあるのではないでしょうか? それにスマートな外観で本当にカッコいいですわ。なんでしょうこれ……
周囲にいる冒険者の人たちもそれを見上げてポカーンとしていますが……
『イベリス、この機体であればお嬢様でも安全に“ゴブリン” を排除できるでしょう』
「……くっ、分かりました。震電、貴方がお嬢様の安全を確保しなさい。私が先に行きます。」
そう言うとイベリスはその巨人の腕に乗って……あら、胸の所が開いてソファーのような背もたれのあるイスが出てきました。イベリスは巨人の手からその胸の所に飛び乗ってイスに座ると胸が閉じて……
あら、瞳がピコーン! と光りましたわ。そして立ち上がって――
『ではお嬢様、我々も行きましょう。』
「行くって……この手に乗ればいいんですの?」
そう言ってイベリスがやったように、巨人の掌に乗ります。すると巨人は私を乗せたまま手を上げ胸の所に持っていきました。さらにイベリスの時と同じように胸が開きイスが現れました。これに座ればいいんでしょうか。
震電は椅子の後ろにあった窪みにすっぽりと収まってしまいました。そこが定位置なのでしょうか。
よいしょっと。と椅子に座ります。すると胸が閉じて、あら、真っ暗ですわ。ソファーに背を預けていますが周囲の状況がわかりませんね。と思っていたら明かりがつきましたわ。薄暗いです……
『ではお嬢様、手足を所定の位置に……そこです。固定します。……目を閉じて。接続を開始します。機体の制御サポートはワタシが行います。』
言われるままに手足を決まった位置に持っていくと固定されました。そして目を閉じて……
……あら、あらあら、なんだか意識がふわふわしていますわ。これは何でしょうか。目を開いてみます。
カシュッ!
「な、なんですのこれ!?」
なんという事でしょう。私がその巨人と一体化しています。感じますわ巨人の鼓動を。
『接続を確認。エラーなし。お嬢様、本機は電気駆動なので鼓動などありませんが。それはともかく説明します。本機体【ハウンドⅡ】は米軍製陸戦兵器の日本用カスタム版で――(中略)――武装として本機体には35㎜カービン銃及び20㎜拳銃を装備し――(以下略)』
早速、震電のちんぷんかんぷんな説明が始まりましたわ。正直まったく分かりませんのでイベリスに聞くことにします。
「イベリス説明を」
「はい、リリア様」
見ると……おお! イベリスまで巨人になっていますね。これはどういった原理なのでしょうか。
イベリスによるとこの巨人は人が乗って操る人形のようなものだそうです。そしてこれは戦争のための兵器だとも。ちなみに【アマテラス】にはこの機体が百機単位で保存されていて、“震電”の位置をたどって空間を移動してきたそうです。(位置ナビゲーションによる短距離空間転移技術と言うらしいです)
武器は主に飛び道具を装備しているそうです。イベリスの乗っているのと私の機体で武器が違うそうです。
あら、あらあら、なんだか体が勝手に動いているようですね、なんでしょうこれは……
『動作サポートを開始します。“ゴブリン”との位置はすでに500mを切っています。十分に射程内だと判断』
「分かりました、では私が|多連装ロケットシステム《MLRS》にて制圧射撃を行いますので打ち漏らしをお願いします、震電。」
『了解。ロックオンサークルを表示します。お嬢様、引き金を引けばその円内に弾が飛びます。フレンドリーファイヤにはご注意を』
あらあら、よく分からないうちにイベリスと震電との間で会話が成立しているようですね。そして私の視界には謎の円が映っています。……これがさっき言っていたロックオンサークルと言うやつかしら。この中に弾が飛んでいくらしいですね。“ゴブリン”ももう見える位置に来ています。えっと引き金が……
ドシュッ! ドシュッ! ――――
直後、イベリスの巨人――面倒なので2番機としましょう。勿論1番機は私です。
2番機から長細い矢のようなものが光りながら4本ほど飛んでいきます。
そうしてそれは“ゴブリン”の方に向かって行って――
ドドドドォォォォン!!!!
ものすごい爆発が起こりました。すごいですわ。これがこの武器の力ですのね。ああなってはゴブリンも、
「退路を遮断するため一部後方を狙いました。そのため前方突出している集団を打ち漏らしました。震電、排除を」
あら、前の方にいた何匹かが生き残っているようです。これを私が倒すのですね。
引き金をカチッと、
ダダダッ――!!
わぁ、すごいですわ。腕に持っている筒のようなものから何かが高速で飛んでいきます。それが視界のサークル内にとらえたゴブリンに当たって吹き飛んでバラバラになって行きますわ。
なんて……なんてすごいんでしょう。
『お嬢様、目標全滅を確認しました。射撃を停止してください。』
震電に言われて、引き金から指を離します。
後には、もうもうと上がる土煙とバラバラになった何かの残骸が残っていました。
か……快感ですわ♡
お嬢様は現地人のためロボットどころか銃火器すら知りません。1から説明すると面倒くさくなるのでイベリスさんに頑張ってもらいました。このお話一番のチートはイベリスさんです。