11話 新学期ですわ
季節は廻って秋
「冒険者ギルドはここか!」
冒険者ギルドの扉を壊さんばかりに乱暴に開き中に入ってくる一団がいる。リリアの兄……名前はあったようだがどうでもいい。リリアの兄とその護衛達だ。
それらの一団は周囲の足音も荒く、周囲の冒険者からの怪訝な視線を受けながら受付の方に進んで行く。
「おい、冒険者に登録したい」
「は、はい分かりました。では、こちらに記入をお願いします。えっと、後ろの人たちもでしょうか?」
受付嬢は一瞬ひるんだが、何年も冒険者などの荒くれ者を相手にしてきた者だ。すぐに立ち直り、登録用紙を渡す。
「私一人だ」
リリアの兄は、用紙をひったくると内容をすらすらと書き受付嬢につき返す。
「はい、有難うございます。ではギルドカードを発行いたします。少々時間がかかりますので、その間に冒険者ギルドについてご説明します。冒険者ギルドは――」
受付嬢は別の受付嬢に用紙を渡しギルドカードを作ってもらう間に、ギルドについて説明し始めた。しかしリリアの兄はそんなことは聞いていないようだ。
しばらくすると奥に行っていた受付嬢が返ってきた。
「こちらがあなたのカードとなります。名前に間違いはないかご確認ください」
「ふむ、間違いないようだ……だが、」
「何か問題がありましたでしょうか?」
尊大な態度と名前から目の前の人物が貴族であると受付嬢もすでに気づいている。しかしこの稼業は侮られると終わりな一面も持つため、いつもの態度で毅然として聞き返す受付嬢。
「このカード、灰色なのだが?」
「はい、貴方は登録したばかりですので最も低いランクとなります。ランクは冒険者カードの色で表されます。」
「なるほど……ちなみに金色はどのランクだ?」
「き、金色ですか!?」
びっくりした受付嬢が聞き返す。当然だ、金色などこの国で数えるほどしかいない。受付嬢自身もいまだ見たことが無かった。
「ああ、妹が領地で取得したらしい。自慢された。私もその色にしろ!」
「も、申し訳ありません……その妹様と言うのは……」
受付嬢が聞き返す。鬱陶しさ半分、興味半分だったようだが、
「ああっ! リリアと言うやつだ」
「リリア……もしや竜殺しのリリア様ですか!?」
受付嬢は仰天した。その名は冒険者界隈においてここ最近で一番のニュースだ
「なんだその羨ましい名は」
「……リリア様は他のギルドではありますがドラゴンやヒュドラ、フェンリルなどの強力なモンスターを狩り、わずか1か月にて最低ランクから最高ランクにまで登りつめた冒険者です。しかもそのお年は何と14歳と言うではないですか。ギルド職員の間では噂になっているのですよ!?」
「お、おう……そ、そうなのか」
受付嬢が興奮した様子でまくしたてる。それに若干ひるんだ兄である。
「まあ、リリア様のお兄様でしたか。ですが申し訳ありません、実績のない者のランクを上げるわけにはまいりませんので、正式に依頼を受けてランクを上げて行ってください」
「な、何だと! 貴様! 私はセルドランス伯爵の――」
「冒険者ギルドはこの国の王族にも承認されております。文句があれば王城に言いに行っては?」
「ぐぬぅ……」
受付嬢のにべもない反応に黙るしかない兄であった。
◇ ◇ ◇
長期休暇が終わり学園の生徒が教室にて顔を合わせます。皆が夏休みの思い出を語っており楽しそうですね。
ですが私の休暇の思い出も負けてはおりません。震電という新しいお友達ができたり、ドラゴンを狩ったりしましたわ。
そうそう冒険者ギルドから感謝状ももらいましたのよ。あとランクも最高ランクに上げていただきました。
私、最初は身分証がほしかっただけでしたが最終的には最高ランクになりましたわ。これで私のギルドカードは金色になったのですわ。
金色のカードを持っているのはこの国でも7人しかいないそうです。そのうち2人が私とイベリスですね。
「リリアさん、休暇はどうだったー?」
級友の方が何人かこちらに話しかけてきてくれましたわ。
「領地でゆっくりと過ごせましたわ。あとお友達もできたんですのよ」
「へー、そうなんだ」
「あたしたちは海に行ってきたんだよー」
