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僕も異世界に行きたい  作者: 十条王子
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流星群

 いろいろな歌や詩や小説で、星は何かに例えられる。夢や目標や、好きな人。

 高校生の頃、星を好きな人に例えて、手を伸ばす歌を聴いた。とても切ない歌で、よく覚えている。

 女なんて星の数さ、なんていう台詞を聞く。数の例えとしては、いいのかもしれない。だけど手に入れたい星は、一つじゃないか。他の星が無数にあったところで、僕の見る星は、僕が手を伸ばす星は、僕にとって一番輝いている星は、一つしかない。それ以外の星は、きれいに輝いているかもしれないけれど、僕が見つめる星の代わりにはならない。

 地方都市に住んでいた大学時代。山の上にあるキャンパス周辺では星がよく見えた。流星群が極大となる日、原付を走らせて大学へ向かった。一番高台にある駐車場のど真ん中に陣取り、空を見上げる。広い敷地に、自分しかいなかった。自分しかいなかったので、地面に寝転がり、そのまま星空を眺めていた。見上げる夜空は、流星群はなくとも、息が漏れるほどの星空だった。

 光の一つに狙いを定めて、手を伸ばす。拳を握る。握ったその手に感じるものは、自分自身の手の体温と、爪の食い込む感触。自分の拳で見えなくなった星。捕まえたような気になった。拳を動かせない。開けない。

 しばらくそのままでいたあと、恐る恐る、だけどある確信を持って拳をずらせば、そこにはやはり、捉えたはずの小さな光。先ほどと何も変わらず、光り輝いている。

 拳を緩めて、もう一度、星を掴むように、拳を握る。手に感じるものは、さっきと何も変わらない。

 不意に、視界の隅で光が奔った。はっとしていると、続けざまに数本の光が夜空に奔り、すぐに消えた。願い事をする暇はなかった。僕が手を伸ばすあの星も、僕のもとに落ちて来てくれないかなと思った。焼かれても潰されても、触れられるのならばいいと思った。

 まぶしい光がこちらを照らした。車のヘッドライトの光だった。流星群を見に来た団体だろう。僕は帰ることにした。

 そういえば、星の光はとても長い時間をかけて地球に届いているらしい。だから僕が見ている星は何年も前の光なのだろうし、もしかすると、現実にはもうその星が無くなっていることだってあるのかもしれない。そんなことを思うと、宇宙の広さとか、そんな距離の星の光に手を伸ばしたところで届くわけはないなとか、そんな広大な宇宙の中であなたに出会えた奇跡とか、無限の時間の中であなたと同じ時代に生まれた奇跡とか、それをうれしく思うとか、そういえばそんな歌もあったなとか、いろんなことを考える。次の流星群はいつかなとか、折角の流星群ならば、誰かと見たいなとか、いやでも自分はこういうものを一人で見る方が好きなんじゃないかなとか。だけどあなたとは見たいなとか、あなたには見せたいなとか。一緒に感動したいなとか。思い出を共有したいなとか。

 もし流星群が地球に落下してくるのならばどうしようとか。たぶん学生時代なら、自分が犠牲になってでも地球を守ろうと思っただろう。爆弾を積んだ宇宙船に乗って、落ちてくる星に向かっていくことも厭わなかっただろう。僕にとって一番輝く星がいるこの地球を守るために、自分が宇宙の星屑となることも厭わない、むしろ喜んでそうなっただろう。

 だけど今、自分がその任務を与えられたと想像すると、「なんで僕がそんな役割を背負わなければならないのだ」と思ってしまう。どうしてだろうか。

 今度星でも眺めながら、ゆっくり考えてみようと思う。

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