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1話 私、参上です

 授業終了の合図とともに教師が教室を去っていくと、教室内がざわめきだしました。


 皆様ごきげんよう。私、リリア=フォン=セルドランスと申します。私はセルドランス伯爵家の娘で、現在このエルストン王立学園と言う教育機関に通っています。

 花も恥じらう14歳の乙女ですわ。


 皆が騒いでいる理由。それは簡単な理由。

 退屈な授業も今日で終わり。明日から長期夏季休暇なのです。

 皆、明日からの予定を友人に聞いたり自分の行く場所を伝えたりといろいろとおしゃべりしています。

 羨ましいですね。私だって、


「ねぇ、リリアさん。リリアさんは夏季休暇中は何か予定があるの?」


 そう思っていたら、クラスメートの一人が声をかけてきてくださいました。ありがたいことですね。ですが、


「え、ええ、休暇中は領地の別荘で過ごす予定です。」

「そっかー、残念。もし予定が空いてるなら一緒に遊びに行こうと思っていたのに。」

「ありがとうございます。私も残念です。」

「まぁ、しょうがないよねー。じゃあまたねー」


 そう言うと、ご学友の方は別のグループの方へと去って行きました。

 そうなのです、私、長期休暇中はずっと領地の別荘に行かなければならないのです。


 私は生まれた時からずっと体が弱くて、幼いころはよく寝込んでいたそうです。ある程度成長して、普段から寝込むようなことこそ無くなりましたが、いまだに激しい運動は控えるように言われております。

 この学園へも父に無理を言って入学させてもらいました。父は体の弱い私を領地で療養させながら家庭教師を付けて必要なことを学ばせるつもりだったのだそうです。

 この学院に入るために色々と父から言われました。長期休暇は領地の別荘にて、きちんと療養するというのも父と交わした条件です。

 なお、入学試験はちゃんとパスしていますわよ。裏口入学ではありません。成績は真ん中位だったそうですが。


 と言うわけで私は明日から馬車で領地に向かいます。

 ああ、楽しい学園生活よカムバーック。


 そうしているうちに、ポツリ、またポツリと教室からクラスメートたちが去って行きます。

 さて私もそろそろ帰って準備をしなければなりませんね。


 そうして私は学院を後にしました。



 ◇ ◇ ◇



 翌日です。


 私が屋敷の前で昨日荷造りした荷物を使用人に頼んで馬車に詰め込んでもらっていた時の事


「ふん、お前は領地に行くのだったな」

「あら、お兄様。おはようございます。お見送りですか?」


 お兄様が玄関からやってきて話しかけてきました。ちなみにお兄様の名前はカッハ=フォン=セルドランスと言います。まあ、私はお兄様と呼んでいるので紹介してもあまり意味はありませんね。


「まさか。精々領地で寂しく過ごすんだな」


 そう冷たく言い放ちます。

 でも知っています。お兄様がわざわざ私を見送りに来てくれたことを。デブで小心者のお兄様ですが、こうやってちょくちょく私の様子を確認しに来てくれるのです。妹思いですね。

 ちなみに私より身長が低いことがコンプレックスなんですよ。


 ……あら? お兄様なんだか前より頭が寂しいような……。だ、だめですわよ、お兄様はまだ10代。なのに若ハゲだなんて。40近いお父様はいまだにフサフサだというのに。オヨヨ……


 ちなみに私は身長体重とも平均値を大きく逸脱しておりません。髪も毎日お手入れしているので綺麗な光沢を放っています。私だって乙女ですもの。たまにはお友達とお菓子を食べたりしますけれど、その分運動……は出来ませんが、せめて不摂生にならないようには気を付けております。朝のラジオ体操なんかもやったりするのですよ……ラジオって何かしら?


「……お前何処を見ている」


 どうやら私がお兄様の寂しい頭部を見ていることを気づかれたようです。


「お兄様さすがにその歳でハゲは……」

「ちゃうわ! 切ったんだよ! 短髪にしたんだよ!」

「まあ、そうでしたのね。うっかりさん。テヘ♪」


 握り拳を頭に持って行って首をかしげ舌をちょっと出してみますわ。なんでも殿方はこのポーズを可愛いと思うのだとか。


「そんなんでごまかされんぞ!」

「あら、私そろそろ行かなければ」


 私はそそくさと馬車に乗り込みます。私と従者が乗り込んだのを確認すると御者は馬車を動かし始めました。


「……またな」


 さっきまで騒いでいたお兄様ですが、最後にポツリとそう言ってくれました。


「ええ、お兄様も」


 そうして私は領地へと向かいました。

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