4話 夜空に願いをですわ
今日は充実した一日でしたわ。
街を見て回って、冒険者ギルドに行ってギルドカードを発行してもらいました。
私は現在自室のテラスにて手にした名刺サイズのカードを空に掲げて見入っています。
名前とギルドの刻印、それと会員ナンバーだけの質素なものですが、私の身分証です。世界にこれ一枚しかないと思うと感慨深いですわね。
なお冒険者ランクはカードの色で表すそうですわ。私は一番低いランクですが別に気になりません。冒険者として生計を立てている人たちと比べれば甘い覚悟ですもの。そこまで望みはしません。
「リリア様、まだ見ているのですか?」
「あら、イベリス」
「そろそろ夕食の時間です。日も落ちてきました。夏場とは言え夜は冷えるので室内へお戻りください。」
そうですね。わりと長い時間見入っていたような気がします。部屋の中にあるランプが私が今いるテラスを明るく照らしてはいますが、気が付けば周囲は暗くなり始めています。
夜空……と言っていいのかはわかりませんが星も少しずつ見え始めています。
完全に暗くなると綺麗な星空が見えるのですよ。
月は今はちょうど真上に来ていますね。綺麗な満月のようです。
そうして月を見ていたときふと空を何かが移動しているのが見えました。
「あら、あれは?」
「え? ……ああ、流れ星ですね。」
流れ星ですか。綺麗ですわね。
あの流れ星、いつも見る物より速度が遅いような気もしますがそう言った物もあるのでしょう。
確か流れ星にお願いすると願い事がかなうという噂がありましたよね。
「健康になりたいですわ。自由に動き回りたいですわ。冒険がしてみたいですわ。」
「ああ、願い事ですか? 叶うといいですねリリア様」
そうね、私は体が弱いので元気になってお花畑を駆けまわったりしたいわ。そういった思いを込めて流れ星にお願いをしてみます。
……あれ?
「ねぇ、あの流れ星変じゃないかしら?」
そう話している間にも流れ星はゆっくりしたスピードでぐんぐんと近づいてきます。
あら?
あらあら?
そうして街の近くにある山にぴゅーん! と落ちて行って……
しーん……
何も起きませんでしたわ。
おかしいですわね。確かあそこの山のふもと辺りに落ちたように見えたのですけれど。
流れ星が地面に落ちるところなど見たことはありませんがこのようなものなのでしょうか?
「……ねえ、イベリス、流れ星って落ちても大丈夫なんですの?」
「何を言っているのですか、リリア様?」
どうやらイベリスは先ほどの光景を見ていないようですね。
私は再度流れ星が落ちた山のふもとを凝視します。が、特に何もありませんね。
「リリア様、夕飯ができたようですのでそろそろ……」
「ええ、分かりましたわ」
イベリスに声をかけられて我に返りました。何もないのであればいいのですけれど。そうして私はテラスに続く窓を閉め室内に戻ります。
やはり気になりますね。明日ちょっと行ってみようかしら。
「ねえ、イベリス、明日は少し遠出をしてみたいのだけれど」
思ったら即行動ですわ。そう思いイベリスにお願いしてみたのですけれど
「リリア様……今日出かけたばかりですよ。この街へは療養に来ているのですから……」
さすがに毎日出歩くのは不味いようですね。療養のためにこの別荘に来ているのですから。でもやっぱり気になりますわ。自分で歩かなければいいかしら?
「分かっているわ。馬車でいいのよ。別に歩き回ろうというわけではないの」
「はあ、分かりました。予定に入れておきます。」
どうやら認めてくれたようです。少し疲れたような顔をしていますね。少し無理なお願いだったのでしょうか?
「ありがとうイベリス」