2話 領地ですわ
領地にある街【アマリリス】に到着しました。
え、道中はどうしたのかって?
何事もありませんでしたわ。
昼間は移動、夜は最寄りの町の宿に泊まり順調でしたわ。途中で森の中を通った際に景色が綺麗だったぐらいでしょうか。
別荘はこの街の外れにあります。
街の入口には衛兵が立っており出入りする人たちに目を光らせております。通常、出入り自由なのですけれど、必要があれば身分証の提示を求められたりします。
あら? そう言えば私は身分証など持っていませんわ。馬車には貴族の証の紋章が描かれていますが私個人の身分証などありません。
平民の方は様々なギルドに登録してそのギルドから身分証となるギルドカードを発行してもらうそうですが。
私一人で出歩くときはどうしたらいいのでしょうか? まあ。一人で出歩くことなど今の所ありませんが。
そうして我が家の別荘に到着しました。
ちなみにお父様の領地――セルドランス領の中心街(領都)はまた別にあります。
この街【アマリリス】は自然が豊かで気候も穏やかと言うことで別荘を建てたそうです。
幼い頃はよく療養に訪れていたので街の事や別荘の事はそれなりに知っています。たまに街をお散歩などしていましたから、少数ですが街の人に顔を覚えられていたりもしますのよ。勿論、出かけるときは使用人と一緒にですが。
「リリア様、お部屋に荷物を運んでおきますね。」
そう言って私付きの従者であるイベリスが荷物を運んでいきます。衣類や化粧品等、後はお気に入りの小説などですがそこまで多くは無い筈。従者一人でも数回往復すれば運び込める量です。
「ありがとうイベリス。私は庭にいるわ」
そうイベリスに言い残すと、私はお気に入りの小説を持って別荘の庭に行きます。別荘の庭は遠くに湖や山が見え景色が良いです。
そこで木にもたれながらお気に入りの小説を読むのが好きなのです。ただ地面に座るのははしたないといつもイベリスにお小言を言われます。
でも好きなんですもん。
そうしてのんびりとお気に入りの小説を読んでいるとイベリスが近づいてきます。どうやら荷物の運び込みは終わったようですね。
「リリア様、また……せめて椅子に座ってください」
そう言って屋外に設置されているテーブルを指します。屋外でお茶を飲んだりするためのテーブルが設置されていますね。
また言われてしまいました。
渋々、テーブルにある椅子に座ります。
「お嬢様、今日のお茶はいかがしましょう?」
席に着くとイベリスがお茶の準備を始めます。今気づきましたが、どうやら茶器一式をワゴンで運んできたようですね。
「いつも通りでいいわ」
「かしこまりました」
いつも通りで通じてしまうことが、イベリスとの付き合いの長さを物語っています。確かイベリスが私付きのメイドとなってから10年位だったかしら?
ちなみにいつも通りと言うのは……何だったかしら。かなり昔から「いつも通り」で通じていたので元が何だったのか忘れてしまったわ。まあ、美味しいので良しとしましょう。
「ねえ、イベリス」
「はい、なんでしょうか?」
問いかけに答えるイベリスだが、手元の作業は止まらない。こうやって会話をしながらお茶を入れるなどもう慣れてしまったのでしょうね。
「あなたが仕える様になって、確かもう10年ぐらいかしら?」
「そうですね。確かそのぐらいだったかと」
ちなみにイベリスは元奴隷なの。伯爵家の令嬢の専属ともなれば下級貴族の行儀見習いがあてがわれたりするものだが私の場合はそうならなかったのよ。
どうも幼い頃に私の体が弱いのは呪いのせいだとかいうデマが流行った時期があったの。それで私に近づこうという使用人が激減したのです。その時にいた私付きの使用人も辞めたらしいし。で、お父様も困り果てて、最終的に学のある奴隷を買い取って専属の使用人としたらしいわ。それが今のイベリスってわけね。
イベリスは私よりも年上の19歳。褐色肌に白髪という特徴がある外国人らしいんだけれど……どうも両親はおろか出身地すら覚えていないようなのよねぇ。まあそこまで知りたいわけではないんだけれど、ちょっとしたお喋りの時とか困るじゃない?
後、スタイルがすごくいいわ。そこは羨ましいわね。特に胸とかお尻とかどうやったらそんなになるのかしら? いえ、私だってないわけじゃないのよ。でも私は平均的と言うか。
「お嬢様、どうぞ」
お茶を入れ終ったようで、スッとティーカップを差し出してくる。
「ありがとう」
お礼を言いお茶を口に含む。
ああ、いつもの味です…………銘柄が分からないですけれど。
どうしましょう。貴族としてはこういった知識も必要なのですけれど。
プロローグは第三者視点でしたが、本編はお嬢様の語り口調?のような感じで進めていこうと思います。