「そこでさー、お父様たちが釣りをしてさ――」
みなさんがいろいろと話しかけてくれますね。一部の人たちは何人かで海に行ったようですね。私の領地は海には面していませんので海水浴という物はしませんでしたわ。もっともこの体では泳いだりは出来ないでしょうけれど。
「あ、そうそう、あと冒険者ギルドに行ってギルドカードを作ってもらいましたの」
「へー、そーなんだー」
「みせてみせてー」
みなさんが興味があるようなので、私のギルドカードを見せます。私だけが持っているカードですからちょっと得意げですわよ。ふふん、羨ましいでしょう。
「シンプルだねー」
「でも金色なんだー」
みなさん興味津々で見ておられますわね。私もドヤ顔しておりますわ。
「はいはい! みなさん席につきなさい!」
教師が教室に入ってきたのでこの話はここで終わりになってしまいました。
家に帰ると、イベリスがお茶を……いえ、何故か震電がお茶を入れてくれます。器用に触手を動かして茶器類を並べお茶を入れます。
お茶を口に含むとイベリスとは味付けが違いますが、十分な美味しさが口に広がります。
『お嬢様、いかがでしょう?』
「おいしいわ、震電。でもどうして?」
「私が教育しました。こういったことは覚えておいて損は無いでしょう」
横に控えていたイベリスが答えました。どうやらイベリスが指示したようですね。
『マニュアル道理に入れることは簡単ですが、主人の好みに合わせカスタムする能力は今のワタシには十分にあるとは言えません。こういったことでコミュニケーションをとりながら学んで行こうかと思います。』
「よい覚悟です震電。私の指導は厳しいですよ。」
なんだかすっかり仲良くなっていますね。よいことですわ。ただ他の使用人にはやはり震電は何か奇妙なものに映る用で距離を置かれています。
なぜでしょう確かに金属質でうねうねした触手を持っていますが……
「あらあら、リリアちゃん? ここにいたの」
お母様が私のいる部屋にやってきました。
「お母様、何かご用でしょうか」
「別に用というほどではないのだけれど……ほら、休暇はずっと別荘だったじゃない。寂しくしていないかと思って」
「大丈夫ですわ。私、今年の休暇はとっても楽しかったですわ。お友達もできましたし、なんと冒険者にもなったのですよ」
「まあまあ、リリアが冒険者。大丈夫無理はしていない。」
「大丈夫です。イベリスや震電がいますから」
お母様の視線がイベリスと震電の方に向きます。
「イベリスいつもありがとうね。それと……あなたが震電さん? まあ、本当に見たことのない特徴的な見た目をしているのね」
『お会いできて光栄です、奥様』
そう言って震電はいつものように器用に触手を使い礼をします。
「震電さんも娘をよろしくね」
『お任せください奥様。お嬢様の安全はワタシが守って見せましょう』
「あらあら、頼りになるお友達ね」
お母様がそうほわほわした答えを返します。そうなのです。お母様は私から見てものんびり屋で物怖じしない人なのです。
事実その1週間後にはお母様のお茶を入れている震電を見ました。
「そうそう聞きまして」
「なんでも旦那様の領地にモンスターが出たんですって」
「グランドドラゴンだと聞きました。旦那様は今銀ランク以上の冒険者を集めて討伐しようとしているとか」
そんな使用人たちの噂話が聞こえてきます。あらあらこれは私の出番ですわね。
「と言うわけで行きますわよ!」
「何がと言うわけなのか分かりませんが」
「震電、準備は?」
『すでにできております。お嬢様。VSTOL機用意いたしました。王都のはずれの森に隠してあります。それであれば1時間もかからずに領地につくでしょう。ではイベリス、操縦を任せます』
「は? 何――――っっ!! だから! 知識を送る時は先に言えとあれほど――ッッ!!」
イベリスが頭を押さえながら怒鳴りますがそんなことは些事ですわ。さあ、お父様の領地に行って害獣退治ですわよ!
「さあ、行きますわよ!」
そうです。私達の冒険はこれからなのです。
俺たちの戦いはこれからだ! 的な終わりですね。
というわけで次にエピローグを入れてこの話は終わりです。