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僕も異世界に行きたい  作者: 十条王子
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校庭

 僕の通っていた小学校は、今どき少ないのかもしれないけれど、土の校庭だった。登校すると、校庭はいつもきれいに均されていた。幾筋もの細い線が土の地面に一直線に引かれていて、とても美しいと思った。なるべくその美しさを壊さないように、僕は校庭の端っこを歩いて下駄箱まで向かった。だけどそのうち必ず、そのきれいな地面に足を踏み入れ、美しい波紋を乱すものがいて、僕はそのたびに憤りを感じていた。あんな美しいところに足を踏み入れるなんて。だけど僕にはそれを元に戻す方法が分からなかった。2時間目と3時間目の間の中休みにもなれば、校庭はもう多くの生徒に走り回られ、足跡すら残らないほどに荒らされ、朝の姿など見る影もない。だけど翌朝になると、また校庭は一面、きれいに均されているのだった。

 魔法みたいだと思った。自分もこんなことができればなと思った。

 図らずも魔法が使えたのは、小学4年の秋だった。僕は体育祭委員だった。組体操の練習後に、委員だけが残らされた。体育倉庫から出てきた教師の手には、「丁」の形をした大きな物体が握られていた。「丁」の一画目の横棒の部分には、ブラシが付いていた。それを渡された。委員が一人一本ずつ持つ。これは何なんだろう。教師に言われるがままに、その謎の物体を持ち、他の委員と横一列に並ぶ。後ろ手に、「丁」の字の書き終わりの部分を持って、引きずって歩き出す。後ろからざーざーと音がしている。これは何をしているのだろう。校庭の端につき、振り返った。地面が均されていた。

 魔法の正体だった。

 魔法の道具は「トンボ」と呼ばれるもので、魔法は「トンボ掛け」だった。

 まだ荒れたままの地面と対比すると、自分達が均した地表の美しさが一層際だって見えた。驚きに足を止めると、教師から止まるなと怒られた。そのままUターンして残りの部分も均すように指示された。もと来た方へ歩き出す。波紋が描かれ、校庭がみるみるきれいになっていった。

 そして後日、魔法使いは用務員のおじさんだと知った。思えば、学校のトイレはいつもきれいだったし、遊具のボールはいつも空気がしっかり入っていたし、窓はいつもきれいだった。6年過ごしていて、電球が切れたのを見たことがない。

 魔法と魔法使いの正体を知って、がっかりした気持ちがなかったと言えば嘘になる。あまりに現実的で、身近で、ファンタジー要素は欠片ほども入ってなくて、登校して校庭を見ても胸が躍ることはなくなって、代わりにおじさんありがとうと思った。僕は変わらず、校庭の端を歩いて下駄箱へ向かった。

 僕も誰かの魔法使いになれたらいいなと思う。

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