5話 変な奴ですわ
なんでしょうあれは……
私は茂みに隠れながらそれの動きを見ていますわ。
昨日、イベリスにお願いして流れ星が落ちたと思われる山のふもとまで馬車でやってきました。
そうして、馬車から降りて周囲を散策していたら見つけてしまいました。
見たことのないモノですわ。
目の前にはカクカクした金属のようなものがフヨフヨと浮いておりますわ。
魔物でしょうか? でも知識にありませんわ。
学園では様々なことを学びます。領地持ちの貴族も多く在籍しておりますし騎士志望の方もいらっしゃいます。ですので、魔物に関する授業なんかもありますのよ。
でも目の前の魔物は見たことがありませんわ。もしかしたら新種の魔物でしょうか。
私は声を潜めて茂みに隠れているためまだ見つかっていません。
よく観察してみましょう。
まずカクカクした体ですが、正八面体をしています。その真ん中に一つ目……真ん丸な赤いガラスの目のようなものがありますね。そうして角になっている2か所から触手のようなものがウニョウニョと伸びています。
大きさは猫ぐらいでしょうか。4~50㎝程度ですね。色は暗いグレーでしょうか。
そして全体的に生物ではなくて金属のように硬そうです。
そうしてそのウニョニョと伸びている触手のようなものの先から光が伸びています。周囲を照らす光ではなく一筋の光の線となってゆっくりと周囲を移動しているようです。
なんでしょうあれは。
冒険者の方とかに聞いたらいいのでしょうか?
ここは街からそれほど遠くなく、モンスターなどもあまり出ないため、護衛は連れてきていません。
イベリスを呼ぶべきかしら?
そんなことを思っていたらフッと影が差しました。何かと思って見ると、
「ひっ!」
先ほどの魔物? がすぐ目の前に来ていました。目と目? が合います。
どうやら見つかってしまったようです。
びっくりして大声を出すところでしたわ。……いえ、助けを呼ぶため大声を出した方がよかったのかしら。
『**********』
それが声のようなものを発しました。……口は何処でしょう?
ウニョウニョと2本の触手が伸びてきます。
ああ、囚われてしまうのね。そうして乱暴されてしまうのですわ。エロ同人みたいに。
触手が私の体を這い……ませんね。少し離れたところで触手の先から光を出しています。その光が線となって私の体の上を動いてるのですが。なんでしょうか。あと目の瞳孔? がジーとか言う音と共に大きくなったり小さくなったりしています。
あ、目からも光が出てきましたその光は私の頭に向けられています。何かの魔法でしょうか。
「――ふごっ!」
油断しました。触手にいきなりお口に入ってきました
いきなりお口なんていけませんわ。そういったことはもっと段階を踏んでから。お互いの趣味を理解しあって、
「ふごふご……」
固くて黒いモノがお口の中を動いていますわ。
すぽんっ!
あらもう終わりですの。触手が口から抜かれましたわ。
いえ、ちょっと残念なんて思っておりませんわよ。
『生体探査終了。……言語能力を獲得。小さなお嬢さん。言葉は通じますか?』
「え? ええ、」
な、なんという事でしょう。目の前のモンスターが人間の言葉を話しましたわ。さすが新種ですね。
『言語による意思疎通が困難でしたので少し強引な手段をとりました。申し訳ありません、小さなお嬢さん。』
「まあ、あなた喋れるんですのね。……あなたはモンスターなんですの?」
そうです。言葉が通じるとなれば質問をすることも可能ですね。
『モンスターではありません。ワタシはサポートAI。固体名称“震電”と申します。お嬢さん』
「さぽーと……何ですの? えっと、お名前は震電と言うのですか?」
『サポートAIです。モンスターではありません。』
さぽーとえーあいと言うのが何かは知りませんがモンスターではなかったのですね。
「震電さんはなぜこのようなところに?」
『ワタシの目的はこの惑星の調査です。そのためグリニッジ標準西暦2248年8月1日18時00分、惑星投下地域周辺において昨日夕刻に当たる時間帯に投下されました。投下地点はここから2㎞西方の山の麓です。現在ワタシに与えられた任務は惑星の調査及び現地人との穏便な一次接触です。』
どうしましょう、さっぱりわかりませんわ。
「リリア様ー!」
その時、イベリスの声が聞こえてきました。どうやら私を探しているようです。少し遠くに行き過ぎたのかしら。
「こっちよ、イベリス!」
私は手を振りながら自分の位置をアピールします。
「リリア様こんなところに――うわぁ!」
ワタシが声を上げると、イベリスが私をすぐに見つけてくれて駆け寄ってきます。……そして震電さんを見て驚いているようですわ。
「り、リリア様離れてください! モンスターです!」
イベリスはどうやらこの金属の塊――震電さんをモンスターだと思っているようですね。すぐに私と震電さんとの間に体を割り込ませてきました。
「違うのよ、イベリス、震電さんはモンスターではないのよ」
『初めまして、お嬢さん、私はサポートAIの震電と申します。』
「は、はぁ?」
震電さんはイベリスに向かいお辞儀を――触手を上手く使ってお辞儀に見えるようなしぐさをします。
「えっと、あの、イベリスです。」
その動作に毒気を抜かれたようですね。イベリスは困惑しながら自分の名を名乗っていますわ。
「あの、えっと、どういう事ですか?」
困惑したイベリスの声が聞こえますね。